【第七話】最後に向かって歩き続ける。どんな結末だとしても

「どっからだよぉ!!」

タァァァァン!!

 殺気の感じた所に一発撃ちこんで窓辺から離れる。吹雪はやみ始めており、視界も晴れてきたものの、やはり何も見えない。いったいどこにいるんだ?早めに見つけないと被害者が出てしまう。

「バンパー!制圧はどうなった!」

《オールクリアだ。ただカルイの右腕が負傷した》

「さっきの戦いで?」

《いや……狙撃だ。今は二号館の中に避難している。お前も気を付けろ。三号館から撃ってきたと思う》

 ‘‘出てしまう‘‘、可能性から事実に代わってしまった。すでに被害者はいた。運よく右腕に当たったものの、一歩間違えれば命はなかったはずだ。すぐに制圧しないとバンパーたちが動けなくなってしまう。

「まずはこっから出るぞ」

『正気か?撃たれる可能性があるのに?』

「射線に入らないようにだ。三号館からの射線は一号・二号には通るが、正門方面を通ると装甲車や送水管が遮蔽になってくれる。そこから行けば裏をとれるはずだ」

 今のところ三号館以外は完全制圧済みとのこと。裏切り者のロシア機甲部隊も確認できてないし、三号館の敵の数も不明。何なら援軍が来るかどうかも分からない状況だ。

 今すぐに状況を打開しないと、まもなく死体が5つ増えてしまう。そうなってしまったら死んでも笑えない状況になってしまうぞ。てことで、まずは援軍の有無だ。光君経由でカインに聞けば分かるはずだ。あいつなら周辺地域の監視カメラをハッキングしたり、財団から情報提供してもらえるはずだ。

「光君~。カインに敵の援軍の有無を確認してくれない?」

 しばらくの間無線からノイズが流れ、光君が無線に応答する。

《はい、先輩。ちょっと確認してきます》

「了解」

 さて、確認結果を待っている間に攻略方法を考えよう。今のところ、三号館の敵は僕の存在に気付いていない。そして巡回兵もいなくなったから、うまく懐に入れそうだ。

「ハスらにスポットさせないと……」

 侵入の際にはハスが機銃掃射し、その銃声に紛れて侵入。そこからは殲滅だ。

《先輩。援軍は今のところいないみたいです》

 無線から光君が応答する。援軍はいない、これなら好都合だ。残りはハスらとタイミングを合わせるだけ。

「ハス!僕の言うタイミングに合わせて依託射撃を始めて!」

《えぇ!?狙撃手がいる状況で?正気?》

「僕はいたって正気だ。頭は出さなくても結構。敵の注意を向けさせればいいんだ」

《……バンパーに怒られてもいいの?》

「僕が死ぬよりかはマシさ」

 そっからはなんも反応がなかった。まぁ、おそらくOKだろう。

「さて、Ready or notの時間だ。ただし、ロシア版の」

『お前は何でもゲームに例えたがるよな』

「そう?」

 三号館からの射線に入らないように、慎重に移動する。

『ここでの使えるものを探す時も、「タル○フみたい!」ってはしゃいでるし、今もReady or notって言ってるし』

「一番最後のは関係ないでしょ?準備できてるかそうでないか。お前はどうなんだ?」

 ダストの愚痴に対して言い返す。三号館まではもうすぐだ。

『俺か?……いろいろ引っかかるところはあるが、I`m readyだ』

「知ってたよ。ハス!弾幕オンライン!」

 三号館の懐に入った瞬間、ハスに合図を送る。

《弾幕オンライン、了解!》

 そして二号館の方から重厚な機銃掃射の音と、弾丸が空気を切り裂く音が聞こえた。それに合わせてDVLの銃声も鳴る。音がこもっていないから室内だろう。

「Let‘s go!」

 邪魔になるバックパックとMPPRは地面に置き、F46Tを構える。銃声に合わせて扉を開け、暗がりの中に転がり込んだ。遮蔽から顔をのぞかせると、キャットウォークの上からDVLを射撃している狙撃手が見えた。近くにはPMCだと思われる人が3名。建物の中にはロシア機甲部隊の車両はなく、ロシア軍兵士の姿もなかった。

「UAVの動画はフェイクだったのか?」

『単純に移動した可能性がまだあるぞ』

「……なるほどね」

 ダストの言葉に嫌な予感がしたが、頭の片隅にしまうことにしよう。ショートスコープを乗せて、近中距離対応モデルにしたF46Tの銃口を敵に向ける。距離は50mもない。

「リコシェットさえ起きなければ、絶対に殺れる」

 スコープの中心のドットを頭に合わせ、重いトリガーにかかった指に力を込めた。

タァァン!

