第2話 タイムトラベラーは原始人!?

 すっ裸の男を前に、思わず手で目を覆う。

 な、ななななな、なんで裸なんですかー⁉ 


 だけど慌てていると、井枯先輩がポンポンと背中をたたいてくる。


「落ち着け時子くん。大声を出したら、彼が怯えるじゃないか」

「何言ってるんですか? そもそもどうしてあの人裸なんですか⁉」

「うん? 時子くん、さては君、すぐに目を覆ったから、彼がどんな奴かよく見ていないな。ほら、目を開けてちゃんと見てみろ」

「ひぃー! 無理無理無理ー!」


 常識の無い井枯先輩なら気にしないかもしれないっすけど、うら若き乙女に男の人の裸は刺激が強すぎるっすよ~。

 絶対に見るもんかって、ぎゅって目を閉じたけど。

 そんな私の耳に、低い声が飛び込んできた。


「ウホ?」


 ……ん? 

 声って言うかこれは、まるで動物の鳴き声のような?


「ウホ! ウホウホ、ウホホー⁉」


 何この声?

 躊躇したものの好奇心には勝てずに、目をふさいでいた手をどけて、やってきた彼を見る。

 するとそこにいたのは……。


「げ、原始人⁉」


 そこにいたのはゴリラのような顔をして、全身を毛で覆われた、だけどどこか人間に近い特徴を持つ霊長類。

 原始人だった。


 ちょ、ちょっと待って! タイムトラベラーって、原始人だったの?

 アタシは驚いたけど、どうやら原始人の方もいきなり見知らぬ世界にやってきたことで戸惑っているみたいで、ウホウホ言いながらなんだかおびえたように縮こまっている。

 ま、まあ無理もないよね。たぶん井枯先輩が開いたタイムホールのせいで、意図せずこの時代に来ちゃったんだもの。

 彼が何万年前から来たかはわからないけど、今すぐ元の世界に送り返して……。


「えっ?」

「ウホ?」


 元の世界に返さなきゃって思った矢先、さっきまで開いていたタイムホールが急に閉じちゃった。

 空間の捻じれはなくなって後にはアタシと井枯先輩、そして原始人が取り残された。


「ウ、ウホォ~」


 穴のなくなった空間を見ながら、原始人が悲しそうな声を出す。

 ひょっとして、自分があの穴を通ってここまで来たって理解していたのかも? なのにそれが消えちゃったもんだから、帰れないって思って悲しんでいるのかもしれない。

 その姿はとても可哀想で、見てられないよ。


「井枯先輩、このままじゃあの原始人、可哀想ですよ。もう一度タイムホールを開いて、帰してあげないと」

「うむ、そうだな。しかしそれには一つ、問題があるのだ」

「問題って?」

「実はな。タイムホールを開いたはいいけど、コントロールがまるでできていなかったんだ。そもそもアタシの計算では、古くともせいぜい明治か江戸時代とつながってるものと思っていたのだが、彼を見るともっと途方もない時間を超えて、トンネルは繋がっていたみたいだからねえ。再び狙い通りの場所と時間に、トンネルが開くかどうか」

「は?」


 なんですかそのいい加減な答えは⁉

 そして、さらに先輩は続ける。


「しかもだよ。トンネルを開くには莫大な資金が必要になるんだ。今回は大学のコンピューターにアクセスしてこっそり調達……いや、実は親切な人が出してくれたから何とかなったのだが、これはそう簡単にできるものじゃないからね。次トンネルを開けるのは、いつになるか」

「そ、それじゃああの原始人は、このまま帰れないってことですか? 先輩、何をやってるんですか⁉」

「…………てへ♡」


 あざと可愛さでごまかそうとする先輩だったけど、アタシはその頭をパコーンと叩いてやった。

 先輩は涙目で、「パパにもぶたれたことないのに!」って言ってたけど、ちょっとは痛い目を見て反省してください。

 それよりも……。


「アオォォォォン」


 悲痛な声を上げる原始人さん。

 ほんとこれ、どうすればいいんだろう?



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