中年フリーターのオッサン、人には言えない秘密の仕事をしてます。

軽井 空気

第1話 創使者≪クリエイター≫ その1

 ようやっと帰ってこれた。

 仕事を始めて3か月、やることが多くて全然休みが無かったがようやく一区切りがついて休みがもらえた。

 40前のフリーターのオジサンの俺ではシャレたマンションなんかに住めるような甲斐性なんかはなく、築60年のボロアパートである。

 建物脇の空き地に面したむき出しの暗い階段を上って2階にある部屋に向かう。

 手に持ったエコバックが重い。中身はお酒や食材である。

 久しぶりの帰宅の為クタクタであっても買い物してこなければ冷蔵庫の中には腹の中に納められるモノが残っていないのである。

 明日でもよかったかもしれないけど……

「いや、帰ったら全力でゴロゴロするんだ。明日1日は部屋にこもる為には帰りに買い物するのが正解だ」

 しかも仕事上がりの打ち上げもかねて喰っちゃ寝を満喫するのだからこの重みも楽しみに比例していると思える。

 最後の階段を上り切り部屋の前に来ると。

「ん?何やってんだ。さっさと入ってゆっくりしようぜ」

 部屋の前では先に行って鍵を開けてもらっていた同居人が扉を開けて部屋の中を覗きながらじっとしている。

「まだ遠慮してんのか?俺らの仲だろ」

「あっ……」

 俺は開けてもらている扉の中に体を滑り込ませた。

「はぁ~~、ただいま~~~」

「お帰りなさい」

 無人のはずの部屋の中から返事が返って来た。

「…………」

 一瞬固まてしまったが状況を判断しようと頭は働いてくれた。

 玄関とダイニングキッチンは暗いが奥の部屋に通じる襖の隙間からLED電灯の明かりが漏れている。

 俺は出かける前に消灯したのは確かだ。振り返れば同居人が変わらず立っていて首をフルフルと振っている。

 つまりまだ部屋に入ってなくて電気を付けたわけではないということだ。

 今は夜の9時を過ぎていてとっくに日は沈んでいる。つまり部屋の中で何かをするには明かりが必要だろう。

 それでその何かとはナニ?

 空き巣?

 それだとすると悠長に「お帰りなさい」なんて言うか?

 それに聞こえてきた声は若い女のようだった。

 部屋を間違えたとか新しい入居者が入っていたとかだったらこんな時間に見知らぬ人間が来て平静でいられるだろうか?

 怖がる理由が無い?俺のことを知っている?

 いやいやいや、俺は1人暮らしで最近始めた仕事で知り合った友人と同居を始めたけど、その同居人は俺の後ろにいる。

 1人暮らしの男の部屋に知らない女が我が物顔で居座ていて出迎えてくる。それ、なんてホラー?部屋にいる女は生きているのですか?生きていないのですか?

 どっちも嫌なのでお引き取りください。

 そこで気が付いた。

 玄関には見覚えのない女性ものの靴がキレイにそろえて置かれていた。

 良かった。どうやら足はあるみたいだ。あとは頭があってその中に良識があることを願おう。

 そう思っていると襖が開いて部屋の中から女が出て来た。

 その姿を見て俺の体は汗が吹き出しカタカタと震え出した。

 多分今の俺は色素が抜けているはずだ。

「お帰りなさい。連絡がつかないから来ちゃった」

 部屋からの明かりを背にしているので正面に影が差してしまっているが、無表情と分かる顔で首を傾げて淡々と言葉を紡ぐ。

「ところで伯父さん、そのオンナ……誰?」

 そんなの正直に言えない。

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