物語の始まり

「やあ、諸君!またこのような喜ばしい日を迎えられて何よりだ。今日もまた、6人の新たな冒険者が生まれた。私が思うに、冒険というのは人間の繁栄そのものである。古より我々は未知を探求することで未来を築いてきた。この街もかつては何もない平野だった。夜は敵に怯え、ただ隠れるしかない無窮の闇だった。冒険とは闇を解き明かし、世界を切り拓く行為だ。君たちは世界を照らす灯火となる。さあ進め!足を止めるな、思考を放棄するな。世界にはまだ見ぬ領域が無数にある。世界は君たちの冒険の先にある」


 発破をかけるミュラー王の演説が終わりを告げると静寂が包む。が間もなく歓声、雄たけび、それらが地鳴りのように響き渡る。

 頼人は先輩冒険者たちの盛り上がりに驚きつつも、また自分の中にも燃えるものがあるのを感じた。これまで思考を放棄し、自分で進もうとしたことはない。だが、強制ではあったものの2度の選択を経て、この場所にいる。そこにこの王の演説。まるで自分を応援してくれているように感じていた。


「王様…!」「もちろんだ、俺が世界の開拓者になる」

 頼人の同期の新人冒険者も演説に感化され、熱くなっているようだ。


「我らが国王ミュラー王がご退席なされます。盛大なる拍手でお送りください」

 ギルド内の興奮が収まらぬ中、司会が王の退席を告げる。王はマントを翻し、演台の裏へと下がっていく。

 が、途端に足を止め、頼人の方へ歩み寄ってきた。そして頼人に耳打ちするように


「君が瀬戸頼人君だね、私は君のような人物を待っていた。なぜ君が私の話を聞けているか、それをよく考えてほしい。にその答えを聞かせてほしい」

そう伝えて王は舞台裏に消えていった。


「な…なんだ今のは。王は何を俺に伝えたかったんだ…?」

 冒険者登録式が終わるまで頼人の頭の中で王の言葉が反芻し続けていた。




「おいおい、ライトォ!お前なにしたんだ?王サンになんか言われてなかったかぁ?」

 ビルが好奇か心配か、そう言いながら頼人に半笑いを浮かべて歩み寄ってきた。


「い、いやあ。なんでかって俺にも分からなくて。ただなんで俺が王様と話せているか考えろって…」

 困惑が解けない頼人はもにょもにょ答える。


「んなんだぁ、そりゃあ…、お前やっぱなんかしでかしてるんじゃねぇの」


「いやそんなことは…この国も王様も初めてですし」


「そうか?ま、なんでも良いが。それよりこれで冒険者になったんだから、明日からは覚悟しとけよ?死なない程度に働かざる者なんたらをしてもらうぞ」

 これまでにない悪い笑みに頼人に口角は引き攣るしかなかった。



-翌日-



「さあ起きろ頼人!なんも生み出さねぇ奴をいつまでも俺ん家に置いとけるほど俺は金に余裕ねぇぞ!」

 まだ太陽が地平線にある頃、ビルは頼人の怒号で叩き起こされる。もちろん、今日もビルの家にて。


「まだ眠いですよ…こんな朝早くから冒険しなくても良いじゃないですか…」


「うるせぇ!居候が文句言うんじゃねぇ、俺に従え従え」

 頼人は(うるさいのはビルさんだよ…)と思いながら、言われていることは正論なので眠気眼をこすりながらゆっくりと体を起こした。


「それにもう今日の仕事は決まってんだよ、さっさと顔洗ってこい」


「え、そうなんですか?いつの間に」


「てめえが昨日ボケボケしてる間に依頼とってきたんだよ、おらいくぞ」

 まだ意識がはっきりしない頼人に対してもう準備万端だと言わんばかりに戸に手をかけるビル。


「ま、安心しとけ。今日のはお前でも安心して行っていい。…それと今日から俺とお前は同じ冒険者だ、つまりは対等。タメ口でいいし俺のこともビルで良い。ま、お前が俺のことを大尊敬してて、崇めてるならとめねぇがな!」


 ビルは頼人の方に向き直り、ガハハと笑ってそう言った。

 頼人は一瞬驚きながらも、やや口角を上げて


「よろしく、ビル」

 それだけ答えてベッドから起き上がった。

 


 2人は日が高くなる前に城門を抜け、しばらく歩き郊外の村に到着した。そして一軒の小さな家の前に立ち


「さ、今日の依頼主は彼女だ。挨拶しな」


「は、はい。ごめんくださーい。依頼を受けてやってきました~」


「はーい」

 依頼主を呼ぶ頼人の声に反応し、声がした。そして戸が開き…


「へ?」

 その依頼主に頼人は声にならない息が零れた。

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