第2話 左目に眼帯
「半年振りだな、カイト」
「そうだな」
「左目のその眼帯……怪我したのか?」
オーウェンはカイトに訝しげに訊く。
カイトは石級や鉄級の依頼ばかり受けているが、その実力は金級。石級や鉄級の依頼でカイトが目を怪我することはあり得ない。
集団で依頼を受けて、力を隠さなければいけなかった場合は怪我することはあり得るかもしれないが、それで大事な目を傷つけるとは考えづらい。
「これは怪我じゃない」
「じゃあ、なんだ?」
「魔眼を隠してるんだ」
オーウェンは首をかしげる。
魔眼なんて、聞いたことがない。
「そうだな、話すと長くなるけど――」
二ヶ月ほど前、カイトは興味深い噂を聞いた。
王都からほど遠い地方都市の郊外にある泉の精霊に魔眼を授けられたという男の話だ。
魔眼は、魔人と同じ目。長年の魔人研究により、その目の性能は人間の目より高いことが明らかになっている。
カイトは今より強くなるべく、その泉へと向かった。
泉への道は険しく厳しいものだったが、カイトはなんとかそこを踏破。
たどり着いた泉に、精霊はいなかった。
(精霊は常時姿を見せているわけではないのか……なにか条件がある? いや、面倒くさい。脅そう)
ジャイアン的思考により、最悪の結論にたどり着いたカイトは、早速行動に移す。
「精霊、聞こえているんだろ。今すぐ出てこい」
当然、それだけで精霊が姿を現すわけもない。
しかし、カイトにはまだ考えがあった。
「出てこないと、泉の周りを焦土にする」
カイトは、精霊と泉の周辺の森には結び付きがあると考えた。
その予想通り、精霊は姿を現す。
「なんてことをしようとしているの。見たところでは、かなり魔力も多いみたいだし、本当にやろうとしてたの?」
「もちろん。この森があろうがなかろうが俺も他の人間も気にしないからな」
現れた精霊は、見目麗しい女の姿をしていた。
「で、お前は人間に魔眼を授けたと聞いた。俺にもくれ」
「あげるわけないじゃない。そう易々と渡せるものではないわ」
「くれないならお前の存在を滅ぼす」
また脅迫。
話を聞いたオーウェンの顔は引き攣った。
「精霊が剣や魔法で滅ぼせるとでも?」
「できるさ。なんならやってみるか?」
「魔眼ね。右目か左目どっちがいい?」
精霊は、容易く屈した。
「そうだな……」
カイトは双頭竜での戦い方を思い出す。
敵の前後から攻撃を仕掛けることが多かったが、二人で正面から攻撃する際は大抵カイトが右に立つ。
カイトが右利きで、リアは左利きだからだ。
となれば、リアがカイトの左に立つことになる。
ならば、魔眼が欲しいのは、右目。
だが――
「左目」
カイトはそう言った。
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