第1話 創使者≪クリエイター≫ その5

「まずは言っておかなければならんが、職務内容を聞いたら拒否することは出来ないぞ」

 神様は厳しい表情で告げてくる。

「もし……逃げ出したら?」

 しかし神様は背が低いから俺が立ち上がると見下ろす形になるんだよな。

「それはもちろん―――っ!」

 あっ、浮き上がった。おまけに腕と足を組んで見下ろしてきた。

 意外と見得を気にするとか可愛い神様だな。

「消去するぞ」

「ん?ああ記憶をですか」

 危うく話を聞きそびれるところだった。

「いや、お前の存在そのものだ」

 あっぶねぇ~~~~~、聞き逃してたらえらい目に遭うところだった。

「いやいや、存在そのものまで消すってそこまでする必要があるんですか」

「ある。記憶だけ消しても縁は残ってしまう。故に縁を切る為に存在ごと消滅させる」

「容赦がなさすぎる」

「引くならここまで、さて、君はノルか?ソルか?」

 しばし考えてみる。

 ………………………

「やる!」

「君、今考えるふりして考えるの諦めただろ」

「どう考えたって考えるだけ無駄だろ、これ」

 情報が少なすぎる。それでも逸れるにはちょっと惜しい。ロマン的に。

「まぁ良い。それでは契約と行こうか。ほれ」

 神様は俺の目の前に足を突き出してきた。

「……どうしろと?」

「足を舐めろ」

 判断を誤ったかな。

「なんでだよ!」

「神と契約するために魂の接続が必要なのだが、それには肉体的接触———特に神への口づけが最も効率的なのだ」

「それで足限定なのか」

「足でも人間に口を付けられるとか屈辱だろ?」

 ものすっごい笑顔で見下された。

 すっごい屈辱的だが、他ならない神様に足とは言え口づけできるのはご褒美だと思おう。

 ゆっくりと足に顔を近付けていく。

 匂いがした。汗とかの様な匂いじゃなくって花の蜜の様な匂い。なんの花かは分からないが甘くて爽やかな匂い。

 これは神様だからだろうか、それとも女の子は皆———ってキモイな。いい年したオッサンが中坊みたいに女の子の足でときめくとかナイナイ。

 ここは大人らしく余裕をもって。

「……」

 こういう時何処に口づけすればいいんだ?

 足の甲?

 親指の先?

 それとも土踏まず?

 う~~む、迷うな。

「さっさとしろ」

 じれたらしい神様が俺の顔面を踏みつけてきた。

 その際に口が足の裏に触れたのでこれでいいのだろうか?

 というか鼻の中にさっきの甘い匂いが入り込んで来て変な気分に成りそう。

 ぐりぐりぐり――――――――――ぐりぐりぐり。

 いつまで続けるの?

「—————くふ、これはこれで」

 あぁ、神様に変な性癖が目覚めちゃった。

「さて、これで契約は成立した。これからオフィスに移動する」

 神様が指パッチンをした。綺麗な音が出た。いいなぁ、俺がやってもスカスカの音しか出ないんだよな。

 なんて考えていたら。

「なっ、ここ何処ですか⁉」

 さっきまで普通の貸会議室の一室だったのに突然異次元に放り出された。

「ここはボクの領域だよ。そして仕事のオフィスでもある」

 そこは明らかに現実ではない。

 全体的に白い清潔感があるフロアなのだが、詳しい表現は出来ないけど3次元的でないという感じだ。

「すぐに君のデスクも用意しよう」

 そう言う神様は和風の装いとは釣り合わない重厚な執務机に座って天板に両肘をついている。マホガニーとかいうやつだろうか?

 ゲンドウというよりイゴールのポーズに近い。

 しかしその位置がおかしい。

 正面のはずなのに背後の様にも、上下が逆にも見えたり、近くにも遠くにもいくつも重なっているようにも感じる。

「なっ、なんだよこれ」

「ん?あぁどうやら君の認識が付いて来てないようだね」

 混乱する俺に神様は何でもないように言う。

「船酔いみたいなものだからじきに慣れる。それよりも紹介しよう。君のパートナーだ」

 その言葉と共に視界いっぱいに顔が広がった。

「わああああああああああああ!」

 それは顔のパーツのパースがめちゃくちゃなキモイ顔———キモメンだった。

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