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【第七回こむら川小説大賞こぼれ話】「灯り持ちのアリー」振り返り

「灯り持ちのアリー」という短編を投稿しました。
https://kakuyomu.jp/works/16818093082932422366

 本作は自主企画「第七回こむら川小説大賞」に参加するために書きました。
https://kakuyomu.jp/user_events/16818093082011920376
 主催のこむらさきさんには、ライトノベル短編アリーナをやるときにレギュレーションや講評についてご助言いただき、お世話になりました。
 また、ちょうどお題が「光」ということで、そのうち書きたいと考えていたアイデアにバシッとハマったのでこの機会に書いてみようと思ったのです。
 
 なお、以下の内容は本編のネタバレを思いっきり含みます。
 「灯り持ちのアリー」本編を読んでから(あるいは読みながら)ご覧ください。

〇製作過程
 いろいろあってプロットづくりに着手したのが企画が半分ほど過ぎた10日ごろでした。
 最初に決まっていたのはタイトルで、主人公が女の子であるほうがいいだろうということだけ決まっていました。
 プロットを作るときには情報カードを作ります。思いつくだけの書きたいシーンを一枚ずつに書き込み、並び替えたり書き加えたりしながら全体像を作っていきます。(添付画像の通り。おそろしく字が汚いので読み取る必要はありません)

 この過程で以下のようなことが決まっていきました。
・明るい場所から暗い場所に入り、最後にまた明るい場所に戻ってくる、という構成。
・主人公と一緒に冒険をするキャラクターが必要。
・「光が敵を退ける」という設定。
・↑のため、主人公たちは直接的な戦闘をしない。
・さらに↑のため、相棒は戦士や魔法使いではなく、知識や知恵を象徴するようなキャラクターにする。
・ボスとなるキャラクターを出したい。できれば有名なモンスター。
・主人公の動機は「お宝を手に入れる」にしたい。(でも、読者が感情移入できるように、単にお金というよりは自分のアイデンティティにかかわるようなお宝にしたい)

 と、こういう感じで骨格作りと肉付けをしていきます。

 おおよその構成が決まったあと、家庭の都合で14日から沖縄へ行くことになりました。今年は、沖縄の旧盆が16日からだったので、その準備とかいろいろがありました(母方の実家なのです)
 本文の執筆にはポメラを使いました。さんざん使い倒したDM200はかなり摩耗しており、行きの飛行機の中でとつぜん電源が切れたりしました。ここまで弱っていたとは…。
 そんなわけで、最終日の8月17日までずれ込んでしまいました。ほんとうは16日(〆切前日)に投稿したかったのですが、どうしてもおさまらず…。日付変更後になってしまいましたね。無念。
 ちなみに書き上げた時点で11000文字に到達しており、ポメラで書いたものをiPhoneで読み取ってカクヨムにコピーし、文字数を確認しながら削る作業を2時間ほど行っております。


〇構成のこと
 全体を4つに分けで、ぴったり文字数とストーリー進行が4分の1ずつになるようにしています。
 1章の終わりで迷宮に行く決断をすること、2章で迷宮を歩き回ること、3章でスピンクスがシーンを支配すること、4章で反撃からエンディングにスピーディに移行することはプロット段階で決めていました。
 さらに言えば、すべての章で前半と後半の展開があるようにしています。3幕8場ですね。
 推敲作業は、できるだけこのバランスを崩さないように行いました。書いた時点で2500文字(1万文字の4分の1)におさまっていたのは第三章だけで、残りの3パートはかなり大胆に削っています。読み直すと第三章だけはアリーの語りにちょっと余裕がありますが、他の章ではこういう「遊び」の文をかなり削ったためです。
 ストーリーの構造はほぼ謎解きになっているため、冒険感を担保するために第2章は迷宮の中をぐるっと一回りする構造にしました。「地獄が9層」という展開はもちろんダンテの『神曲』からです。地獄と地上、闇と光、死と生の対比がわかりやすくなるようにしたつもりです。


〇表現のこと
 本作の特徴は、アリーの中性的な語りだと思っています。
 読んでいただいた方も自分のことを「ぼく」と呼ぶアリーの印象が作品のイメージに重なるのではないでしょうか。(違ったら筆力不足です)
 相棒役となるロジーには「私」と言わせて大人の雰囲気を持たせ、スピンクスは「我」という古めかしいしゃべり方をさせています。スピンクスのキャラクターは後半の展開で態度を豹変させるところが恐ろしく見えるようにしてみました。
 とにかく、二人との対比によって子供っぽく、今まさに自己を確立させようとしているアリーの印象を際立てました。
 前述したとおりにアリーの内心を反映するようなユーモアの文章はかなり削っています。冒頭のアゴヒゲとの会話もかなりパーソナリティに言及していたのですが、ばっさり消しました。1章のちょうど半分の時点でロジーが登場するようになったので、よかったと思います。
 2章と3章は表現的にも対比になっています。2章は積極的に進んでいく展開ですが、3章のアリーは一歩も動いていません。(これはさらに4章の前振りになってます)
 また、「セリフの中で改行する」という展開も3章でいきなり出てきます。これはシーンの雰囲気が一気に変わったことを見た目でわかりやすくしたいなと思ったためです。スピンクスの存在感が印象に残っていたらうれしいな。


