【KAC20242】変な部屋?

肥前ロンズ

その部屋の目的

「ここ、角部屋なんですね」


 私と妻は、不動産屋さんにやって来た。私の仕事上の問題で、部屋を買うことに決めたのだ。と言っても、前の住人がリフォームした中古物件だけど。

 その中の一つ、角部屋で、防音施工がされた部屋があった。気になるなあ、と私が言うと、「今からでも内見しますか?」と担当さんが言う。


「え、これからですか?」


 ここからちょっと距離がある物件だけど、と思っていると、「今はVRで見ることができるんですよ」と担当さん。


「へえー! 進んでますね! 近未来だ!」


 私がそう言うと、はい、と担当さんが言った。


「コロナ感染で、外出制限がかかった時に導入したんです」


 そう言って担当さんは、タブレットを操作して、「ご自由にご覧下さい」と私たちに渡した。

 スイスイと動かすと、360°見渡すことが出来る。


「うお……! すご、天井まで見れる!!」

「あなた、VRゴーグルでも必ず上を見るよね」


 別のところ見なさいよ、とクールな妻がツッコミを入れる。

 開いているドアをタッチすると、次の部屋に進むことが出来る。私が動かしていると、ふと妻が「ちょっと貸して」と言った。私は言われるがまま、妻に渡す。


「……ここ、コンセントあるんですか? 納戸なのに?」


 妻がそう尋ねると、はい、と担当者は答える。


「窓がないので納戸と表示してますが、電気は通っています。どっちかといえばDENですね。

 元々一つの部屋だったのを、前の住人が二つにしたみたいです」


 その言葉を聞いて、妻の顔はさらに険しくなった。


「変だわ」

「何が?」

「ここ、廊下と直接繋がるドアがないわ」


 廊下と隣り合わせなのに、さっきの部屋を通らないと入れない、と妻が言う。


「それにほら、ここにクローゼットなんてあったら邪魔よ」


 妻が廊下側にある、壁一面のクローゼットを指さす。

 そのクローゼットは折戸式だった。片手ドアがクローゼットのそばにあるので、どちらも開けるとぶつかってしまうだろう。

 まるで、クローゼットか、使前提のようだ。


「……監禁部屋みたい」


 そういう事件、あったでしょ。わざわざリフォームして監禁してた話。

 妻がボソッと呟いた言葉に、まさかー、と俺は返した。








 ちなみに、私の職業はライバーだ。

 妻が疑問を呈した部屋は、今私の配信部屋として使っている。

 角部屋って隣接してないから、大声出しても近所迷惑にならないらしい。窓が無いから、身元を特定されないようになってるし。クローゼットに物つめたら防音になるから、廊下に伝わらないし。遮音壁や防音シートじゃ音漏れるし。

 こうして考えると、多分住んでた人も、同業者だったんじゃないかな……。

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