 乾いた銃声が機銃の音とともに鳴り響き、DVL持ちの狙撃手が膝から崩れ落ちる。

「Man down!」

 どうやら敵は僕の存在にまだ気づいていないみたいだ。ここからは一気に攻め落とすぞ。現在確認出来た敵は、全員キャットウォーク上。通路は狭く、何かあったらすぐに移動はできなさそうだ。

「ハス。射撃止めてこっち来て。今から制圧するから射線の心配はいらないよ」

 ハスに一言入れ、インパクトグレネードを構える。PMCらは一か所に固まっているため、全員まとめて倒すことができそうだ。

「距離よし、角度よし、場所よし!では、ボールを相手のゴールにシュゥゥゥト!!」

 握りしめていたグレネードを放り投げる。敵は僕の声に気付いて銃を構えたが、すでにグレネードが彼らの頭上まで迫っていた。

「今!」

バァァァァン!!

 耳を貫く爆発音と、複数の断末魔の声が聞こえる。とりあえず全員倒せたみたいだ。建物内からは他の足音も聞こえないし、敵の気配も感じられないから制圧完了だろう。

『自分の目で確認するまで油断できないと思うけどな』

「まぁね。ていうか、狙撃手は何でここまでこれたんだ?」

 もともとDVL持ちは北側の丘上にいたと思われる。そして数分もたたないうちに、三号館から射撃をしてきた。直線距離にして100m以上。しかも浄水場内部からしか三号館にアクセスできないため、早くても十数分は移動にかかるはずだ。

「それより死亡の確認だ。もしかしたら運よく生き残っている奴がいるかも……」

 金属製の階段駆け上がり、銃口を敵の死体に向けながら歩く。

「一発、二発……三発目」

 一人ずつ頭に銃弾を撃っていき、死んでいることを確かめる。そのうち一人がDVL持ちだった。

「最後は……」

 いない。どこを見渡してもいない。敵は四人いたはずだ。で、ここにいるのは三人分。

「いったい……」

 周囲に注意を向け、索敵していた瞬間。後ろから服がこすれる音がした。そして折り畳みナイフを展開する音が。

「うしろぉぉぉぉ⁉」

 ザシュッ!

「うぐ!」

 死体の中から這い出てきた敵に反応が遅れ、左目に向かってナイフを切られる。急いで瞼を閉じたから眼球に被害はなかったが、痛さで目を開けることができない。まだ開ける右目を使って敵の位置を把握する。

「二発目はない!」

 相手がナイフを振りかざす前にガバメントを引き抜き、脳天に向かって.45口径を叩き込んだ。頭を吹き飛ばされた敵はそのまま前に頭から倒れた。周囲には吹雪の音と、外から向かってくるバンパーたちの足音のみ。

「……殲滅完了?」

『確信して言えないが……そうだな』

                △△△

「痛い痛い!ハスってば、もうちょっと優しく結んでくれないの!」

「無理だね。こうでもしないと出血を止めれなくなって、重症化してしまうよ」

 ハスから左目の応急処置に対して文句を言い、きつく縛られた包帯を手でさすりながら立ち上がる。三号館内にはバンパー含めたメンバーたちがいた。

「仁、視界は大丈夫なのか?」

「なんとか。少なくとも戦闘民族よりかは素早く反応できるよ」

「むっ」

 僕からの小さな煽りに怒りを覚えるバンパーをほおっておく。周囲ではお先真っ暗ならぬ、真っ白吹雪状態から大晴天へと変貌していた。

「ねぇガスター?」

「なんだ」

 近くでノートパソコンをいじっていたガスターに声をかける。彼はパソコンから目を放して答えた。

「結局ロシア機甲部隊はいなかったね」

「そうみたいだな。ただ……」

 含みのある言葉が僕の心に引っかかる。ただ?‘‘機甲部隊がいない‘‘という事実に対して、否定する内容はあるのか?

