団欒
「ライトとビルが来てからもう10日か~。最初はどうなることかと思ったけど2人とも物覚えが早くて助かるよー、ずっといてくれてもいいくらい!」
ソフィアと頼人とビルの3人は毎日の仕事が終わってから毎日夕飯を囲んでいた。そのおかげかどんどん打ち解け、すっかり仲良くなっていた。今日は母アリサも食卓に来て、一緒に夕飯を食べている。
「いや、むしろこの仕事量をソフィアとアリサ2人でこなしてたのがびっくりだよ、俺とビルの男手2人分あってもしんどいのに」
「それは母が…なんというか人間離れしてるというか…」
「人間離れしてるなんて、お母さん悲しいわ。お母さんだって羊3頭しか持ち上げられないのに」
「いやナニモンだよ。その元気さライトにも分けてやってほしいもんだね」
暖かいシチューを食べながら和気あいあいと話は続いていく。
「そういえばアリサさん、もう足の調子はだいぶ良くなってきたんですか?」
これまでアリサの夕飯はソフィアがベッドに届けていた。
「ええ、もう3日もすれば松葉杖なしでも歩けるようになりそうだわ」
「それはよかったです」
「それにしてもライトくん初めての依頼とは思えないほど頑張ってくれてるわあ~。これから伸びそうだからお近づきになれてよかったわ。これからもよろしくね」
「いや、俺はとにかく毎日の仕事ひたすらやってただけで、なにがなんだか」
「ま、いんのよ。冒険者んなかにも依頼とかクエスト受けたは良いが、さぼりまくってるやつとか挙句の果て犯罪まがいのことするような奴が。その点ライトはまぁ真面目にやってる方だな」
「そんな奴らが」
「ギルドも調査はしてるが、なにぶん冒険者ってのはふらふらといろんな所を転々とする生き物だからな、つかめねぇのよ」
ビルは頭を押さえるような仕草をしてそう呟く。
「さ、明日も早いから今日は寝ましょう。ライトくん、ビルさん明日もよろしくね」
話が一区切りしたところでアリサは手をパンと叩いて、寝室に戻る。まだ松葉杖に頼ってはいるが、二人と出会った時よりは随分スムーズに歩けるようになっていた。
「そうですね、おやすみなさい」
「おやすみーライト」
そうして頼人とビルは家を出て少し離れたところにある牧場に立てている仮キャンプ地に戻った。
この依頼を受けてから二人はテントの中で、雑魚寝をして夜を過ごしている。いつもは頼人が疲れの余り、横になると同時に寝落ちしていたので会話することなどなかった。だが今日はふとビルが口を開いた。
「ライト、お前は冒険者には向いてねぇ」
「え?」
唐突なビルの発言に驚きを隠せない頼人。
「お前はいい人なんだ。誰も傷つけないし、傷ついているところを見たくないと思ってる。よほど大切に育てられたとみる」
(そりゃあ…確かに日本じゃ自分から人を傷ついているところを見たいなんて思う人は滅多にいないだろう)
「だが、それじゃ、冒険者は無理だ。もちろん好き好んで人を痛めることを目的としてるやつは少数側だが、ダンジョンの宝を巡ったり、政治や思想の違いだったり、単純に自分の武を唱えるためだったりどこでも争いは起こる。そうなったときにお前は多分、いや、必ず負ける」
「…」
「今はお前に慣れさせるため、羊飼いをやっちゃぁいるが、俺たち冒険者の本分は戦いだ。世界の未知を開拓するためには必ず代償が伴う。俺たち冒険者は目を覆いたくなるような現実を目の当たりにすることがある。それは明日かもしれないし、10年後かもしれない。いずれにせよ、そうなったときお前は壊れちまう。俺はそれを見たくねぇんだ」
「ビル…」
いつにも増して真剣なビルに頼人は何か言おうと口を開いたが、二の言葉が出なかった。
「だからライト…おまえは…「きゃあああああ!!!」」
「!?」
ビルの言葉を遮るように甲高い叫び声が牧場を駆け巡った。
「おい、ライトは残ってろ。俺が見てくる」
ビルはすぐさま立ち上がり、軽装と大刀だけを手に取りテントから飛び出す。
「ちょっ、ビル!」
頼人の声などとうに届かない。
「おいおい、なんであんなことになってる…」
外に出たビルが呟く。彼が目にしたのは先ほどまで、自分たちが談笑していたソフィアとアリサの家が轟轟と燃えている姿だった。
『選択』の呪いを課せられた俺は世界を救うか、滅ぼすか 宇渡織部 @UDOORIBU
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