無垢な白い花が真っ赤な血の色に染まるまで。

タイトルに含まれるダイアンサスとは、ナデシコ科ナデシコ属の総称です。撫子と聞いて我々が想像するように、この物語の主人公であるテレーズ様は聡明かつ穏やかで心優しい。美しく純真無垢な姫君は、例えるならば真っ白な花のよう。物語が始まった当初のテレーズ様は、純白の撫子のような姫君なのです。キャッチコピーにあるような悪女になど、到底なりそうにない。

この天使のような姫君が、悪女になどなるはずがない。だってテレーズ様は両親を早くに喪ったとはいえ兄と妹たちがいるのだし、頼れる婚約者だっているじゃないか。なのに、どうして。

この物語の世界に足を踏み入れると、皆そう首を捻るでしょう。ですが、テレーズ様を血塗られた権力者へと導くきっかけは、物語の当初からそここに散らばっているのです。そして、青空に浮かぶ一片の暗雲――いいえ、白い花びらにぽつりと落ちた赤は、ある出来事を切っ掛けに、どんどんと白を埋め尽くしていきます。白い花を赤く染めるのは血潮です。ですがその血は、実はテレーズ様のものなのです。

テレーズ様は幾度となく傷つき、けれどもなお愛を支えの杖として、守るべき者のために立ち上がります。しかしその愛は美しくも、薔薇のように鋭い棘を備えており、姫君の心を引き裂くのです。

傷つけられた心から流れる血によって、一輪の撫子がとうとう紅蓮に変じた時。それこそまさに、血塗られた最高権力者が誕生する時なのでしょう。そして、恐ろしくも美しい花がほころんだ時、私たちはきっとその花を愛でずにはいられないのです。