〇スピンクスのこと
 当初は敵キャラとしてはミノタウロスがいいんじゃないかと考えたのですが(迷宮と言えばミノタウロスなので)、キャラクターの役割が明確になっていくに連れて、「敵は母性的なキャラクターがいいだろう」ということになり、スピンクスとなりました。
 スピンクス(スフィンクス)と呼ばれる怪物は二種類います。
 一般的に連想されるのはエジプトの大ピラミッドの前にいる大スフィンクスでしょう。獅子の体に人の頭を持つ、ファラオの王権の象徴です。
 もう一方はなぞなぞを出すことで有名なやつです。オイディプスの神話に登場するモンスターで、こちらは獅子の体に鷲の翼、さらに女の顔と乳房を持つといわれています。
 この二つの神話存在、名前が同じなだけでまったくルーツが違うようです。エジプトの偉大な像を見たギリシャ人が「これはスフィンクスだ」と言ったのが現代まで残っており、エジプトのスフィンクスの名前は失われてしまったせいでこのようになっています。
 というわけで、ファラオを守っているあのスフィンクスは旅人になぞなぞを出すいじわるなどしていません。勉強になりましたね。

 話を戻して、なぜスピンクスを選んだかというと、「女性の乳房を持つ」とわざわざ言われているのがイメージにぴったり合ったのと、上記したうんちくを言うためです。
 自分の作品ではひとつくらい読者に「読んで得したな」と思ってもらいたい気持ちがあり、スフィンクスって二種類あるんだ、と感じてもらえるとうれしいです。
 なお、スピンクスの出すなぞなぞは答えが先に決まっており、ChatGPTに「闇が持つ性質を挙げてみて」と入力して出てきた答えを元に作っています。「あっても見えない、なくても見えない」というのがなかなかいい問題なんじゃないかと思っています。(でもメタ読みすれば簡単ですね。答えを考えてくれた読者はどれぐらいいるだろう…?)


〇気に入っている文
 だいたい「この文が書けてよかったな」と思う文が今回もあります。
 スフィンクスが“真相”を語るシーンでのひとこと、
 「まさに、そのまさか」は、この一文が書けてよかったな、と思いました。
 さいしょは読点がなく、「まさにそのまさか」と表記していて、この違和感のある文字列がかなり気に入ったのですが、さすがにわかりにくすぎて読むのが止まってしまうだろう、と思って読点を打ちました。
 この文を読む瞬間、読者は真相を想像してくれているだろうかと考えてニヤニヤしながら書きました。


〇「ザイニンの灯」のこと
 実は、本作は先に書いた「ザイニンの灯」という作品と精神的な兄弟です。
 「暗闇の中に光を掲げると危機に立ち向かえる」というアイデアを思いっきり流用しており、SFからファンタジーに設定を変更してもう一度やったと言えます。
 https://kakuyomu.jp/works/16817330658375261376
 https://kakuyomu.jp/users/suimiyama/news/16817330659616147066
 ザイニンの灯の主人公トオルとアリーも自分の中ではほぼ兄妹みたいなイメージでいます。
 「ザイニンの灯」で挑戦したことは、過去にも書きましたが以下の点です(文字数の厳守もありましたが割愛)
・「3幕8場」の構成を短編にアレンジすることで、ドラマティックなストーリーを表現すること
・広がりのある世界観を提示すること
・印象的なキャラクターを登場させること
 2万字から1万字に圧縮していますが、これらの課題は「ザイニンの灯」では「技術的には達成」という感じでしたが、今作では達成したうえに読者が楽しめるようにさらに発展できたように思います。
 これは自分の成長であると同時に、同じテーマにさらにチャレンジすることで表現が深化した結果だと思っています。
 松明やランタンという照明器具はかなりお気に入りのモチーフなので、これからもたびたび使うかもしれません。


〇まとめ
 思いつくままに「灯り持ちのアリー」の背景を書き綴りました。本編から削った文章の4倍近く近況ノートを書いたので、書き足りないこともかなり補えたと思います。
 もし本作を気に入ってくれた人がいたら、作者がどういうことを考えたのかを追う意味で有用なのではないかと思います。
 こむら川大賞は非常に盛況で、239件もの作品への講評を締め切り後一週間ほどで公開するというスピード感に圧倒されています。
 こういう場で意見交換や交流、他の人の作品に触れる機会があるのはいいことだなーと思いました。活気があるのは何よりです。
 第2回ライトノベル短編アリーナもあるかもしれません。次はもっと早く講評を書けるはず・・。

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