ゆきおんな

 独りきりで山道に迷い吹雪いてきた夜、薄着の女がぬっと眼の前に現れたらそれだけで心臓がとまるかもしれない。
 雪女。
 このよく知られた昔噺の妖怪を無理なく現代に差し挟むには、その前に、彫りものというかたちでしどけない女の姿を見せる必要があった。
 それは観音さまの刺青だ。
 虐待されて凍えている少年の前に観音さまはやってくる。

 美女にふっと吹きかけられる氷のような息。

 妖怪はまだ日本にいるのだろうか。
 もしまだいるのなら、彼らが留まっている時の隙間を、わたしにも見せて欲しいものだ。
 雪女はそこにいる。
 電気が消え、街が遠ざかり、しんしんと雪の積もる真っ暗な山間に、白い着物をひらめかせて風に消える雪女。
 その女の後ろ姿を、ひとひらの雪の影を掴み取るようにして書き留めた秀作。