冒険者登録式
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「やっぱ、盛り上がってんじゃねぇか!こうでなくちゃなぁ、ギルドは」
「すごい熱気ですね、みんな新しい冒険者…ってわけじゃないですよね?」
「そりゃそうだ、みんなお前ら新人を見に来てんだよ。ま、いうなれば品定めだな。あわよくば将来有望なやつを仲間に引き入れたいんだよ」
冒険者登録式に出席するため、再びギルドを訪れた頼人とビル。建物の中は昨日以上に人で溢れていた。その多くはまだ見ぬ新人を、期待を込めた眼差しで今か今かと待ちわびている。
「見ろよ、ライト。『神速』のシュネルだぞ、まさか来るなんてなぁ。おいあっちには『業火』のブラント、『踊り子』ニートリヒ、『深爪』イテー、『激務』シャチクまで!?」
いや後半変なのいたな、という突っ込みをぐっとこらえた頼人は、人ごみの中からこちらに向かって歩いてくる人影を見つけた。
「よっ、まさかライト君が本当に冒険者になっちゃうなんてねぇ。本当に君ってやつは…最高じゃん!」
不意に二人に話しかけてきた獣人の男、シュティムは頼人の方をバシバシと叩きながら称賛する。
「シュティム、お前が変なこと吹き込むからめんどくせぇことになっちまったじゃねぇか」
「ええ~、俺のせい~?まあいいじゃん、細かいことは!今はライト君の決断を祝福する時だよ。ライト君、おめでとう。君の新たなる一歩を祝うよ」
「あ、ありがとうございます。シュティムさんもわざわざ見に来てくれて…」
「あ、もうそんな丁寧に話さなくていいよ!俺とライト君は同じ冒険者なんだしタメ口で来てよ」
シュティムはニコニコと笑いながら、頼人を歓迎する。
「あ、ありがとう、シュティム…さん」
「シュティムね」
「う、うん分かったよシュティム」
頼人は一瞬ためらいながらもシュティムの好意を無碍にしないことにした。
「ビルもいつまで敬語で喋らせてんのさ」
「あ?良いんだよ、俺は。こいつには俺に恩義があるってことを常に思っておいてもらわなくちゃなぁ」
「ほんと良い性格してるよ、ビルは」
そんな他愛もない会話を3人で続けているとギルドの中が暗くなる。と同時に周りよりも一段高いステージが照らし出される。そこには小さな椅子が7席と、ひときわ大きく衣裳の凝られた椅子が1席あった。
「それでは、新しく冒険者になられる7名、前へ」
「お、呼ばれたぞ、ライト、行ってこい」
「い、行ってきます…!」
ギルド職員の呼びかけに応じ、前へと出る頼人。そして、案内されるまま席に着く。ステージの上から見渡すとより、この登録式への注目が窺えた。頼人は衆目が集まることに改めて緊張し、唾を飲み込む。と一足早く隣の席についていた女性から声をかけられた。
「ごきげんよう、あなたも新人冒険者ね。私はヴィンザーヘルム・ディオナ。よろしくね」
「あ、ああ、よろしくディオナさん」
挨拶とともに差し伸べられた手を握り、握手をする。それを見たディオナの顔は一瞬きょとんとするが、頼人がそれを確認する前に辺りは暗くなった。そしてギルドの入り口、その一点が照らし出される。
「我らが王、ミュラー王の入場であります。皆様、静粛に」
その宣言を受け、ギルド内は静まり返る。ただ、入口を開く音が響く。
開かれた扉から王と思しき人物が現れる。
「…王様!?」
頼人はその姿を見て衝撃を受ける。理由は2つ。1つは王がこの場に現れることをしらなかったから。もう1つはその者を王と呼ぶにはあまりに脳が拒否したからだ。従者を従え雰囲気は十分に王なのだが、服装に違和感があった。王冠を被り、錫杖を携え、マントを羽織っている。だが、マントの中からはスーツのようなものが覗いていた。
だが、ギルドにいた大衆は気にすることもなく、平伏する。頼人は困惑しつつも周りに合わせ、頭を下げる。王はそのまま進み、用意された大きな椅子に腰かけた。
「それでは、只今より冒険者登録式を致します」
頼人の困惑などよそに式は始まり、つつがなく進行する。
………
……
「続きまして、新冒険者、点呼」
ついに新人冒険者のお披露目が行われる。
「ヴィンザーヘルム・ディオナ」
「はい」
始めにディオナの名前が呼ばれ、ディオナが返事とともに立ち上がる。
だが、口を開いたのはディオナだけではなかった。
「おい、あれがヴィンザーヘルム家の令嬢か…」
「天才ヴィンザーヘルム・ノアの妹だ、あいつも相当やばいらしい」
「もうA級クラスの実力があるらしいぞ」
聴衆は口々にディオナの情報について語り合う。頼人は驚いてディオナの方を見たが、ただ王をまっすぐ見ているだけで、なにも感じていないように思えた。
「セト・ライト」
「は、はい!」
続けて頼人の名前が呼ばれる。頼人は元気に返事をしたが、聴衆の注目は未だディオナに集まっていた。ただ、王の視線がわずかに頼人の方に向き、眉を動かした。
「クライン・カレン」「ヴィンド・フランツ」「ワッサー・ヤン」「ファルケ・シャルロッテ」
さらに新人の名前は呼ばれ続ける。いずれも決意に満ちた目をしており、集まった先輩冒険者はご満悦なようだ。あいつはやるぞ、俺の仲間として認めてやろう、私のよ、などと口々に主張している。
「以上
その言葉を皮切りに盛大な拍手が起こる。
「これが冒険者…!」
想像以上に胸の高鳴る光景を見て頼人は興奮していた。
「続けて、ミュラー王による激励のお言葉です。新冒険者の方々は心して聞くように」
ギルドの盛り上がりが高まる中、奇抜な衣装の王の演説が始まる。
…それは頼人の冒険者としての在り方に大きな影響を及ぼすものとなる…。
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