初仕事
依頼主として現れたのは少女だった。
彼女を見て頼人は真顔で呟く。
「うお、かわい...」
「は?急に何言ってんだライト」
唐突な発言にビルも真顔で突っ込む。少女は流れるような銀髪に碧眼を携え、頼人の元居た世界では美少女と誰もが口をそろえるような容姿だったが、ビルは何も感じていないようだった。
「あ、いやごめん、なんでもないです」
ビルの反応に加え、少女もきょとんとしているのをみて頼人は冷静になる。
(あぶねぇ!つい口に出てしまった。いやでもこの子クソかわいいだろ!ビルももっと反応しろよ。…いや逆に、もしかしてこの世界って顔面偏差値めっちゃ高いか?確かにこれまであった人はみんな顔がよかったような。シュティムはさわやか系のイケメンだったし、あの同期の新人たちもよかった気がする。ビルも…イケおじと言っても...まあなんか癪だけど)
頼人が何やら悶々と考え込んでいる姿を見て少女ははっとし
「あ、ごめんなさい、あんまり言われたこと無かったからびっくりしちゃっただけで、全然悪い気はしてないので…!」
手をわたわたとさせて、慌ててフォローをする。
「いやいや、こちらこそごめんなさい、会った人にいきなり…」
「いやほんとだよ、お嬢ちゃんすまんね。すまんついでに今回の依頼についてもお願いしてもいいかな」
「あ、はい。じゃあ、玄関で立ち話もなんですし、中へどうぞ」
そう言うと少女は家の中に案内した。
「わたしはシュネー・ソフィアと言います。ビルガメスさんと、ライトさんですね。今回お二方には羊たちのお世話をお願いしたくてですね。私たちはここで羊たちを飼って生計を立ててたんですが、3日ほど前にお母ちゃ…母が足の怪我をしちゃって…」
「なるほど、それでお嬢ちゃんは冒険者ギルドに依頼を出したと」
「そうなんです、母の足の怪我が治るまで…そうですね2週間ほど一緒に羊のお世話をしてほしいんです」
「なるほどね、お母さんはいまどこに?」
ビルの質問に対し、ソフィアが答えようとするとまた別の声が聞こえた。
「ごめんなさいね、なかなか起き上がるのに時間がかかっちゃって」
その声とともに部屋の奥から松葉杖をついた女性が現れた。
「お母ちゃん!安静にしてないと!」
その様子を見て、ソフィアは慌ててその女性に駆け寄る。
「いいのよソフィア、最初くらい私もご挨拶しないと。シュネー・アリサって言います。この前羊さんたちと戯れてたら、ちょっと足がすごい方向に曲がっちゃって。ほら最近治癒魔法屋さん高いじゃない?うちもそんなにお金持ちじゃないから、薬草で直そうと思ってね。だから治るまでお願いね」
「な、なるほど」
丁寧な娘とは違い、からっとした雰囲気に満面も笑みで話す母親に頼人は少したじろぐ。
「もぅ、お母ちゃん元気すぎだよ…」
ソフィアはアリサを支えながら嘆息する。
「まあ、元気なことはいいことじゃないか。それで、結構怪我自体は酷そうだが2週間だけでいいのかい」
ビルは包帯でぐるぐる巻きにされ、力の入ってなさそうなアリサの足の様子を見てそう言う。
「えぇ、このあたりの薬草は治癒力が高いので母の怪我もそのくらいあれば治ると思います」
「そりゃよかった」
(いや、すごすぎるだろ、現代超えてないか)
当たり前に流すビルの様子を見て、頼人はそう言いかけたが、誰にも通用しない転生者ツッコミをぐっとこらえることにした。
「で、具体的に俺らは何をすりゃぁいいんかね」
「そうですね…口で説明しても中々多いので随時説明していきますね。ただ羊の世話全部と思っていただければ!」
アリサを奥の部屋に戻したソフィアと2人は仕事の話をしていた。
「そうか、じゃあ問題はこいつが冒険者として初依頼ってとこだ。多少ミスっても多めに見てくれや」
「本当に俺も心配。何もわかってないままビルに連れてこられたから」
「あ、そうなんですか!大丈夫ですよ、わたしも何年もやってますけどまだミスばかりして母に怒られてるので」
「なんとか頑張るから、よろしくねソフィアさん」
「ソフィアでいいですよ」
「あ、ああうんソフィア」
異世界に来てから激動にもまれ続けた頼人にとって、ソフィア親子の平和さは心に沁みるものだった。
そんなこんなで初依頼を受けた頼人は羊を逃がしたり、餌の山に飲まれたり、あらゆる失敗をしながらもなんとか仕事をこなしながら10日が過ぎていった。
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