第9話 俺たち、強いから
「まずカイトに伝えなければならないことが一つだけある」
オーウェンが口を開き、カイトはオーウェンの方を向いた。
「リアを見かけても、すぐには突っ込むな。状況を俯瞰して、他の戦士たちと十分に検討してからだ」
「……もし俺が突っ込みそうになったら、止めてくれ」
その時俺は正常な判断なんてできないだろうから、と付け加える。
オーウェンがうなずき、周りの戦士たちにもそれを伝える。
それをはじめとしたさまざまな注意事項が戦士たち全員に念入りに伝達されると、戦士たちは王都を出発した。
道中は戦士たち同士で喋っている場面が多く見られたが、カイトは一人で黙々と進んだ。
「戦闘態勢」
戦士の一人が告げる。
「気づかれる前に、殺せ」
風の刃が、敵の首を一瞬で切り裂いた。カイトの風魔法。
ここはもう既に魔人の領内で、先ほどまでと同じくらい騒いだりは出来ない。
「よくやった、カイト」
「いえ、俺弱いので、これくらいしか」
周りのカイトを見る目は疑問に満ちていたが、彼らは気にせず進んだ。
「そろそろ魔王城だ。魔王はいないが、気づかれるな。捕虜を殺される」
しかし、城の中に気づかずに進めるような場所はあるのか。
「お前の魔眼。透視もできるよな?」
「ああ」
「最小限の殺しで、最速で到達する」
「右に曲がれ、左の壁の向こうに敵がいる」
「了解」
「ここは直進で大丈夫。殺すのは一人だけ」
先頭を走りながら小声で指示を出す。魔眼ってすごい。
「直進だ。——リアがいる」
魔眼を使わなくても、ほのかに感じるリアの気配。
「後ろ、敵が押し寄せてる!」
オーウェンが叫ぶ。
「戦闘に移れ! カイトは先に進め!」
オーウェンの指示を受け、カイトは最速でリアの元へ――
「リア」
リアは、眠っていた。
「リア、起きろ」
「……!」
目の前にカイトがいる。その状況が現実だと信じがたい。
「今魔法で檻を破壊する」
リアは意図を察して檻から距離をとる。
カイトの爆炎が、檻を破壊した。
「武器はあるか?」
「ない。大した食事もくれなかったから栄養が足りない。睡眠は取れてるから疲れは少ないけど、空腹が」
カイトは無言で、持っていた保存食の硬いパンを差し出す。そして、リアのために持ってきた剣も。
リアは急いでパンを口に含むが、なかなか足りない。
「カイトが戦えるようになるまで、耐えろ! 下がれ下がれ!」
戦線が、じりじりと下がっていく。敵の増援も止まない。
「ありがとう、ホーク。もう戦える」
リアの言葉で、カイトの偽名の鎧が解けた。
「カイト、いけるか?」
「大丈夫。俺たち、強いから」
左に、リアを携えて。
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