時を超えた恋人

無月弟(無月蒼)

第1話 完成、タイムマシン?

 アタシの大学は、変人が多いことで有名だ。

 この前はアニメ研究会がオタクの夢、二次元に行ける装置の起動実験をした結果、手違いで大学の上空にガン〇ムが現れたり、校内に現れた魔法少女がバトルしたりしていた。


 あの人たちにも困ったもんだよ。まあその点アタシは、そんなぶっ飛んだ事なんてできないただの平凡JDですからねー。

 大学内でどんな騒ぎが起きようと、我関せず。できるだけ今日を楽しく生きるのですよ。


 てなわけで、今日も友達と一緒にカラオケに行こうと思ってたんだけどね。どうやら神様は、そんなアタシのささやかな願いをぶっ壊すのが趣味みたいなんですよ。

 帰ろうとした矢先、アタシが所属している研究室から、ドーンって言う爆発音が聞こえてきたの。


 うわあぁぁぁぁ、何が起きたんですかー⁉

 できることなら、気づかなかったことにして帰りたかったけど、そう言うわけにもいかず。大急ぎで研究室に向かったんだけど。

 そこにはやっぱりと言うか。モクモクとした煙が充満する部屋の中には、研究室一の問題女学生、井枯いかれ先輩がひっくり返っていた。


「井枯せんぱ~い。大丈夫ですか~?」

「お、おう。時子くんか。平気だ、何の問題もない。研究室を半壊させるくらい、いつもの事さ」

「確かにいつもの事ですね。この大学に入った当初は腰を抜かすくらいビックリしてたのに、今はさほど驚かない自分がいますよ。慣れって怖い」


 呆れていると、井枯先輩は起き上がって体についた汚れを払う。

 長い黒髪に眼鏡が似合う、知的美人といった印象の井枯先輩。そのうえスタイルもいいから本当なら男子が放っておかないモテ女の素質満載なんだけど、ちょっぴりクレイジーなため学内でも恐れられている先輩だ。

 で、今回はいったい何をやらかしたんですか? まさか……。


「ひょっとして先輩、またミサイルを迎撃できるタコ焼き機を造ろうとして、失敗したんですか~?」

「むう、失礼だな君は。以前のあれは、決して失敗などではないさ。現に迎撃用のたこ焼きは、無事発射されたじゃないか。……まあ、ちょっぴり日本列島の半分くらいが、消滅しかかったけど。って、そんなことはどうでもいい。喜べ時子くん! ついに私は人類の夢、タイムマシーンを完成させたんだ!」

「タ、タイムマシーンっすか⁉」


 それってあの、未来の世界のネコ型ロボットが乗ってる、過去や未来に行ける乗り物の事ですよね?

 だけど井枯先輩は、フルフルと首を横に振った。


「アタシの作ったタイムマシーンは、乗って移動するものじゃないんだ。時間の流れを移動するための穴を作る。そんな装置なんだよ。ほら、あれがその時間の穴、タイムホールだ」

「アレって言うと……うわあぁぁぁぁ⁉」


 よくよく見れば研究室の奥には、何もない空間の中にぽっかりと穴が開いていた。

 マジっすかー⁉ これ通ったら、過去や未来に行けるって事っすかー⁉


「先輩すごいです。で、この穴はいったい、どこに繋がってるんですか?」

「うーん、それがよくわからないんだよね。タイムホールを開けることはできたんだけど、どこに通じているかは私もわかってないんだ。だけどちょうどいいところに来てくれた。時子君、あの中に入ってどこにつながっているか、確かめてきてくれたまえ」

「ええー、嫌ですよあんな得体のしれない穴に入るの。どんな危険があるかわからないですもの。下手したら時の間に落ちて、永遠に帰ってこれないかもしれないじゃないですかー」

「何を言うか。この天才が大丈夫だと言ってるのに、疑うのかい?」


 メッチャ疑いますって。井枯先輩には悪いですけど、アタシはそこまで先輩のことを信用してないんですからね。

 だけどそうしていると、何やらタイムホールの中からガタガタと音がし始めた。これは?


「先輩、何か音が聞こえてるんですけど?」

「うむ、もしかしたらこれは、穴から何かが出てこようとしているのかも?」


 え、なんだかよくわからないけど、それって大丈夫なんですか?

 だけど慌てていると、タイムホールの中からソレは現れた。

 穴から吐き出されるような形で、ソレはこの部屋へと降り立ったのだ。あれは……人間?


「先輩、あれって?」

「人間? トンネルを通ってきた、タイムトラベラーか?」


 タイムトンネルにタイムトラベラー。なんですかこの怒涛のSF展開は⁉

 だけど脳内突っ込みもそこそこに、現れたその人に目が釘付けになる。


 タイムトンネルから現れたのは、男だった。

 間違いなく男だった。

 なぜなら彼は一切の衣類をまとっていなくて、すっ裸の状態だったのだから……。


「ぎぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁっ⁉」


 予期してなかった来訪者の格好に、アタシは悲鳴を上げるのだった。

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