冒険者ギルド
「さぁ着いたぞ、見ろライト!これが俺たちの街、『アンファング』だ!!」
「でけえええ!!!」
平原を2日走り、ようやくたどり着いた目的の街。10mを超えるような巨大な城壁に囲われ、中にはそれをも超える高さの城が鎮座している。だだっ広い平原にポツンと存在しており、遥か彼方からでもこの街は確認できたが、改めて近くで見るとその威容は計り知れない。
「いつまで、外から眺めてんだライト、俺は疲れたから早く中に入りたいんだがぁ?」
「す、すいません、あまりの立派さに見とれてしまって…」
「だろぉー?分かってんじゃねぇか、だがこの壁の向こうはもっとすごいぜ?」
しばらく城壁を見上げていた頼人だがその発言にさらに目を輝かせる。
「入りましょう入りましょう!」
「よし来た!」
そう言うとビルは何か手帳のようなものを守衛に見せる。すると門が開かれ、中の喧騒が際立って聞こえるようになった。頼人とビルは守衛に先導され、門をくぐる。
「入って腰抜かすんじゃねぇぞ?」
ビルのその発言が終わるが早いか、頼人の眼前には『繁栄』が見えた。
「あ、ああ…すごい…」
もはや頼人は言葉を失った。
門を抜けた先には人が何十人とすれ違えるだろう大通りが通っていた。その終点には趣向が凝らされ天を突かんばかりの城、大通りの左右には幾百もの商店が展開されている。街の各所には巨大な建物が散見され、この繁栄が一部分だけでないことが分かる。
「どうだ?これが『アンファング』だ。これでもつい20年くらい前まではただの宿場だったんだぜ?それが今では大陸1の都市よ。いやぁ今の王には足向けて寝れねぇぜ。…って聞いてねぇか」
ビルは小さな子供のように好奇心満ち溢れキョロキョロしている頼人を見やり、苦笑いで嘆息した。
「ビルさん、今すぐに見て回りましょう!」
見渡すのは気が済んだのか、今度は探検しようと提案する頼人。だがビルは一点を見つめて
「ま、お前がこの街を気に入ってくれたのは嬉しいが、まずは冒険者ギルドだ。クエストの報告をしねぇとな」
「冒険者ギルド?クエスト?」
「あぁそうだ。ま、着いてくれば分かる」
知らない言葉に?を浮かべる頼人に顎で行く先を示すビル。
二人は賑わいをかき分けつつ歩いて行った。
「よし着いたぞ、ここが冒険者ギルドだ」
「ここも大きい建物ですね…」
『冒険者ギルド アンファング支部』と書かれた立て看板が掲げられた建物もまた大きく、並みの施設でないことが分かる。
ビルは入口へと進むとそのまま扉を開け、中に入る。
「この俺、ヴォルフ・ビルガメスが帰ってきたぞー!!」
ビルは入るなり、高らかに帰還を宣言したが、中の騒がしさにかき消される。
「ん?なんだよ今日は随分と賑やかじゃねぇか。なんかあんのか?」
「そりゃ、明日が冒険者登録式だからじゃん」
なにか変わったことがあるのかと周りを見渡すビルに茶色の短髪にしっぽの生えた若い男が話しかけてきた。
「シュティムじゃねぇか、久しぶりだな。そうか明日登録式か。まぁ、俺には関係ねぇが、賑わってくれるのは良いことだ」
「だね~、最近は『教会』の手も伸びてきてるし、なんとかオレたちギルドも活躍しないとね~」
ビルとシュティムという男はしばらく近況を報告しつつ、互いの活躍を称え合っていた。
「で、ビル、君の横にいるさっきからずっとキョロキョロしてる挙動不審なやつは誰?」
シュティムは先ほどから視界の端で気になっていた男について尋ねる。
「あぁ、こいつはセトライトっていう奴だ。外で拾った」
ビルの紹介に続けて頼人は「どうも、瀬戸頼人です」と続ける。
「へ~、ライト君って言うんだね。オレはフックス・シュティム。外で拾ったってビル言ってるけど、何してたの?」
「いやあ、気付いたらいたというか起きたらそこだったというか」
頼人は頭を掻きながらまた要領を得ない回答をする。だが、シュティムにはそれがお気に召したらしく
「アハハハハ!、君面白いやつだな~、いいじゃん意味わかんなくて!」
どこがツボに入ったのか、ゲラゲラと笑うシュティム。そして続けて
「ビル!こいつ絶対面白いよ、冒険者にしようぜ。今のギルドにはこんくらいトんでる奴が必要だよ!」
「勘弁してくれ、こいつはただ呆けてるだけだろ」
シュティムの突飛な提案にこめかみを押さえるビル。だが、当の頼人はシュティムの尻尾を見つめていた。
「あ、あのつかぬ事を伺いますが、その尻尾は…?」
シュティムは一瞬呆気にとられた顔をしながら、再び大笑いした。
「アハハハハハ!!もしかして獣人を見るのは初めて?君もしかしてすごい田舎の出かな?やっぱり冒険者になるべきだよ!ここに来たのは冒険しろって運命だよ!」
「お前相当無知だとは思ってたが、ここまでとはな。よくあんな平原の真ん中で生きてたもんだ」
シュティムとビルは反応の違いはあるにせよ相当驚いていることには違いなかった。頼人はその反応を見て(この世界は人間以外の人もいるのか)と自分を理解させた。
「まぁいいや、俺はクエストの報告をする。シュティム、また後でな」
「じゃあねー。ライト、君の良き決断を待ってるよ」
終始楽しそうだったシュティムは手を振り去っていった。
2人はそれを見送ると『報告窓口』と書かれたテーブルまで進んだ。
「お疲れ様です。クエストの報告ですね?お名前と証拠の提出をおねがいします」
「ヴォルフ・ビルガメスだ。証拠は…ほらよ、『竜の炎石』だ」
「ヴォルフ・ビルガメス様…、はい、証拠も確認できました。お疲れさまでした。こちらが報酬になります」
「あい、あんがとよ」
ビルは慣れた様子で報告を済ませ、報酬を受け取った。頼人はその一連の流れでも聞きたいことが多くあったが、いったんこの場では飲み込むことにした。
「よし、いったん戻るか」
頼人はビルの言葉とともに身を翻して元の場所の戻ろうとした瞬間、視界は光に包まれた。そして前日も見たあの光景を再び見る。果てまで白い世界に2つの門。
今度は
【冒険者ギルドに入る】
【冒険者ギルドに入らない】
と書かれた門があった。
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