意味が分かると怖い話「住宅の内見」

五十貝ボタン

意味が分かると怖い話「住宅の内見」

 妙に印象に残るお客さんっていますよね。

 私も不動産に勤めて長いんですが、今でも覚えている人がいます。


 七~八年前でしょうかね。夏でした。そのころはネクタイ締めてなきゃいけませんでしたから、首回りがうっとうしくて。

 引っ越したいっていうお客さんに内見の案内をしたんです。

 内見ってわかりますよね。内部見学です。契約を決める前に、その物件を見ていただくんです。

 お客さんも大変だと思いますけど、こっちも緊張しますよ。一対一ですから。私が何か間違えたら、そのせいで契約なしってこともありますし。


 そのお客さんは神経質そうな人だったから、特に気を使ったなあ。

 四十歳ぐらいでしょうかね。細身でちょっと無口な感じの方でした。

 お一人だったんですが、持ち家が欲しいってことで。ご結婚はされてないみたいでした。でも、そういう方も増えてますから、お一人でマイホームを探してる方が妙ってわけじゃないですよ。

 ただ、なんていうのかな……何か隠してるみたいな感じなんですよね。こういう仕事をしてると、信用されてないなあってときはすぐわかります。


「古い木造建築がいい」と。そういうことでした。

 案内できる中から、中古の物件を絞り込んでいきました。


「どうしても欲しい条件があって」

 とおっしゃる。

「何が必要なんですか? あとから工事してつけられることもありますよ」

 と聞いたんですけど、もごもご言うだけで教えてくれない。

「大きいお風呂とか? インターネット回線ですか? 古いのがいいみたいだから、囲炉裏とか?」

「すぐに必要なわけじゃないんですよ。でも必要になったときにないと困るというか。やるときには確実じゃないと」

 どうもあいまいだったんで、それじゃあ内見して自分で見ていただくしかないだろうと。そうなりました。


 物件まで、私が車で運転します。ずっと無言なのもなんなので、少しお話しました。

「お一人でお住みになられるんですか?」

「まあ、その予定です」

「ご購入されたら、夢のマイホームですね」

「まあ、そうですね」

「今日行くのは築年数があるお家ばかりですけど、年季がある感じがお好きなんですか? リフォームされるとか? DIYとかって、流行ってますもんね」

「まあ、どうしようかな」

 こんな調子で、あんまり話をしたくない人なんだろうと思ったんで、あとは黙っていました。


 最初の物件につきました。古民家風っていうんですかね。木造で。

 雰囲気はいいですけど、正直暮らしには不便ですよね。でも不便なところがいいっていうお客さんもいますから。

 一通りお部屋を見て回ってから、お客さんが、

「別のところにします」

 とおっしゃいました。


「ほしいものがなくて」

 内見前にも言っていた条件に合致してないみたいでした。何にこだわってるのか、ちょっとわからないですよね。

 そのあといくつかの物件を回りました。でも、「ほしいものがない」って言うばっかりで。

 私もさすがに、「よくわからないお客さんだなあ」と思っていて、まあ面倒になってきてたんですけど、仕事だからきちんとやらないといけない。


 とうとう最後の物件になりました。

「先に言っとかないといけないんですが、これから行く物件はちょっといわくつきで」

 事故物件ってやつです。前の住民が亡くなってるとか。そういう家は安くなることもあるんです。でも契約前に必ず伝えなきゃいけないんですね。

 お客さんは「うん……」って言うだけでした。安けりゃいいって人もいますからね。


 もう日が沈みかけてて、その物件はますます嫌な雰囲気でした。

 でも中に入ったお客さんは、天井を見ると「ああ、いいですね」とおっしゃいました。

「ここにします」って。

 私はもうとにかく契約が取れればいいと思っていたので、安心しましたよ。

 でも、入ってすぐの広間しか見てないんですよ。ほかの部屋はまだ見てない。


 何がほしかったのかなって好奇心で視線の先を追うと……

 お客様の視線の先には、太くて立派な、はりがありました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

意味が分かると怖い話「住宅の内見」 五十貝ボタン @suimiyama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