第2話 國産み≪ねるねるねるね≫ その1
「もう1度言ってくれるか」
俺が頭を抱えながら頼むと神様は変わらない笑顔で答えた。
「やらかした」
「何でだよ!」
「皆張り切り過ぎたんだよ」
「こっちで勝手やらかした神のせいで世界に手出しできなくなったんだよね」
「うん」
「それでこっち諦めて新しい世界を創り始めたと」
「そうそう」
「それで何でまた手出しできなくなっているんだ!」
「それはね――――
「伯父さん、伯父さんっ大丈夫?」
肩をゆすられて回想から引き戻された。
「ビール飲みながら泣き出したけど」
「なに、上司のことでちょっと泣きたくなったんだ」
隣ではジョーカーがビール飲みながらタコワサをつまんで笑っていやがる。
「本当に伯父さんはどんな仕事をしているの」
「すまないけど他人には言えないんだよ」
「本当に大丈夫なの」
「大丈夫だから。それよりもう遅いけど大丈夫なのか」
「何がですか」
「帰りとか、迎えに来てくれるとか」
「お母さんには伯父さんの家に泊まってくる言ってきてるよ」
「お前……こっちの断りもなく」
「えへへ」
そうだ、優等生に見える鏡美だが結構ないたずら好きなのだ。
例えば。
「お前着替えとかの荷物は」
「伯父さんの使うから持って来てない」
と、このように親戚とはいえ男の部屋に平気で泊まりに来て、お泊りセットも男の物を使うからと持ってこないのである。
だが今日は。
「大丈夫だ。ジョーカーの物を借りれば良い。こいつのは一応女物だからな」
「ええ~~」
文句が出た。もちろん別の場所からも。
「おい、なぜワラワの物をそこな小娘に譲らなければならんのだ」
「文句を言うな、部屋に置いてある物は俺が買ってきたんだろうが」
「そこは旦那様がワラワの面倒を見る義務があるからじゃろうが」
「なぁに~~、そこの間女さんは伯父さんに寄生しているの~?」
「好きで寄生しているわけではないのじゃ」
「寄生は認めるんだ」
「押しかけストーカーが何を言うか」
ガルルルル、と顔を突き合わせる2人は意外と気が合うみたいだ。
俺との時はこんなすぐにジョーカーは感情をぶつけてこなかった。どこか冷めていたモノだったのに。
「なんだ、嫉妬してんのか」
俺の独り言だったのだが2人に聞こえていたらしく。
「「悪い(のか)」」
って綺麗にハモっていた。あと誤解です。
その後押し切られるというかいつものようになし崩し的に鏡美を泊めることを了承したら、鏡美は先にお風呂に入りに行った。
「あの小娘はよく泊まりに来よるのかや」
「あぁ、中2ん時に家出したのを匿ってからちょくちょくな」
「そういうのは未成年者略取誘拐と言うのじゃないのかや」
「親戚の家に転がり込んでるだけだし未成年者略取は絶対的親告罪だから告訴されなければ捕まらないんだよ」
「え?なんじゃそれ犯罪し放題という事か」
「んなわけあるか。傷害や殺人、事故で死亡したとしてもそれを隠蔽したり死体の損壊や遺棄があれば検察の起訴で捕まる。親告罪って言うのは被害者側の意思が尊重されていて被害者が訴えなければ罪に問えないとされているモノを言う」
「つまり被害者に訴えさせなければ」
「脅した時点で脅迫罪になるぞ。脅迫罪は非親告罪だし、騙しても詐欺になるから客観的に本人の自主性だと証明できなければ事実を無視して冤罪喰らう」
「じゃあ小娘を泊めるのはリスキーではないか」
「……泊めてくれないと死ぬって押し切られた」
「旦那様が脅迫されとるではないか」
「まぁそれだけ懐かれているという事で」
「じゃがそれも―――」
「そうだな、もう少しで移住ができそうだもんな」
そうだ、仕事が次の段階に進めば俺達は新世界に行く。
そうなれば鏡美を泊めることはもう出来なくなるだろう。
「そもそもじゃ、今まで移住できなんだのもあ奴———あ奴等のせいだった訳じゃし」
そう、異世界の開拓なのに異世界に行けなかったのであった。
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