第18話 秘策!
朝陽視点
目が霞む、体は重いし左腕は動かない、息も絶え絶えで、油女さんの猛攻をいなすだけでやっとだ……。
私は彼女の振り回すバットを紙一重で交わし続けた。しかし倉庫内で回避し続けると、次第に壁際に追いやられ、その度に彼女のすれすれを移動しなくてはならない。だがそれも時間の問題……今まさに倉庫内のコーナーに追い込まれ身動きできない状況、体力的、気力的にもここでけりをつけなければ。
苦しい、ローダー(弾薬装填器)も使い果たして、残弾数は一。残り一発の弾丸で起死回生の一撃を彼女に与えなくてならない。だけど油女さんのバイタリティーが異常に高いのは何故だろう? 蝕死鬼になれば、人の域を超えた動きが可能なのはわかる……だけど、彼女はそれ以上、私が不意をつかれたと言うのを抜きにしても、ここまで私と戦える蝕死鬼は稀、なのにタイミング悪く命さんまで巻き込む事になってしまうなんて、ついてないですね。
「困りました……万事休す、ですね。この一発で貴女をどうこうできる自信はありません」
拳銃に重さを感じるなんて、いつ以来だろう? 拳銃を構えた手が小刻みに震えている。
「でも……私ができる最善を尽くします」
命さん貴方のことです、ちゃんと霊域から脱出できたと思います。きっと優しい貴方は慌てて先生に連絡をしたでしょう、でも先生は易々とあのビルから出る事はできない……だけど、先生が来た時の為に最小限危険が及ばないよう努めます。
彼女は私に正対しバットを引きずりながらジリジリと距離を縮めてくる。私は照準を合わせる、震える手と油女さんの歩く時の振動のタイミングを測り、カウントする。
三、二、一、ズガァアアンッ!!
銃声が響く、が彼女は身を捻るわけでもなく歩を止め立ち尽くすのみで外傷は見当たらない。それもそのはず彼女を狙ったわけではない、私の狙いは武器。
彼女のバットは中心より下辺りから折れ、グリップの部分は鋭利にささくれて残っている。
私の狙いは武器破壊、先生だったらバットの一つや二つ、ものともしないと思われますが、念には念を、転ばぬ先の杖。
拳銃を手放す。
さてこれで、後顧の憂いは晴れました。最後まで人のお役に立てて私は嬉しい……命さん、短い間でしたが存外悪くなかったですよ。取るに足らない貴方のジョークは玉に瑕ですけど、楽しかったです。少なからず私は同じ穴の狢以上に友人だと思ってました、命さんはどうかは知りませんけど。でも楽しくて、一緒にいる事が気兼ねなくて、こんな私でも面と向かって接してくれる。きっと私がちゃんと学校に通っていて、クラスで知り合っても同じ調子で接してくれるって思わせてくれる命さんは、私の人生に必要な人、そんな気がします。まだはっきりとはわかりません。だからできれば、もう少し時間があれば、この気持ちに確証を持ちたかった……そんな事を思うのも私にしては贅沢かもしれませんね。
ゆっくりと近づく油女さんは、バネを縮ませるようにぎちぎちと足を屈伸させ私に折られたバットの鋭利な部分を向け突進する構えをとっている。
これは避けられませんね……思い残す事と言えば、
この生業を始めてから死を受け入れる覚悟は、とうにできているつもりだったけど、いざ目の前にするといろんな事が心残りになるんですね……悔しいな。
"死"受け入れようと目を閉じた瞬間————
バァーーーーーンッ!!
まるで何かが弾け飛ぶ音がけたたましく響いた。
音の発信源は多分外からだろうか? 予想では私達が入ってきた入り口の方から聞こえたような気がする。
距離的に入り口の方は薄暗い、だけど誰もいないはずの場所からバシャリバシャリと一定のリズムで地面を弾く足音がする。
まさか……——?
「へいへいへーーーいっ!! 油女ころもぉ積年の怨みはらしに来たぞ!! ゲホッゲホ」
……うわぁ、せっかく逃してあげたのにあの人一体なにしに来たの……? しかも刀を肩に乗せて登場っていつの時代の不良ですか、終始ダサい……ダメだ命さんのせいで気が抜けて意識がおち……。ドサリと地面に卒倒した。
「朝陽!? 朝陽いいいいい!! 油女お前よくも朝陽をこんなボロ雑巾にしてくれたな!! 許さん! 許さんぞお!!」
最後の止めはお前だよと、内心突っ込むが私の意識はここでブラックアウトした。
continuation————。
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