第8話 捕虜は、返さない
「カイト、悪い知らせだ」
魔人との戦争からしばらくが経った頃、カイトの部屋にオーウェンが現れた。
悪い知らせだというので、身構えながら聞く。
「魔人側は、捕虜を返さないつもりらしい」
詳しく話を聞くと、それは魔王が倒されたことに起因するようだ。
魔王が倒されたことにより、国力は圧倒的に低下。今人間側と戦争をしてしまっては、大敗すること間違いなし。
それを防ぐため、捕虜を人質としているようだ。
「でも、捕虜を無視して戦争を仕掛けられたら向こうはたまらないんじゃないか? しかも、捕虜が返されないからっていうのは戦争を仕掛ける口実としてちょうどいいだろ」
「それが出来ないことを読んでるんだろう」
「俺が言うのも変な話だけど、どうして出来ないんだ?」
「今捕虜になってる者たちの中には、リアと同等、国家最高峰の実力を持つ戦士たちが複数いる。王国は、他国への圧も考慮するとそれらは捨てられない」
魔王国と王国の話ばかり話題に上がるが、この世界にある国はそれだけではない。ここで大きな戦力を複数失うわけにはいかないのだ。
カイトは理解したが、納得は出来なかった。
そう簡単にリアは帰ってこないということを知り、俯く。
「国王陛下も同じことを思っているらしい。……実は、捕虜を救い出す部隊が編成されているんだ」
カイトは顔を上げた。
「呼び出されてその話をされた後、個別で俺にだけ言われたことがある。カイトを、呼んで来いと」
カイトは鞘にしまった剣に手を伸ばす。
「待てカイト、焦るな。なにも今すぐ行くってわけじゃない」
「いつだ」
「明日」
十分急じゃないか、と思う気持ちがありつつも、早くリアを助け出したいという気持ちが強い。
「ああ、でも――」
あの日のことを思い出す。
「俺、弱いからリアを助けられるかわからない……」
あの時、なにもかもを蹴散らしてリアを助け出す力を持っていたら、二年間もリアと離れることにはならなかった。
力があれば。
「弱くてもいいから来い。お前でも足しにはなる」
オーウェンの言葉は案外厳しくも、的を射たものだった。
カイトは黙ってうなずく。
運命の日の朝がやってきた。
「カイト、寝れたか?」
「ああ」
あの後、カイトは思いのほかよく寝ることができた。
徹底的に自分を追い詰めたら、疲れてしまったのだろう。
周りを見渡すと、双頭竜時代に共に戦ったこともあるような、錚々たるメンツが揃っていた。
「ほぼ全戦力じゃないか」
「それだけ安全策を取りたいってことだろう」
「他国からの防衛は? 金級ほぼ抜きで出来るのか?」
「俺たちが捕虜を奪還しに行くって情報は、どの国にも漏れてない」
さっさとリアたちを奪還して蜻蛉返り。そうすれば、敵に攻められる前に王都に戻れる。
「気合、入れてくか」
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