隣の席の女の子
「よろしく、律」
「…なんで呼び捨てなの、?」
思わず夢の中のテンション+驚きと緊張で話しかけてしまい、彼女は怪訝な顔をして俺にそう問うた。俺は荒れる
「な、なんか従兄弟に同じような名前の人がいて…ごめん」
「ふうん。別にいいよ、怒らないし」
彼女は頬杖をついて窓の外を眺める。彼女の席は、教卓から見て一番右の列の一番後ろ、つまり窓際の席。その隣に俺が座っているのだ。というか、さっき俺の名前呼んでくれた?
「えと、なんで俺の名前…」
「座席表、見たらわかる。
彼女は顔の向きを変えずに、そのまま淡々と答えた。さっき電子黒板に一瞬だけ映った座席表なのに、隣の席の俺の名前まで見ていてくれたのか。ほんと、言動によらず優しすぎる前世の奥さんだ。
俺がそんな感じで感慨にふけっていると、彼女はそっと静かに俺に顔を向けた。きらりと煌めく群青色の双眸に見つめられて、俺は耳までふんわりと火照らせる。
「私、
「うん、よろしく」
それが、彼女との邂逅。向こうは俺のことは覚えてないみたいだった。まあ仕方ないよな、前世の記憶が蘇ったなんて俺くらいだろう。もしかしたら、なにかがきっかけで蘇るかもしれないけれど。
ちょうどその時、担任となる先生が教室に入ってきた。あとで顔を合わせて喋るまで、俺はその先生が「
一体この高校だけで、前世からの生まれ変わり何人と出会えるのだろうか。スタートからかなり期待が高い。
残るは、「伊吹葵」「伊吹大河さん」「東さん」「沖田総司」「斎藤一」「その他新撰組の皆さん」あとは…「郁馬凪」もどこかに居るのだろうか。俺はここから、皆の幸せを願っておこうかな。けど、いつか会いたい。
***
高校入学から早一か月。入学したてでどたばたしていた時期がようやく落ち着き、部活も通常運転で始まることに。ちなみに俺は剣道部に入部した。前世のように剣を振りたいと思ったのと、剣術が本当に好きだったから。律と出会う前は、道場で師範、
ちなみに律は、陸上部に入ったらしい。おずおずと訊いてみたら答えてくれたし、俺の所属部活も訊き返してくれた。彼女と隣の席なのは本当に嬉しい。だけど、今の彼女の瞳は氷のように冷たく鋭い。優しいのは優しいのだが、誰も信用していないような瞳をしている。まるで、初めて会った時のようだ。前世でもそんな瞳をしていた彼女を、俺がしつこく追い回して色々喋っていたんだっけ。
「今世でも、傍に居たいな…」
夕方。そうぽつりと呟いて、俺は自転車で帰路を辿る彼女を眺めていた。みるみる彼女の背中が小さくなるにつれ、俺の胸はすこしだけつきっと痛んだ。前世の彼女を俺は知っているけど、前世の俺を彼女は知らない。そんな切なさに、思わず涙が出そうだった。
俺は、今でも君が好き。だから、振り向いてほしいんだ。
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