第11話 揚げ物はお好きですか?
お惚け荘で起きた事件から数日が経過し、僕は普通に学校に通っている。
訊けば、朝陽は学校には通っていないらしく理由は、一言「忙しいんです私」だけだった。なんとも怪しい回答である。
まあともあれ、普通の日常に戻れたのはいいのだが、霊というのは、至る所にいるのだとわかった。僕の場合かなり感覚が鋭いらしく、霊がはっきり見えすぎてしまって生きている人間との区別が今だについてない。ただ死んだ直後の体が霊体として現れるため、交通事故で亡くなったとかであればグロテスクではあれど、損傷がある分見分けがつく。ちなみに朝陽は霊体がやや透けて見えるらしい。
朝陽曰く霊の存在を視認するのはいいが、霊に反応しては駄目、存在を認めたことになるとか。だから僕が病院で見た霊達は「見えてる」と言っていたのだろう。
お惚け荘での事件では、毒島さんに憑依していた悪霊が完全に癒着した姿が蝕死鬼なのだが、それも段階があり、徐々に憑依者を蝕み、最終的に自我の崩壊を迎え、人を喰らう化け物になる。
ここ暫くで起きたことが現実離れしすぎて僕の頭の中でも情報が処理しきれていないと言うのが現状だけど、ここ数日は朝陽とのレッスンで不遜な霊達が彷徨う心霊スポットなどに行き、悪霊退治の手伝いをしたりと、何度か死にかけるはめにはなったけど、朝陽様のおかげで事なきを得ている。
ただ区別がつかない霊に対して、反応するなと言うのが難しそうではあったけど、僕って友達とか顔見知りとかいないに等しいから、ぶっちゃけこまんねーんですよ。少ない顔見知りさえ覚えておけば、それ以外は悪霊みたいなもんだし、普段通りでおーけーおーけーってなわけで一週間以上、学校を休んだけど誰一人僕のこと気づいてなかったよね。大丈夫! 全然寂しく無いよ! 普段通りのI am air! so good!!
学校生活が消化試合すぎて、語れる事がないのが申し訳ない。強いて言えば、学校にも沢山の霊がいて、僕の事めーちゃっガン見してきて全然っ孤独感なかっなぁ……マジでこれからずっとこの生活なの?
しかもわざわざ僕の目の前に飛び降り自殺したような外傷の霊が現れた時なんて思わず悲鳴あげちゃって逃げるはめになるし、遠巻きから見て分かる霊を避ける様にして歩いてるから、霊が見えない人間からすれば僕の方が不審がられて、悪目立ちするはで、散々だよまったく。
とまあね、僕の学校復帰は中々に大変なわけだよ。今もこうして学校終わりにそのまま『賢者の堂』に向かって、こき使われる予定だ。
メインストリートの往来を避け、暗然たる路地をぬければ『賢者の堂』が所有する廃ビルに到着だ。いつ見ても不気味で近寄りがたい様相を醸し出しているんだよなぁ……こんな店構えで依頼とかくるのか? 仮にも探偵事務所だろ? 色々と改善点がありそうだ。
僕は薄暗い階段を上がる、すると。
「佐野くん?」女性の落ち着いた声色が背後から聞こえて。
さのくん? はて誰だ? ああ僕か、呼ばれなさすぎて自分の名前忘れてた。振り向くとそこにいたのは。
「…………お前」
「佐野くんどうしてここに?」
栗色の長い髪を一房まとめた髪を肩から垂らし、ブラウスにスクールベスト、プリーツスカートは膝がやや隠れる標準的な長さ、指定された紺色のハイソックスは皺なく履かれ、それは健全と言っていいお手本の様な制服の着こなし、それを装飾しているのは……。
「
僕は登っていた階段を駆け降りる。
「おいおいおいおいおぉい! お前どの面ぶら下げて僕の前に立ってんだよっ!? 言うことは? お見舞いは? 感謝は? お前を助けたせいでこっちは散々な目にあってんだぞ!!」
女子には優しくって言う孤高ライフの決まりなんて爆散だ! これからは男女平等ディスでいくぜ!! 朝陽は……あ@#なwxkgふじこっ!!