「ただ?」

「ただ、すでに撤退した可能性はまだ残っている」

「なる……ほど?」

「理解してなさそうだな」

 図星だ。人数的にも武装的にも相手の方が有利。なのになぜ撤退した?僕にはそれが理解できなかった。

「なぁぁあ!もう!僕は頭脳を使うのが苦手なのにぃぃ!」

「お前理系大に行ってただろ。頭はいいはずだ」

「中退したよ!」

 床に置いたバックに顔を埋める。頭がオーバーヒートしそうだ。

「うぉ!」

 ムスッとした顔で倒れてたとき、後ろの方からカルイの悲鳴が聞こえた。いつもかっこつけている彼にしては珍しいな。

「お~い。大丈夫か?」

 振り返ると穴に落ちたカルイと、それに対してあざ笑うような声で話しかけるバンパーがいた。

「何があったの?」

 すぐさま駆け寄る。どうやらカルイが落ちた場所はただの穴じゃなかったみたいだ。

「穴。だけど地下に続きそうなやつだ。一号館と二号館にはなかった気がする」

 カルイがよいこらしょっと穴から這い出る。確かに地下に続く階段のようなものがあった。段差には血痕の跡が残っており、いやな雰囲気が漂っている。

「Ready。どうやらまだクリアじゃなかったみたいだな」

「そうみたいだ」

 パソコンをしまったガスターも近寄る。すでに突入準備はできているようだ。

「ではいくか。道が狭いから襲撃に備えろ」

 バンパーはそう言って階段を下っていく。それに合合わせて僕らも慎重に下って行った。

                 △△△

 地価は思った以上に広く、かつ暗かった。見た感じだと倉庫のようだが、シベリアで見た祭壇室のような飾り付けがあったから

「祭壇室のようだね」

 地面にはどこかに向かって伸びる血痕があり、僕らはそれに沿ってクリアリングをしていった。地下に入ってから数分。たぶん2~3分ぐらいのときだろうか。僕らは廊下の突き当りにたどり着いた。

「ここが一番奥なのか?意外とあっけなかったな」

 カルイが残念そうに言う。こいつはいったい何を求めているんだ?

「とも言い切れないな」

 地下に入ってから始終黙っていたガスターが口を開く。しゃがんで壁の一か所を見つめている。

「その心は?」

「仁、入れ」

「??????」

 唐突な宣告に戸惑う僕。そしてその周りでガスターの意味が分かったメンバーたち。そんな彼らの視線が怖い。ガスターがさっきから見つめていたのは通気口。体格がよく、高身長のバンパーたちは通れなさそうだが、どうやら僕は通れそうだ。

「マジで言ってるの?」

「俺はいたって真面目だ」

 とりあえず身をかがめて穴を見る。そこまで長い通気口ではなく、どちらかといえばに作られたと思えそうな穴だった。穴の奥には広い空間が広がっており、壁が若干赤い気がする。内装はシベリアの祭壇室・トラストの祭壇室とそっくりだ。

「……条件がある」

 地面に座り込んだ僕は真顔で言い放つ。

「なんだ?」

「来月の弾薬代を負担してくれること」

 バンパーとガスターは一瞬嫌な表情をしたが、すぐにいつも通りに戻った。おそらく答えは‘‘Yes‘‘だろう。僕も覚悟は決めたんだ。少しでもカルトについての情報を得れるならなんだってやる。

                △△△

「起きろ!」

 その一言で僕は目が覚めた。ここはどこだ?何があったんだ?

『お前は地下の祭壇室にいる。脚を踏み違えて頭を打って気絶した』

 ダストから何があったかの解説が入る。でも僕の中で何かが引っかかっていた。脚を踏み違えた記憶もないし、頭を打った記憶もない。祭壇室に入った時の記憶だけが残っていた。それとそこで何かを見た記憶も……あるはずだ。なのに思い出せない。

「大丈夫か仁。これはなんだ」

 ハスがピースサインを僕に見せる。

「2だ。ごめん。気を失ってしまったみたいだ」

「そうか。ていうか、なんで?」

「ダストによると頭を打ったみたい」

「そう……」

 立ち上がった僕はあたりを見回す。正面には絵画が壁に描かれており、僕には理解ができなかった。後ろには開いたドアがあり、壁にカモフラージュされていたみたいだ。どうやらメンバーらはこじ開けて入ってきたみたい。

「ねぇ光君。あの壁画、何なのか分かる?」

 近くで捜索をしているメンバーを見ながら、光君に尋ねてみる。最近知ったんだけど、光君は宗教とか民俗信仰とかを大学で勉強していたみたいだ。

《はい師匠。今画面に映っている壁画のことですか?》

「うん。何なのか理解したいんだけど、あいにく僕は理系大出身なんでね……」

《まぁ、任せておいてください。画面のデータを僕のデバイスで検索に掛けますので、少々お待ちください》

「うん。任せたよ」

 その間僕は壁画を見るとしよう。そこには中心に黒を基調にして描かれた神らしき人物(おそらくカルトの信仰対象)がいて、その右には人、左には頭だけの何かが描かれていた。

