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小手先の技術についての報告・その2:ログライン(それって、どんな話なの?)

こんにちは。五十貝ボタンです。

前回の近況ノートに引き続き、今回も小説を学び直した成果について報告していきます。

付け焼き刃の知識で小説がうまくなりたい!

根本的な体力が必要だからとにかく書けと言われても、
自分の作品を面白いと思うためには、裏付けが必要。
今の時代、人に読んでもらえるかどうかもわからないので、
自分が自分の作品を褒めるためには「一般的には面白い作品とはこういうもの」
という知識の引き出しを身につけていくしかないのです。

さて、前回は小説全体の構造についてのお話をしました。
映画脚本の基礎となる三幕構成、『発端・中盤・結末』についてまとめましたね。
簡単にまとめると、物語は発端と結末の間で変化が起き、
その「変化」の部分で観客を楽しませる、というお話でした。

しかし、いざ三幕構成で話を作ろうとしても、
つまずきやすいポイントがあります。

何が発端で、何が結末なのか?

ということです。

発端・中盤・結末という「型」は非常に幅広く使うことができます。
このため、発端という部分の中にまた「発端・中盤・結末」を作ることもできるし、
逆に「発端・中盤・結末」を、もっと大きなストーリーの「発端」にすることもできます。

つまり、「発端」と「結末」の間に変化さえあれば、
どこからはじめてもいいし、どこで終わってもいい、ということになってしまいます。

大まかにこういう人物が出てきて、こういうことが起きて、最後はこうなる……
というイメージだけで話を書き始めたり、プロットを作ろうとしても、
散逸した印象の、まとまりのない話になりがちです。

ストーリーには骨格が必要ですが、その骨格の中心となる「背骨」を作る必要があるのです。
ちょうど背骨がカーブしながらも一本しかないのと同じで、
あるストーリーの中心には「曲折しながらも一方向に進む」ストーリーラインが必要になります。

そして、そのストーリーラインの支点と終点こそ、その「お話」の発端と結末になるべきです。

同じようなことを繰り返していますが、それではどのようにその発端と結末を決めればいいのか。
そのためのツール(小手先の技術!)となるのが、『ログライン』です。




■ログライン

ログラインは、前回も紹介したブレイク・スナイダーの『SAVE THE CATの法則』で紹介されているテクニックです。
試し読みの範囲でも、ログラインに関する導入部分の文章を読むことができます。
スナイダーによれば、ログラインとは――

「どんな映画なの?」

――と聞かれた時の答え、です。
「要するにこれはどんなお話なのか?」と聞かれた時に、
たった一行(ワンライン)で「面白そう」と感じさせるものが「よいログライン」である、とのこと。

よい映画、売れる映画のストーリーは、一行にまとまるほど短くしても、
その長さで「面白そう」に思える、というのがスナイダーの主張です。

ちなみに、「一行(ワンライン)」にこだわる必要はないと思います。
詳しくは後述しますが、二行だったり、三行だったりがふさわしい場面もたくさんあります。

とにかく、そのストーリー全体を短くまとめる、ということが必要になるわけですね。




■ログラインで何が変わるか

ログラインは大きく分けて二つの内容を含みます。

・誰が
・何をする

ひとつめの内容は「主人公」がどんな人物なのかについて。
ふたつめの内容は「主題」についてを表現しています。

「どんな話なの?」と聞かれときに、
「こんな人が、こんなことをする話なんだよ!」
……と答える、というのがわかりやい説明である、というのはイメージしやすいのではないでしょうか。

しかし、「こんな人」と一言で表現するのは難しいことです。
小説の登場人物は複雑な側面を持つ、生きた人間として描かないと、
読者が夢中になるような魅力を持たせることができません。

しかし、それでも、「こんな人」と一言で言えるようにはしておくべきです。
「一見、〇〇なんだけど、でも実はこんな側面もあって、
 親しい人にだけは違った表情を見せて、さらにこんな秘密があって……」という話を、
いきなりすべて説明しても、そのキャラクターに初めて触れる人には理解できません。

