失われた追憶の眺め

 時代を感じさせる作風にフッと思い立ったように乗りたくなる感覚に陥ります。叙情的な描写が、センチメンタルな眼差しが、時代を代表する寝台特急への想いを馳せるかのように、とても愛おしい夜景イメージとして颯爽と駆けていきます。そして、この列車に乗っている理由も叙情詩として、とても切なく、レールの継ぎ目を跨ぐように響くのです。
 科学技術の進歩に伴う社会インフラの趨勢。この波に飲まれた青き特急が受けた淘汰と、車窓から眺めた恋焦がれた夜景の喪失とが見事にシンクロし、あなたの心を静寂の如く打つことでしょう。過去という想いを巡らせた場所の風景は今も残っているのか、そう思う時は、心の中にある風景にきいてみよう。そう思わせる美しくも儚い物語です。