エピローグ

朝日が昇りきる、その前に

 チートスキル「冬至の悪魔ルシファーズパンプキン」を目にした現地人たちに懇願され、由利都とエシャロットはこの世界の支配を目論む魔王討伐の旅に出ることになった。


 その後紆余曲折あり、ようやく魔王のもとへとたどり着いた由利都は最後の戦いに臨む。

 魔王がノータイムで放った魔槍グングニールは由利都の出した南瓜に突き刺さり、やがて双方ともにその動きを止めた。

 よもや拳と拳ステゴロでの決着に持ち込まれるのかと思われたその時、ふいに世界から光が失われる。

 何事かと天を見上げた魔王の目に映ったのは、空を覆い隠す数十万個の南瓜であった。

 一言も言葉を発することなく軍勢を引き連れ魔界へと引き上げていく魔王。

 その瞬間、この世界に平和がもたらされたのだった。

 喜びの涙を流し抱きついてくるエシャロットをその胸で受け止めた由利都だったが、彼が目指していたエンディングは、まだもう少しだけ先の場所にあった。


―― ―― ――


「ありがとう! 勇者ユリト! エシャロット!」


 魔王を討伐――といってもユリト能力スキル冬至の悪夢ルシファーズパンプキン』をひと目見た魔王が勝手にドン引いて魔界に帰っていっただけなのだが――した異世界転生者の青年由利都ゆりとと、一般エルフの少女エシャロットが彼女の故郷の村に凱旋すると、二百人からの村人たちは大きな拍手で二人を迎えた。

 もっとも由利都にしてみれば、魔王討伐などはただ成り行きでそうなっただけに過ぎず、彼の真の目的は未だ以て達成されてはいなかった。

 この世界の住人たちにとっての宿敵が魔王であったように、彼にとってのそれは、いま目の前で真夏の向日葵ヒマワリのような笑顔を咲かせているエルフの少女――エシャロットに他ならないのだ。


「あの……えっちゃん」


「うん? ユリっちどしたの?」


「聞いてもらいたい話があるんだ」


「なに? 急に改まって……」


「もしかしたら気付いていたかもしれないけど、俺、君のことが――」


「好きなんでしょ?」


「うん。やっぱ気付いてた?」


「気付いてたっていうか、初めて会った時にそんなやり取りをしたと思うけど……」


「そうだっけ?」


「うん」


「でも一応言ってもいい?」


「あ、うん……どうぞ」


「俺、君のことが好きなんだ。初めて会ったあの瞬間から」


「……あのね、ユリっち。私も……私もユリっちのことが……好き」


「えっちゃん……」


「魔王城であなたがカボチャを片手にヘラヘラ笑いながら魔王に詰め寄っていた時、私は私で一生懸命だったの」


「一生懸命だった?」


「うん。このあと、どうやってあなたに自分の気持を伝えようかって、ずっとずっと考えてた」


「そう……だったんだ」


「あのねユリっち。この村にはいにしえの言い伝えがあるの」


「言い伝え?」


「うん。結婚式で花嫁が持つ花束ブーケを、式の日の朝に新郎と新婦で摘みに行くとね、二人は永久とわに結ばれるって」


「自給自足なんだ」


「……もしね。もしそれを、ね。ユリっちと一緒に取りに行きたい……って言ったら、さ……」


「その花はどこにあるの?」


 あどけない顔を真っ赤にしたエルフの少女は、言葉で伝える代わりに白く細い腕を真っ直ぐに伸ばすと、遥か遠くに見える山々の頂を指差した。

 魔物がいなくなった今であれば、魔王が置いていったスレイプニルを飛ばせば二時間といった距離だろう。


「えっちゃんは朝って得意なほう?」


「え? あ、うん。スヌーズなしでも起きられるタイプだけど」


「じゃあ大丈夫だね」


「え?」


「明日の朝、太陽が昇る前に出発しよう。君と僕とふたりで、その花を摘みに」


「……うんっ!」


 ――Fin――

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小中と通知表に『やれば出来る子』と書かれ続けた俺のファンタジー ~異世界で出会った超絶美形なジモティーの少女に頼まれたので魔王討伐の旅に出ようと思います。彼女に振り向いてもらう、ただそれだけのために~ 青空野光 @aozorano

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