そして、オリジナル小説というのは、すべての読者が「初めて触れる」人です。

ログラインの目的は「初めて触れる人にも面白さを端的に伝えられるようにすること」です。
まず初めて見た人でも理解しやすいように説明して、
キャラクターや話に入り込んだところで細かい説明をしていけばいいのです。
この順番が逆だと、なかなか伝わりません。(あなたも身に覚えがあると思います)


たとえば、五十貝が大好きなキャラクター、スパイダーマンについて考えてみましょう。
スパイダーマンは実写映画だけで3度映画化されていますが、
そのたびにキャラクターの解釈や起きる事件が変わっています。

サム・ライミ監督の『スパイダーマン』では、主人公ピーター・パーカーは、
内気で恋に悩む少年として登場します。
自分が欲しいものを手に入れるためにスーパーパワーを使ってもいいのか…
という主題が、欲望のままに力を使う悪役、グリーンゴブリンと対比して描かれます。

一方、マーク・ウェブ監督の『アメイジング・スパイダーマン』では、
ピーターの両親が最先端科学の研究者であったことが示唆されます。
ピーターは自分自身のルーツを知るために悪役となるリザードに近づき、
その過程でスーパーパワーを手に入れます。
同じキャラクターを扱っているのに、こちらでは一種の貴種流離譚に近いストーリーになっています。

さらに、『アベンジャーズ』などの映画作品と世界観がつながっている『スパイダーマン:ホームカミング』では、
スパイダーマンにアイアンマンことトニー・スタークが協力しており、
彼に認められるかどうかが前半のストーリーの焦点になります。
さらに、対比される悪役であるヴァルチャーもとても父性的なキャラクターです。
『ホームカミング』のスパイダーマンは、ほかの2作に比べても少年っぽく、
父に認められる、父を乗り越える、というテーマが強く打ち出されています。

好きな映画の話をしたいだけじゃないのか、ということは置いといて、
なぜ同じキャラクターを扱っていながら別の話を作ることができるのか。
それは、「ログラインが違うから」と言えます。

ログラインの前半、主人公についての解釈がそれぞれ違っているんですね。

『スパイダーマン』のピーターは「鬱屈した日々を送る少年」ということができます。
そういう少年をどういう状況に放り込めば観客が面白がってくれるか。
スーパーパワーを手に入れたらお金が手に入ったり、気になるあの子とも仲良くなって、
人生がうまくいきそう……というところで、同じく「大いなる力」を持った存在、
グリーンゴブリンが社会を混乱に陥れようとしていることに気づく。
自分もグリーンゴブリンのような怪物になるのか、それとも……

これをログラインにまとめると、こんな感じです。

・鬱屈した日々を送っていた少年が、自分ではなく他者のために力を使うことを決意する話

グリーンゴブリンを倒すのは重要な事件ですが、「主題」ではありません。
スパイダーマンに「正しい力の使い方」を決意させるために、
誤った力の使い方をしているキャラクターとして悪役を登場させるわけです。

アメイジング・スパイダーマンなら…

・自分のルーツを探し求める少年が、行動によって自分の在り方を形作る話

スパイダーマン:ホームカミングなら…

・超人の力を与えられた少年が、その力を奪われてもヒーローであり続けようとする話

くらいにまとめることができます。
五十貝なりのまとめ方なので、違う解釈の仕方もできると思います。

いずれにしろ、注目してほしい箇所があります。
それは、前半と後半の内容が対立しているということです。

鬱屈していた少年は、素直に考えれば自分のために力を使いそうなものです。
(たとえば、のび太のように)
しかし、「面白そう」と感じるお話というのは、
往々にして主人公と事件が真逆になっています。
そのギャップこそが葛藤となって、「そういう話なら面白そう」と感じるわけですね。

ストーリーが面白そうに感じられるかどうかを考えるときには、
たった一行のログラインまでストーリーを圧縮し、
主人公と主題の間にギャップがあるか……ということを見てみましょう。

実のところ、ほとんどの読者が、あらすじを見たときに、
無意識にこのギャップを探し、「面白そう」「面白くなさそう」という判定をしているのです。




■具体化したログライン

先に3本の『スパイダーマン』のログラインを作りました。
でも、すでに描いたものがログラインと言われても、
「ぼんやりした内容だな…」なんて風に感じたかもしれません。

そうです、短くするために、かなり省略しています。
先に書いた内容だと「で、具体的にどんな事件が起きるの?」と聞かれるのは明白です。
(でも、そう聞かれたらログラインが興味を引けているということです!)

