天邪鬼な前世の奥さんは、今世でもツンデレだった。

プロローグ

「父様、母様。できていますか?」

「もうちょっとしっかり握ったほうがいいよ。背筋伸ばして」

「はいっ!」

艶やかな黒髪を一つに結び、結び目にはいつか俺があげた髪紐。凛とした顔立ちと落ち着いた声色が、俺はとても大好きだった。縁側に腰かける彼女と俺は、愛娘の剣術稽古を眺めている。 

愛娘は真剣な顔つきで木刀を振り、そのたびに母親と同じ色の髪がふわりと揺れる。瞳の色は、涼し気な漆黒。

俺はこの愛娘と、隣に座る愛しい彼女と過ごす毎日がとても大好きだった。




***



ピーピーと目覚まし時計の電子音が聞こえ、俺は反射的に手を伸ばして目覚まし時計を鷲掴みにする。眠い目をこすりながらスイッチを切ると、時計はピーピー鳴くのをやめた。

「今日もあの夢見ちゃったよ…」

はあ、とため息を吐くと、俺はベッドから立ち上がる。顔を洗って、歯を磨いて。今日から晴れて高校生になる俺は、高校の制服に恐る恐る袖を通した。ネクタイをきゅっと締めて、鏡の前で確認する。よし、OK。

朝ごはんをゆっくり食べて、鞄の支度をする。玄関先で靴を履くと、俺は母親に行ってきますと声を掛けた。

誰にも言ったことはないけど、俺には前世の記憶がある。

時々ああいう風に夢の中に、自分の奥さんと愛娘が出てくる。今でもその奥さんのことが、めっちゃ好きだ。会えない故に、好きすぎてつら…気持ち悪いので自主規制をしておこう。どういう風の吹き回しか、俺は前世と同じ名前で生まれ変わった。勿論苗字も同じ。もし前世の奥さんも俺のことを探していたら、一発で分かるんじゃないかな。

そんなことを考えていたら、入学式はあっという間に終わった。こういう式って、先生の話が長いから本当に困る。

そしてクラス分けの発表がされて、俺は新しい教室に入り席に着く。新しい学校に制服、そして新しいクラスメイトに……


「暫く席隣みたい。よろしく、颯君」


しかし隣の席は、全く新しく無い。前世の記憶が俺に蘇ってから、ずっと夢に出てきたあの顔。つまり隣の席には前世の奥さんが座っていた。



「よろしく、律」


「…なんで呼び捨てなの、?」

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