そういうのはもうちょっと、

「はやてがすき……」



「え、?」



「何回も言わせないでよ、馬鹿」



「っ…?!」



まさかとは思っていたけど、まさか律が、まさか俺を好きだなんて。ちょっと俺は半分取り乱してしまって、金魚のように口をぱくぱくさせたまま何も声を発することが出来なかった。そんな馬鹿みたいな俺を見た律は、朱い頬のまま、ふふっと微笑む。

それから、じっと、俺の目を見つめる彼女。吸い込まれそうなほど美しい彼女の碧眼は、きらきらと輝いていた。きっと、俺がああ言うのを待っているんだろう。彼女はとても恥ずかしがりやで、女王様で、天邪鬼だから。

「俺と、お付き合いしていただけませんか…?」

がっちがちに緊張した俺の、震える情けない声が部屋に響く。おずおずと差し出した右手を、彼女はぎこちなくきゅっと握った。

「あ、当たり前でしょ」

照れて目を逸らしている彼女は、まさに現代の俗に言う「ツンデレ」というやつだ。てっきり前世と同じように「私も」とか言われるのかと思っていたが、本当にツンデレな回答が返ってきてびっくりだ。まあ、可愛いからなんでもいいか。


「えと、これからどうします、?」

「勉強」

「えー」

「今日なんのために来てるの」

「勉強ですね…」

「でしょ。じゃ、早くシャーペン持って」

「うっす」


ほわほわ桃色の雰囲気は一気に勉強モードへ逆戻り。多分彼女なりの照れ隠しなんだろう、耳は真っ赤なくせして顔は澄ましている。隠しきれてないよ、律さん。

緩む頬を押さえながら俺はシャーペンを握り、教科書のまとめを続行する。これ、夢じゃないよな、本当に思いを伝えたんだよな。

律はもう、俺のものだって、言って良いんだよな。

ふと目線を上げると、目の前の律と目が合う。数秒間だけ時間が止まったようになり、俺たちはじーっと見つめ合った。これ、してもいいやつ?俺は心底戸惑いながら、律に顔を近づけていった。が、すんでのところで俺の頑張った攻撃はパリィされてしまった。

「な、なに考えてんの」

「なにって痛い痛い痛い!」

机の下で、律が俺の太腿を割と強めに抓る。あまりの痛さに俺は悲鳴をあげ、若干涙目になったところで離してもらえた。

「だ、だめ?」

「駄目」

「理由、聞いてもいいですか、?」

おずおずと俺が片手を上げて質問すると、彼女はかりかりと耳の裏を掻いた。綺麗なまつげを伏せて、目線を下に落としている。

「だって、恥ずかしいし…」

「え?」

「馬鹿」

「ひはい!ひょ、ひふひふ!!」

聞き返さなければよかったかも、そう思いながら俺は必死で律にギブアップを訴える。律はようやく落ち着いたのか、俺の頬を抓っていた手を離すと、両手で顔を覆ってしまった。

「そういうのは、もっと後にして…」

蚊の鳴くような小さな声で呟いた後、指の隙間から上目遣いで俺を見据えた。



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