第7話 生徒会。

 入学式は滞りなく終了した。

 そしてオリエンテーション、そして授業が終わると僕らは生徒会室に集まった。

 既に先代の生徒会からは引き継ぎ済みだ。

 王子が入学するとなると、問答無用で体制変更。

 そして、王子は自分の腹心で組織を固める。


 スタンレーを筆頭にオリビアが副会長。

 アルバートとダニエルは総務。デービッドが会計。僕が書記。

 そして、今後の学園自治の話が始まる。

 だけど、早速ゲストがいる。

 シャーロット・ウェインライト。


 デービッドが連れてきたのだ。

「シャーロット・ウェインライト嬢」

 貴族に囲まれて、まさにかちんこちんになっているシャーロットが口を開いた。

「は、はいっ」

「取って食ったりなどしないから落ち着いてくれないか」

「は、はいっ」

 ダメだ。何も変わっていない。

 僕は、彼女のそばへと移動した。

 そして、彼女の座るソファーの脇でかがむ。

 目線を合わせる。

「シャーロット様」

「え、あの、貴族の方に、そんな様とかっ」

「シャーロット様。そんなにへりくだらないでください。あなたは教会の認めた聖女様です。自信を持ってください」

「で、でも私……」

 僕はシャーロットの手を取った。

「私、シャーロット様を尊敬しているのです」

「えっ?」

「うらやましいと思っています」

「えっえっ、そんな」

「私はアイアンハート領で野盗の集団に襲われたことがあります」

「えっ」

「捕えられた私は、何もできませんでした。なす術もなく絶望し、恐怖していました。そして、そこにいるアルバートに救われました」

 僕は言葉を切って、アルバートを見つめる。

 アルバートが照れくさそうに目をそらす。

「状況は違えど、シャーロット様は戦いきりました。あの恐怖は、私が一番よく知っています。その中を戦いきったシャーロット様を尊敬しております。ぜひとも、私と友人になっていただけないでしょうか」

「あの……、その、はいっはい。私でよろしければ」

「あら、ずるい。でしたら、私もお友達にしてほしいですわ。シャーロットさん」

 そう言って背後から近づいたのはオリビア様。

「は……はい」


「女性陣ばかりずるいな」

 スタンレーの言葉に、オリビアがシャーロットを守るような仕草をする。

「男性の方は危険ですからね。シャーロットさん。気をつけてくださいね」

「えっ? ええっ?」

「あまりからかわないでくれませんか。オリビア様」

 そう、口を出したのはデービッド。

「私も君のことを友人だと思っているからね。シャーロット」


 こんな流れで、シャーロットの生徒会役員就任が決まった。

 僕と一緒に書記だ。


「さて、今日はこの後、もう一人来客がある」

「もう一方?」

 スタンレーの言葉にオリビアが反応した。

「副会長をやってもらう予定だよ」

「それはどなたですの?」

「バース王国第三王子ヴィシャール・バース」

「おや、ずいぶん大物ですね」

 これはデービッド。

「一人で勝手をさせておくわけにもいかないしな。逆に話がわかる者なら、友誼を結んでおく必要もある」


 シャーロットといい、ヴィシャールといい、試されているな、スタンレーは。

「これは男同士の話だからな。女性陣はシャーロットとともに見学していてくれ。ただアルバートとセシリア。君たちにはバースに対していろいろと思うところがあるだろう。それは理解しているつもりだ。だが、だからこそやらなければいけないことがある、と理解しておいてくれ」

