🈡️斎藤と律と俺

「そうかそうか、なるほどなあ~」

にやにやした顔で微笑む葵衣と総くん。ある程度の質問には答えたけど、「うん」が「ううん」でしか答えていない。なぜなら律との事だし、そんな簡単に口外したくはないと思ったから。これで満足したよな?早く律の元へ返してくれ…

「で、デートはいつ行くん?まさか、いつか行く、なんて言わへんよな?」

「えぇ…そんな予定まで教えられるかよ」

「もーなんにも答えてくれへんやん~」

まあ、予定が無いわけではない。誘えていないだけだ。

実を言うと今週末に、水族館デートにでも誘おうと思っている。女の子と出かけるのだって初めてだし、今の律は何が好きかとかまだあまりわかっていない。けど、俺なりに頑張って考えた結果が水族館だったのだ。律に行きたいところを聞いて行くのもいいが、気を使って律にデートプランを考えさせてしまうことになる。それだけは絶対に嫌だ。あくまで律をエスコートして楽しませてあげたい。これが俺の意地ってもんよ。

「葵衣に教えられるかよ。お前口軽そうだし、」

「な訳ないやろ〜うち秘密は守るで?」

「いやあちょっと、」

「なんでやねん」

びしっと関西弁でツッコミを入れたところで、葵衣は収穫なし、とげっそりした顔で帰っていった。なんか申し訳ないが、律のことはそう簡単に話したくない。めっちゃ好きだからな。

そうこうしていたら、職員室へ呼ばれていた律が戻ってきた。部活の連絡があったのか、プリントを片手に斎藤を引き連れて帰ってきた。なんであいつ隣にいるんだよ。

「おかえり、部活のこと?」

「うん。記録会の参加費の話された」

「おーそっか」

俺が少し律に近寄って喋りかけると、彼女は表情を崩さずしれっと答える。長い黒髪が、どこからともなく吹き込んだ風にふわりと浮いた。

「律、今度道具の準備は手伝わなくていいか?」

斎藤が律に話しかけた。そうやって俺のわからない話をして、律を独り占めにしようとする。全く、どんだけ敵対視してるんだよ。

「あんたの手伝いはいらない。私一人でいい」

「可愛げがないな、甘えておけばいいものを」

「あんたに可愛く見せてどうすんの。意味ないし」

お見事律さん、華麗なカウンター二連撃。斎藤のライフはほぼゼロだ。ちょっと気に食わないのか、顔がむっとなっている。それに対して律はずっと澄ました顔。なんだか斎藤がかわいそうに思えてきた。

「お前がかわい子ぶって無くても、俺はお前の可愛さを知ってる」

「え、なにそれ気色悪」

「ふっ、」

斎藤の発言から一気に周りの温度が下がり、俺はその空気に耐えられずに吹き出してしまった。まじで面白い。ごめん斎藤。一方の律はかなりドン引き。眉間にシワが寄っている。そんな顔もなんだかかわいいと思えてくる俺は、きっとちょっとにやけているだろう。

「頭打った?」

「打ってない」

「ふうん」

ふいっとよそを向く律と、残念そうな顔をした斎藤。なんだか斎藤にあと一撃くらい食らわせたくて、俺は律の肩をちょん、とつついた。

「なあ律、今週末にデート行かないか?水族館に」

振り向いた律は、俺の言葉にちょっと目を見開きつつ、群青の瞳を輝かせた。いつもきゅっと結ばれた口元が、緩く綻ぶ。

「うん、行く」

きらきらした目を俺に向ける律のかわいさと言ったら、どんな言葉でも形容できない。普段の落ち着き度と比べて、明らかにテンションが高いことが手に取るようにわかる。すごくかわいい。

「よかった。じゃあプランはこっちで決めるから、決まったら言う」

「うん、ありがと」

そう言って微笑む彼女の頭をぽんと叩き、優しく撫でた。あまりのかわいさに、俺の理性が持たなかったのだ。いつもなら腕を払い除けて、「頭撫でないで」という律が、今日だけは違った。

「ん、」

まんざらでも無さそうな顔をして、頬を朱に染めている。目を細めて嬉しそうにしている様子は、俺の胸をぎゅうぎゅうと締め付けた。今すぐここで律を抱きしめてしまいたいという欲を抑え、立っていることで精一杯。からかおうと思っていた斎藤のおもしろい顔を、まんまと見逃してしまった。

どうやら俺の前世の奥さん…いや、今世の現彼女に、デレ期がやってきたようだ。



おわり




最後まで読んでくださってありがとうございました。

終わらせたくなくて大分拗らせてしまいましたが、無事最終話を書くことができてよかったです。

このあと律と颯がどんな感じに水族館デートしたのかは、あえて書きません。みなさんのご想像がどれも正解となります。ご自由に想像して、楽しんでほしいです。

(二次創作も大歓迎です)

長いお付き合いをありがとうございました。

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天邪鬼な前世の奥さんは、今世でもツンデレだった。 @mamerock6

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