僕の剣幕に油女は、しどろもどろに言い返す。
「そ、そんなに怒らなくていいじゃない! わたわたしだって、あんたが普通に学校来ててびっくりしたんだよっ! お見舞いだって行ったのに目覚めてすぐ退院したって言うから会いそびれちゃったし……とにかく! 助けてくれたことには感謝してる」
「……じゃあ学校で話しかければよかったじゃないか」
「だって佐野くんいつの間にか教室からいなくなってるし、廊下で見かけても変な動きでどっかいっちゃうから……」
うっ、変な動きは霊を見かけては逃げ回っていたからだ……く、なにも言い返せない。
「でも、良かった元気そうで……」
「おかげさまでね。ところでよく僕の事覚えてたな」
「……そりゃ同じクラスだし、全員の名前は把握してるよ」怪訝な表情で言う。
「さっすが、優等生然とした優等生ですな。久しぶりに名前呼ばれたから、自分の苗字忘れかけてたよ」
「佐野くん、友達いないもんね」
「おっ前に言われたくねぇよ! こちとら誰にも忖度なしで人付き合いした結果が今なの! 僕の秘伝を教えてやりたいくらいさ」
「……その方がいいかもね」やけにくぐもった声色だ。
少し強くいいすぎたか? いやまあ確かに油女ころもの学校生活を顧みても、自棄を起こしてもおかしくはない凄惨なものだけどさ……そういやぁ。
「悪い、ちょっと言い過ぎた。ただ一つ訊きたい事がある。何であの時いなくなったんだ?」
お茶を濁したのは少しの気遣いだ。朝陽が言うには僕が轢かれた時、単独で事故をしたと言っていた。助けた油女が幻覚でない限り、あそこにいなければおかしいのだ。油女はくちごもり弱々しく話し出す。
「……ごめんなさぃ。信じてもらえないかもしれないけど、私、何で道路の真ん中で立っていたか覚えていないの……気づいた時には道路の端で座り込んでて、目の前に……佐野くんが、血を流して倒れてたから、だから私、怖くなって……ごめんなさい」
「おい、ふざけた事いってんじゃないよ」
「嘘じゃない! 本当に覚えてないの! 学校からどうやってあそこまで行ったかもわからない……学校を出る前くらいまでは覚えてるんだけど、その先は記憶が抜け落ちてるの」
覚えてないときたか。油女の必死の訴え、さてこれをどう解釈するべくか。……いや、待てよ。あの日あの時、油女は僕を一度確認してから何か言ってふらふらと道路にでていったよな、それで僕は何か見た気がするんだよ……何だった? 彼女の歩いた先になにがあった?
————『そう言えば、ニュース見たかよ? また幸楽商店街の辺りで行方不明者が出たってよ』
幸楽商店街……そう言えばあの日、帰り道の集団の有象無象達がそんな話をしていて、油女ころもの意味ありげな視線の先には掠れて半分は読めなかったけど後半部分には確かに商店街の文字が刻まれていたアーチ看板があったはず……油女は商店街にようがあったのではないだろうか?
「なぁ、お前ひょっとして、商店街にようがあったんじゃないのか? 忘れてるなら教えといてやるけど、あの日お前は商店街の看板の目の前に立ち尽くしていた所を、車に撥ねられる寸前だったんだぜ」
油女は血の気が引いた様に青ざめ、目を窄める。
「逆に死ぬ程の理由が商店街にあるなら是非訊きたいね」
重たく閉ざしている口をゆっくりと開く油女。
「……幸楽商店街には、お父さんがお店を出してたの、しがない飲食店。今は潰れちゃったけど」
何やら雲行きが怪しくなってきた気がする……。
「そうなのか……でも潰れちゃってるなら、別段あそこに行く理由なんてないんじゃないのか?」
小さく被りを振り、二拍間を開け「お父さん、行方不明なの、三ヶ月くらい前から」
「
巷で話題の幸楽商店街行方不明事件は二、三ヶ月前から起き始めた。それと慣例性を疑ってしまうタイミングでの失踪。
「私もずっと探していたんだけど、手がかりがなくて……だから、このビルに探偵事務所あるって聞いて……もしかしたらと思って来たら、佐野くんが事務所に入って行くのが見えたの……ねぇ佐野くんは『賢者の堂』と、どんな繋がりなの?」
これは雲行きどころではない波乱の予感がする……しかも関係性を訊かれると僕って何だ?
「一応……働いてる?」
油女は瞠目し、藁にもすがるような勢いで。
「本当にっ!? だったらお願い! 私とあの商店街にいってお父さんの、手がかりを探して欲しいの!」
「う……」
さぁどうしたものか……——『困っている人を見捨てられない性分』やめてくれ朝陽、いざ口に出されると現実になってしまうじゃないか……はぁ。
interlude————。
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