第5話 叙勲。そして舞踏会。

 それから一月の後。

 アルバートと僕は王宮にいた。


 アイアンハート伯爵とその息子アルバートの叙勲の儀だった。

 もちろん他にも功を挙げた者は存在するのだが、アイアンハートの騎士団全員で王都に来るわけにはいかない。

 そして選ばれたのが伯爵とその息子というわけだ。


 僕は父のお供で儀式への参列を許され、アルバートが緊張しながら、勲章をいただく姿を見ることができた。


 そして、その夜は舞踏会である。

 アルバートはアイアンハート家のタウンハウスでめちゃくちゃ緊張していた。

 本来なら、許嫁である僕を迎えに来るのがルールだが、あまりにも緊張しているというので、先にお邪魔することにした。


「このままだと、セシリアちゃんに一生頭上がらなくなるわよ」

 伯爵夫人の言葉は辛辣だ。

「大丈夫です。アルバートは慣れていないだけです。慣れればとても頼りになるので」

「お、おう」

 あ、照れてる。


 最近はこういう言葉にも慣れてきた。

「そうねえ。アイアンハート領だけで過ごしてきたからねえ。まあ、学院に通えば慣れるわよ。だから安心なさい。アルバート」

「はい……」

 さすがのアルバートも母親には逆らえない。


 僕は苦笑いしながらアルバートを誘う。

「さあ、行きましょう」

「そうだな」


 アルバートは騎士団の黒の礼装。

 いわゆる軍服の煌びやかなものだ。

 アルバートの赤い髪と相まって、よく似合う。

 僕はその髪色に合わせた紅色のドレス。


「よく似合うわ。二人とも」

 伯爵夫人のお褒めの言葉。

「エスコートよろしくね。アルバート」

「おう、まかせろ」


 初めて二人で出席する舞踏会は、とても華やかなものだった。

 アイアンハート伯爵だけでなく、叙勲されたその子息も参加するということで、何人かの高位貴族は、その子どもたちを連れてきていた。


 緊張しながらも、かなり練習を積んだダンスは大きな失敗をすることなく終えられた。

 と、いうかアルバートはあれだけ緊張していたのに、いざ踊り始めると危なげなくステップを披露してくれた。

 本人曰く、勝手に身体が動くそうで。


 うん。チートボディだね。


 ダンスを終えてほっとしていると、僕たちの前に一組のカップルが現れた。


 グランバニア王国第二王子スタンレー・グランバニア。その隣には許嫁である、サザビー侯爵家の長女、オリビア・サザビー。白い燕尾服にビタミンカラーのドレスが眩しい。


 僕らは頭を下げる。

「アルバート卿。まずは素晴らしい武勲、おめでとう。同じ年齢の者が、このような大きな武勲を立てるとは、正直に誇らしいと思える。今後、武の面から頼りにさせてもらえると助かる」

「もったいないお言葉、いたみいります」

「さて、せっかくの舞踏会だ。お二人は一曲踊って壁の花になるおつもりかな?」

「あ、いえ、そんな」

「殿下、そのような言い方は女性からは嫌われますわよ」

 オリビア様が横から口を出す。

「む、そうなのか」

「そうですわ。セシリア嬢。申し訳ありませんが、あなたの婚約者を少しだけ貸していただけませんか?」

 それは、ダンスの申し込みということだ。

 当然、目上の方のお誘いを断らせるわけにはいかない。

「あ、はい。どうぞ。こんなものでよければ」

「こんなもの、とは。まあ」

 オリビア様が目を丸くしている。

「では、婚約者を取られてしまった者同士、一曲いかがかな。セシリア嬢」

 え? ええ?


 こうして、僕らはそれぞれ一曲踊ることに。


 ただ、まあ、これ。

 周囲に第二王子が本日の主役を取り込んだ、という意思表示なんだよね。

 多分。


「ところでセシリア嬢。アルバート卿はいつ王都に? 学園にはやってくるのだろう?」

「はい。中等部まではアイアンハート領で。高等部から王都へとやってくる予定です」

 予定ですも何も、高等部は王都にしかないからね。

「そうか。その時はぜひ、なかよくしてもらいたいものだ」

「もったいないお言葉、ありがとうございます」

「セシリア嬢は王都にいるのだろう。学園で何度か見かけたことがある」

「はい。私は王都で暮らしていますから」

「では、ぜひ中等部生徒会の一員になってはもらえないか」

 生徒会。

 そう、この封建主義の国で、学園には生徒会があるのである。

 さすがゲーム、としか言いようがない。

 その学年で最上位の爵位の者が会長となり、学園の自治を担うのである。

 王子がいる学年では、当然王子が会長である。


 ちなみに副会長はオリビア様だ。


「私でお役に立てるなら」

 うむ。さすが運命の強制力。


 ダンスが終わると、なかなかにへとへとだ。

 アルバートはぴんぴんしているが。

 この体力お化けめ。


 この四人が固まっていると、なかなか皆も話しかけにくいっぽい。

 僕とオリビア様がソファーに腰掛け、男性二人がそれぞれの脇に立つ、という構図。


 そこに堂々と近づいてくる少年が一人。

 いや、蒼い燕尾服を着た眼鏡の美少年が一人。

 デービッド・ロレンス。王国宰相ロレンス侯爵家の長男にしてスタンレー王子の親友。武芸も魔法もそつなくこなし、教養の分野でも優秀という噂の男。


 そして。


 アルバート(前世)の推し。


 横目で見ると、何かアイドルに出会った女の子みたいな顔をしている!


 うわあ。


「君がアルバート卿か。デービッドだ。よろしく」

 そう言って右手を差し出された。

「アルバートだ。よろしく」

 凄い笑顔で握手している。

 あーあ。この男というか女というか。


 まあ、面白いからいいけど。


「何かみんなそろってるね」

 そう声をかけてきたのはダニエル・モールトン。

 魔法の天才。賢者の弟子。

 緑の燕尾服。 

 ちなみに服からわかるようにイメージカラーは緑。

 スタンレー王子が金。アルバートが赤。デービッドが青。そして、ここにはまだいない、五人目が黒。


 隣国、バース王国からの留学生。

 ヴィシャール・バース。

 バース王国第三王子。

 褐色肌の美少年。


 アルバートから聞いたときは考えもしなかったけど、この男、どう考えても人質か。

 今回の紛争に伴う、条件の一つなのだろう。


 あと、一年とちょっとで王都の学園にこの五人とヒロインが揃うことになる。


 ヒロイン。

 シャーロット・ウェインライト。


 光属性の魔法使いにして、聖女と呼ばれる少女。

 そして、ここにいる男たちをめろめろにする女。


 さて。

 どんな女の子なのやら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る