第3話 魔眼を強盗

「左目ね、わかったわ」


 右からの攻撃を知るより、左からの攻撃を知りたいと思った。


 リアを、守りたいから。


 カイトは苦笑する。


 リアはあくまで仲間なんだけどな。


「魔眼を授けるから、左目に触らせなさいよ」

「くれぐれも変なことはするなよ? 右腕だけあれば俺は剣を振れるからな」

「もちろん」


 精霊が、左目に優しく触れる。


 眼球が作り替えられていくような感覚。しかし、不思議と痛みはなかった。


「できたわ」

「お前が差し出せるものはこれで全てだろうな?」

「あなたは質の悪いカツアゲをしているの……?」

「違う、少しでも強くなりたいだけだ」

「わたしが差し出せるのは、これだけよ」


 精霊の言葉に、カイトは剣を鞘から抜く。


「本当だな?」

「本当よ。……だから、剣しまいなさい」


 精霊の言葉に嘘らしさは感じられなかったので、カイトは剣を鞘に戻した。




「ってわけ」

「お前、やってること強盗じゃん」

「……」


 カイトは静かに目を逸らした。


「で、今日の組合依頼も受けないのか?」

「受けない」

「今日の依頼、魔人側との交渉の護衛だから、リアを取り戻せるチャンスがあるかもしれないんだけど」

「行く」


 オーウェンの言葉を受けて、カイトは即答した。




 カイトが王都門の前へ向かうと、既にそこには多くの戦士たちが集まっていた。


 そして、その中心部には国の騎士たちが隊列を組んでいる。


「戦士たち、聞け!」


 騎士のうちの一人が、声を張り上げる。


 戦士たちの喧騒が、途端に静まり返った。


「貴様らはあくまで護衛である! 勝手な行動は慎むように!」


 戦士たちは困惑しながらも、国からの命令である以上うなずく。


「オーウェン、どうしてこんな人数の護衛が必要なんだ?」


 ただ護衛するだけなら、騎士たちだけで問題ないはず。


「今回の交渉では、両国の国王が直々出向くことになっている。その上、護衛の人数制限がない。多くの護衛が必要な上、護衛は多く連れていくだけ有利になる。だからわざわざ戦士に頼ってまで護衛を増やしたんだ」


 なるほど、とカイトは相槌を打つ。


 これはカイトが想像していたよりも重大な依頼だったようだ。


「その点では、カイトが来てくれてよかった。万が一戦闘になった際、カイトがいるのといないのとでは大違いだからな」

「いいや、俺がいてもいなくても関係ない。だって俺、弱いから」


 オーウェンは苦笑し、首を横に振った。


 先頭の戦士たちが歩き始めた。

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