第1話 俺、弱いので
「無理だと思います。俺、弱いので」
ホークはそう言って、チームへの誘いの言葉を断った。
「カイト、良さげだと思ったんだけどな」
チームのリーダーがそう言う。
カイトとは、リアを二年前に失ったホークの偽名だ。
世間から金級として評価されていた当時と違い、カイトの世間的な評価は、石。完全無名。
なぜそうなってしまったのか。
「俺、もうなにもしたくないので」
「若いのに諦観してるねえ」
ホークがこれまで生きてきたのは、リアと一緒に高名な戦士になって、その名を故郷に知らしめるためだった。
それが、リアを失ってしまった。ホーク一人で高名な戦士になっても意味はない。
「ま、残念だけど諦めるよ」
「それがいいと思います。俺の代わりはいくらでもいるんで」
カイトはリーダーを追い払い、手頃な依頼を物色する。
高名な戦士になることは諦めたが、仕事をしないと生きていけない。
双頭竜時代の貯金は山ほどあるが、リアと二人で稼いだ金に手をつける気にはなれない。
だから、石級や鉄級の戦士でもこなせるような依頼をだらだらとこなし、生きるに困らないくらいの金だけを稼ぐ。
「戦士組合からの通達だ。明日朝に王都門前に集合だとのことだ」
「了解」
カイトはそれだけ言う。
一見依頼に同意したかのように見えるが、そうではない。
カイトは組合からの集団依頼の場合、参加せずに安宿で一日を過ごすことが多い。
怠惰ゆえではない。
その一面もあるが、なにより怖いのは、その実力を知られること、そして他の戦士に自分がホークであると知られること。
カイトは石級戦士だ。もとは金級だったホークが、石級まで落ちぶれたという噂が流れ、故郷まで届くのは、カイトの最も恐れるところだ。
幸い、組合からの通達はあくまで依頼であり、参加を強制されるわけではない。カイトはなんの処分も受けずに宿に引きこもることができる。
そのはずだが、カイトの泊まる部屋の宿がノックされる。
カイトは、リアを失ってから二年間同じ部屋に泊まり続けているので、組合側にもカイトがそこにいるということは把握されている。
「カイト、いるか?」
しかしカイトの部屋の扉を叩いたのは組合の職員ではなかった。
最強のソロ戦士、オーウェン。
カイトがホークであることを知っている、唯一の人物。
「入ってくれ」
カイトが入室を許可すると、オーウェンは部屋の扉を開けた。
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