旅立ち
気がついたらこの世界にいた
「あなた、本当に別の世界から来たの?」
エルフの少女は異世界転生者を自称する青年を、まるで値踏みでもするかのように大きく切れ長な瞳でまじまじと見つめた。
「あ……うん。ほら、これ」
青年は脇に挟んでいたクリアファイルからB4サイズの羊皮紙を取り出すと少女に見せた。
それは彼がこの世界で目覚めた時に神に与えられた
「あ! ホントだ! すっごい! 異世界転生者って私、初めて見た!」
少女は
すると、その拍子にポケットから数枚の
「あっ」
腰を屈めて拾おうとした少女を手で制した転生者の青年は、土にまみれたそれを手早く拾い集めると軽く埃を拭ってからそっと手渡した。
「ど、どうもありが……とう」
「どういたしまして」
エルフ生来の白い肌がみるみるうちに紅潮する。
少女はそれを悟られまいとしたのか、黄緑色の短いスカートの裾をもみじのように小さな両手のひらでギュっと掴むと下を向いてしまった。
そして、ゴブリンの寝言よりも小さな声でひと言「……
「……あ! ねね? ところであなた、
「うーん。それが定番だっていうのは聞いたことがあるんだけど、いま俺が興味があるのは……」
彼はポケットからボールペン――これもこちらへ来た時に神に与えられた
「で、何にしたの?」
「んと。『自分の出来る範囲内で頑張ればもしかしたら目の前にいるエルフの少女に振り向いてもらえるかもしれない』っていう
「それって、
「うん。君のことなんだけど」
「だ……だったら別に
「え?」
「ううんなんでもない! それよりもさ? 郵送後でも
「別のっていうと、例えば?」
「うーん……あ、じゃあ、カボチャを飛ばすのってどう?」
「南瓜?」
「うん、カボチャ。たまにさ『もしかしてこれオリハルコンか何かで出来てるんじゃないの?』ってレベルの、ハッチャメッチャにかったいカボチャってあるでしょ?」
「ああ、あるある。俺も以前ムリヤリ包丁を入れたら進退
「そうなんだ。ちなみにだけど、それってそのあとどうしたの?」
「上半身だけ裸になってから南瓜に片足を乗せて思いっきり引っ張ってみた」
「えっ? なんで服脱いだの? ……まあいいけど。それで?」
「気がついたらこの世界にいた」
「……そうなんだ」
「なんか本当は先にレンチンするといいらしいね」
「結果論ではあるけれども先にそっちを試せばよかったね……」
「ん。でも、そうしてたら君に逢えていなかったんだから結果オーライかなって」
「(……バカ)」
「ん? なんか言った?」
「ううん! なんにも言ってない!」
「で、ごめん。なんの話だっけ?」
「あ、そうそう! あれを飛ばして手元に戻ってくるのってどう? 絶対に
「確かに想像しただけで恐ろしいね」
「でしょ!? スキル名は――
「……うん」
「あっ! てゆかまだお名前きいてなかったよね? 教えてもらってもいい?」
「そう言えば名乗ってなかったね。俺は
「ふふっ」
「え、なに?」
「あ、ごめんなさい! ユリトってね、こっちの言葉で『食用の球根』って意味だったから、つい。でもいい名前ね。私は好きだよ」
「好き――」
「あっ! ちがくて! そういうんじゃなくって!」
「で、君の名前も聞いていいかな?」
「私? 私の名前はエシャロット。『大地の精に祝福された子』っていう意味なんだって」
「美味しそ――いい名前だね」
こうしてここにメッチャお似合いの異種族パーティーが爆誕したのだった。
のちに『
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