そこで、「主人公」と「主題」の二つだけの要素しかないログラインを作ったあとは、
もう少しだけ具体化したログラインを作ってみましょう。

基本的なルールは変わりません。説明は「たった一行」だけです。
ただし、今度は前回まなんだ三要素を入れます。

つまり、「導入」「中盤」「結末」です。

導入が主人公、結末が主題にあたりますから、
「中盤」にあたる場所、つまり、事件や出来事を盛り込めばいいわけです。

つまり、今度は……

・誰が
・どのように(あるいは、何のために)
・何をする

という、ログラインを作るわけですね。

たとえば……

・魔王の力で魔法を使う女の子が、命を狙ってくる刺客を返り討ちにしながら、魔王の復活を食い止める話

・なんの力も持たない少年が、鬼にされてしまった妹をもとに戻すために、鬼を倒そうとする話

・異世界転生したのに使命をサボろうとする主人公が、無茶苦茶な仲間に振り回されるうちに、結局は魔王軍と戦う話

……のように、それなりに具体的なログラインになりました。

ログラインの時点で、ある程度のターゲットが明確化していることにも注目です。
たとえば、三つ目のログラインは「異世界転生」という言葉が通じることを前提に作られています。

「いや、読んでほしい読者は異世界転生について説明が必要かもしれない」と思ったら、
異世界転生を「主人公」の属性ではなく「主題」の部分に持っていくとか、
異世界転生ではない別の導入を考えるなどの工夫も必要です。

これは異世界転生のような「新しいジャンル」に限りません。
たとえば、「主人公が餅吸い祭りで優勝するために…」というログラインを作っても、
「いや、餅吸い祭りのほうが気になって話が入ってこない」と言われてしまうかもしれません。
餅吸い祭りのことを説明なしで通じる人には問題なく聞かせられるでしょうが、
餅吸い祭りが単なる大食い大会でも同じ話ができるかどうか……よく考えてみましょう。

では、そのログラインが本当に「答え」になっていて、
「面白そう!」と思ってもらえるかを判断するにはどうすればいいでしょうか。

答えはひとつ。

実際に、そのログラインを人に言って聞かせてみせて、その反応を見る。
これしかありません。

何万文字も書いたのに、読者が餅吸い祭りを知らないせいで話が通じない…
なんてことを避けるためにも、まずは「たった一行」のログラインを作って、
人に伝えてみましょう。

「何の力もないのに、どうやって鬼を倒すの?」
……なんて風に興味をひくことができたら、
そのログラインは魅力的なものになっている、ということです。




■まとめ

ようやく最初の話に戻ってきますが、
「どこが発端で、どこが結末なのか?」
……という命題へようやく答えることができます。

つまり、ログラインが出来上がったのであれば、
「ログラインにおける『主人公』が発端、『主題』が結末」です。

ピーターが超人的な力を身に着けるところが発端なら、
その直前からお話をはじめ、第一幕の真ん中あたりで
超人的な力を身に着けるように構成すればよいのです。

そして、主題が満たされればお話は終わりです。
魔王の復活を食い止めるまでで読者が満足するように話を作り、
「魔王の復活を食い止めた主人公が…」から始まる新しいログラインを組み立てるところから、
次のストーリーを考えることができます。


というわけで、今回は
「どんな話なの?」
という、読者の誰もが考えることに対する回答としてのログラインについて考えてみました。

ログラインの目的は、

・「どんな話なの?」と聞かれたときの答え

そして、

・「面白そう!」と思ってもらえるような短い説明

である、ということを忘れないようにしましょう。


レッツ付け焼き刃!

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