第4話 住む場所を用意しよう!

 原始人だって、生きてる人間に変わりはない。

 呼んでしまったものは仕方ないけど、せめてしっかりした生活を送らせてあげないと。


「確かに、君の言う通りだ。タイムホールを開く研究は続けるとして、ここにいる間のゲンちゃんの居場所を作ってあげないとね。いつまでも研究室に閉じ込めておくわけにもいかないし、どこか住む家があればいいんだけど」

「住む家ですか……それなら、アタシのアパートでいいかも。広くて一人暮らしですから、ゲンちゃんくらいなら大丈夫です」

「ん……んん? 時子くんのアパートかあ。確かにあそこなら同居人が一人増えても問題ないだろうけど、大丈夫か? ゲンちゃんはオスだよ」

「まあ、大丈夫じゃないですか? 男の人を泊めるわけじゃないんですから」


 我ながら面倒なことを引き受けようとしてるとは思うっスよ。元々今回の件は井枯先輩の不始末ですから、アタシがここまで面倒をしょい込む必要ないと思うんですけどね。

 けど事情を知ってしまってる以上、知らん顔なんてできないのですよ。


 それにゲンちゃんを泊めるのくらい、井枯先輩が泊まりに来るのに比べたら、きっと遥かにマシ。


 アタシの住んでるアパートは大学の近くにあるんだけど、井枯先輩ってばそれを良いことにしょっちゅう泊まりに来たり、飲み会を開いたりするんだから困ったもんです。


「問題はどうやって、ゲンちゃんをアパートまで移動させるかですね。とりあえず男物の服を用意するとして、顔をどう誤魔化すか」


 何せ人間とゴリラの中間みたいな顔してるんだから、服を着せたくらいじゃ普通の男性ということで誤魔化すのは無理があるよね。

 だけど井枯先輩が、ニヤリと笑う。


「その点は安心してくれたまえ。こんなこともあろうかと、前に作っておいた秘密兵器がある。その名も、イケメンマスクだ!」


 そう言って井枯先輩がどこからか取り出したのは、プロレスラーがつけそうなマスク。

 そんなものでどうするのかと思ったけど、ゲンちゃんがつけてみたらあら不思議。ゲンちゃんの顔が、たちまちのうちにイケメンに変わったの。

 イケメンマスクって、付けたらだれでもイケメンに変装できるすごいマスクなんだとか。


 今更だけど、こんなの作っちゃう井枯先輩って何なんだろう?

 まるでドラ〇もん。いや、発明するんだから、キテ〇ツ大百科の方かな?


 とにかくこれで見た目を変えられるから、移動の問題も解決。

 その日の夕方、アタシはゲンちゃんを連れてアパートに戻ったの。


「ついたよー、ゲンちゃん」

「ウホォ?」


 初めての家に、ゲンちゃんは興味津々の様子。あちこち見て回ってる。


「アタシの住んでるお家。分かる、お家だよ?」

「ウホ。 ウホウホ?」


 するとゲンちゃん、両手を動かして何やら伝えようとしてくる。

 言葉はわからないけど、テレパシーリングの効果か、何となく言いたいことが伝わってきた。


「え、なに? 家族はいないのかって?」

「ウホ」

「家族は……まあいいじゃんそんなこと。それより、今日からゲンちゃんもここで住むんだから、よろしくね」

「ウホォ!」


 正直不安もあるけど、ゲンちゃんいい子そうだし、大丈夫だよね。

 だけど、話していてふと思った。

 そういえばゲンちゃんの家族は、どんな人なんだろう? 

 ゲンちゃんは家族と会えなくて、寂しくないのかなあ?


「ゴメンね、クレイジーな先輩のせいでこんな所に来ちゃって。ねえ、ゲンちゃんはやっぱり、家族に会いたい?」

「ウ……ウホォ」


 あれ、どうしたんだろう?

 てっきり会いたいって言うと思ってたのに、ゲンちゃんはなぜかしょげたように肩を落としてる。


「ひょっとして、ゲンちゃんの家族って……」

「ウホッ?」

「……なんでもない。さあ、お腹すいたでしょう。ご飯用意するから待っててね」


 こうしてアタシたちの、ちょっと奇妙な共同生活は始まった。

 ……ちょっとと言うか、ハチャメチャクレイジーな共同生活なんだけどね。


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