お返しは律の望むままに

「へえ、看病してもらえてよかったですね~」

「そうなんだよ、ほんと律の優しいことと言ったら…」

昼休み。サボり図書委員改め、隣のクラスの親友、総くんと昨日のことについて廊下で喋っていた。倒れたらしい俺を優しく看病してくれて、本当に感謝で胸がいっぱいだ。それに、なんだか彼女と俺の心の距離も少しずつ縮まっているような気がする。今世でも二人仲良く並んで、一生を添い遂げることが出来るんじゃないか…?と淡い期待を胸に抱く。まだ理想の範囲内だ。

「優しくしてもらったんですから、お礼をしないといけませんね。どうするんですか?」

「お礼か…どうしよう」

「デートなんてどうです?」

「ふざけるのはよせよ!」

俺が軽めに彼の肩を叩くと、彼はからからと楽しそうに笑った。総くんは「総司くん」の時から冗談を言ったり揶揄ったりするのが好きだ。俺ははあ、とため息を吐きながら、廊下の窓を開け放った。

ふわり、とあたたかな春の風。総くんと俺の髪をふんわりと揺らした。窓の手すりに突っ伏して、俺はどうしようかと考える。

「やっぱり、律さんに聞いたほうがいいんじゃないですか?」

「そうだよな…そっちの方がいいか」

総くんは、俺の髪についた桜の花弁を取りながら、にこりと明るく笑った。




***




「あの~律さん、」

「何?改まって」

お弁当を食べ終えたらしく、窓の外をぼんやりと眺めている彼女に声を掛ける。さらりと長い黒髪が揺れて、律が俺に振り向いた。

「昨日のお礼がしたくて、なんかしてほしいこととかあります…?」

おずおずとそう問うと、彼女は静かに瞬きをする。そして、桜色の唇を開いた。

「別にいいよ。私は颯にお返ししただけ。覚えてるでしょ?あの雨の日の事」

「ん、まあ、そうなんだけどさ」

もごもごと言いよどむ俺。ここで諦めれば、律との関係の発展は終わってしまうかもしれない。こんな不純な考えで申し訳ないが、彼女の優しさに報いたいといった気持ちもまた本心。俺にできることなら、何でもしてやりたい。

そんな俺の本心が伝わったのか、彼女は群青の双眸で俺を見つめ、ちょっと困ったような顔をした。かわいい。なにか考えるように首を傾げた後、彼女の机の中から一枚のプリントを出した。そして、俺の机に優しく広げる。

俺の目に一番最初に飛び込んできたのは、「第2回池町市陸協記録会について」という他の文字より少し大きくなっている一文。池町というのは、俺たちが通っているこの学校がある市のそこそこ近くの市名。ここで陸上の大会が行われるということなのだろうか。

「これに、応援しに来てよ。自己ベスト出せるように頑張るから」

「は、はい…」

俺の応援で、果たして力になれるのだろうか、?

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