「まあ、相手によるな。心卑しい野郎だったら、ぶっ飛ばす」

 アルバートは言う。


 まあ、僕たちにとっては、バースは明確な敵だ。

 そこにいる人間すべてが、というつもりはないが、そうそう安らかではいられない。

「何かあったらアルバートにまかせます」

「セシリア様?」

 シャーロットが空気を読んでくれ、手を握りしめてくれた。

 いや、読んでくれた、というよりも。

 知っていたんじゃないかな。

 アルバートの大武勲は有名だ。

 そして、それが許嫁のためになされたことも。


「大丈夫」


 僕は言う。


「大丈夫だから」


 ドアがノックされた。


「邪魔をする。ヴィシャール・バースだ」

「ようこそ。ヴィシャール殿」

 スタンレーが右手を差し出す。

 ヴィシャールはその手をとって、しっかりと握手した。

「この学園はどうかな。バースのものとは、いろいろと違うかもしれないが」

「建物が綺麗だな。それにカリキュラムも豊富だ。グランバニアの国力を感じるよ」

「そうか? バースの学園に入学すると、かなりレベルが上がるとの話だが」

「バースは偏っているのさ。文武両道とは言い難い。武人も教養をつけるべきだし、文人ももう少し現場を知らなくてはいけない」 

「ほう」

「実学重視は間違っていないとは思うのだがね」

「阿る言葉ではないと思っておこう。さて、難しい話は大人にまかせて、我々子どもは、少し正直に行きたいと思うが、よろしいかな? ヴィシャール殿」

「いいだろう。何をするのかな?」

「男同士が友情を語るとき、それは背中を任せられるか否かだ」

「そういうことか。四人相手とは言え、一矢報いる程度の力はあるつもりだよ」

「四人がかりでは、ヴィシャール殿の実力などわからないではないか。それに、お互い、何かあっては外交問題となる。アルバートたちには手を出させないさ」

「どういうことだ」

「お互いに王子同士。タイマン、魔法抜きでどうだ?」

「勝てるつもりか?」

 ヴィシャールの瞳に獰猛な光が宿る。

「甘く見るなよ」

 スタンレーも笑う。


 生徒会室もいうわけにはいかないため、校庭へと移動する。

 僕を含めた女子三人は、テーブルを出して、お茶をしながらの観戦だ。

 メイドがフルーツのタルトとお茶を用意してくれたので、それを味わいながら、だ。


 男たちは仁王立ちで二人を見つめている。


 おろおろしているのはシャーロットだ。

「いいんですか? 喧嘩なんかさせて」

「喧嘩じゃないですわ。腕だめしですわね」

 オリビアがニコリと笑う。

「まあ、何かあったら、シャーロット様の回復魔法を期待しております。あ、このタルト美味しいですよ」

 僕は素知らぬ顔で言う。


「さて、やろうか」

 スタンレーは木剣を構える。

 ヴィシャールも同じ木剣を構えた。


 デービッドが審判役だ。


「はじめ」


 デービッドの言葉と同時に二人が動いた。

 スタンレーの剣をヴィシャールは丁寧に受ける。

 受け流して、スタンレーの態勢が崩れたところに、ヴィシャールが一太刀。

 だが、スタンレーはあっさりとそれを受ける。


「剣の腕はなかなかだな。スタンレー殿」

「そちらこそ。アルバート以外に遅れを取ったことはなかったんだがな」


 攻守を変えて、試合は続く。

 互いに決定打のないまま、続く。

 実力的には伯仲しているといっていいだろう。


 となると、後は体力の問題だ。

 体力が尽き、ミスをした方が負ける。


 そして、それはスタンレーの方が早かった。

 一瞬の隙を見せた瞬間、ヴィシャールの剣がスタンレーの剣を弾き飛ばした。


「くそっ。君の勝ちだ。ヴィシャール」

「では、次は誰だ? アルバート殿か?」

「へろへろな奴が何言ってるんだよ。」

 と、アルバート。

「そんなあんたに勝っても嬉しくも何ともないよ」

 ヴィシャールがきょとんとしている。

「あの、ヴィシャール? まさか勝ち抜き戦だとでも思っていたのか?」

「違うのか? 疲れ果てた俺を痛めつけるんじゃないのか」

「そんなことして、何になる。実力を見たかっただけだよ。さ、勝者はテーブルに座る権利がある」

 僕らは立って、ヴィシャールを迎え入れる。

「いや……、何というか……」

 戸惑っていた。

 まあ、そうだろう。

 人質としてやってきた敵国の学園だ。

 いじめられて当然、という思考だったに違いない。


 それが女子しか座っていないテーブルでお茶をもらうことになるとは予想できなかったのだろう。


「で、ヴィシャール。副会長でどうだ?」

「は?」

「生徒会での役職だよ。私の下につくのが嫌なら、特別顧問とかの名前を用意するが?」

「あのなあ。グランバニアとバースは」

「そんな建前はいらんよ。ヴィシャール。我々は三年間、この学舎で共に過ごす仲間だ。いがみ合っても仕方なかろう。人質扱いなんて、そもそも面白くなかろう? ここにいるのは、将来グランバニアを支える可能性の高い人間だ。親しくなっておいて、損はあるまい」

「戦いで情が湧くのは困るだろう」

「戦いのときに、きちんと話せると信じられる相手がいるのは、悪くあるまい?」

 ヴィシャールが苦々しい顔をしている。

「ああ、俺の負けだよ。スタンレー。副会長でも何でもやるさ」


 こうして、生徒会八人が揃うことになった。






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