「なぁ仁。チョイッとこれを見てくれ」

 横からカルイに肩を叩かれ、振り返る。そこには3個ほどの木箱があり、中には大量の瓶が入っていた。

「中は空だ。おそらくガス兵器の入れ物か何かだろう」

 確かに見た目はシベリアに合ったガス兵器の容器とうり二つだった。

「ここにもある。それと鋳造装置的なものも」

 反対サイドからバンパーも声を上げる。どうやらここは鋳造室の役割も担っていたようだ。ふと地面に書類が落ちているのを発見する。一部が黒塗りになって読めなかったが、だいたいの内容は分かった。

「ふ~ん……ガスの成分表ね……」

「そういや研究所で押収したガスについて話してなかったな」

 バンパーが立ち上がってしゃべりだす。結構長かったから箇条書きでまとめさせてもらうよ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


・正式名称は不明。財団内では‘‘P4‘‘と呼ばれている

・押収した資料から試作品と判明。さらに強力な完成品が存在しているとのこと

・同型はトラスト市で僕が食らったものと同じ。毒性は強くないが、精神異常を引き起こしやすい

・大量生産が可能


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「俺が覚えている限りだと、これが完成品の成分表と同じだった気がするな」

 手に持った資料をひらひらさせながら言う。この部屋の中にはガスなどはないため、既に運搬されたと思われる。

「だからロシア機甲部隊がいなくなったんだな」

「あぁ、ガスの運搬のために消えたんだ」

 一通り探せるものは探したんだ。そろそろハイドアウトに戻るとするか。僕らはそう考え、鋳造室から出て、地上に上がっていった。

《師匠師匠》

「はいはい」

 無線から光君の声が聞こえてくる。おそらく解析が完了したのだろう。

《解析完了です。先ほどの絵画の中央にいた人物。予想通り‘‘ジャノウド‘‘でしたね》

「やっぱり」

《ただ、一か所が黒塗りされてたんですよね》

「黒塗り?」

 何やら面白そうな内容だ。

《はい。ジャノウドの名前の横が黒塗りになってました。一応‘‘D‘‘から始まるなにかは分かったのですが……》

「‘‘D‘‘ね……そもそもジャノウドって何かわかるの?」

 僕は教団の主神がジャノウドであるか分かるが、そいつがどんな神なのかは分からない。

《えぇ。ジャノウド。世界真理教の主神。この宗教自体がヒンドゥー教の派生らしく、ヒンドゥー教では‘‘ジャガンナート‘‘とも呼ばれています。

 誰にも止められない巨大な力、圧倒的な破壊力を有しており、教団の聖書では未来予知能力もあるといわれています》

「ふ~ん。未来予知ね~」

『なんだ?』

「なんでもない」

 こいつも持ってるんじゃね、と思いながら話の続きを聞く。もうそろそろで地上に戻れそうだ。

《ただジャノウド自身では現実改変が行えないという弱点があります》

「というと?」

《確定された未来を変えるすべはあるが、その術を行うことができない。ということですね。誰かに未来のことを伝えて、そいつに改変させることは可能ですけど》

「結局改変能力はあるってことか」

 僕はため息をつきながら、階段を駆け上がっていった。もしカルトが未来を読めているとしたら……そんな考えが脳裏によぎった。

「今は忘れておこう」

 僕は自分に言い聞かせて、最後の一段を上り切った。

                △△△

「てことで代金です」

 財布からルーブルを取り出して、ガルーダさんに渡す。彼は慣れた手つきで確認していき、満足げな顔をした。

「ぴったりだ。で、これがお前の欲していた防弾プレートだ。それとレーザーデバイスの予備バッテリー」

「ありがとうございます」

 プレートを今着ているプレキャリに差し込み、ズレないように固定する。これである程度被弾しても大丈夫なはずだ。

「ところで仁。お前はいつ行くつもりだ?」

「はぇ?」

 急な質問に素の声が出てしまう。

「はぇじゃねぇよ。ライトハウスだよ。ライトハウス。ロングビーチにある灯台のことだ。ライトキーパーのタスクを終わらせたんだろ?そろそろ情報を回収するべきじゃねぇか?」

「あ」

 いわれてみればそうだ。すっかり忘れていたよ。浄水場制圧タスクから一週間たった今日。日本から離れて一か月が経とうとしていた。そろそろケリをつけないとね。

「明日には行こうと思います。今日はもうそろで夜になりそうですし」

 F46Tに取り付けていたレーザーデバイスのバッテリー交換を行う。ついでにグレネードの補充もしないと。

「そうか。まぁ、がんばれ」

                △△△

 ハイドアウトに戻ると、バンパーらがいないことに気付いた。

「ねぇ、メカニクスさん。バンパーらはどこに行ったか知ってますか?」

 ガンスミステーブルでMP5をいじっていたメカニクスさんに行方を聞く。

「あぁ、あのロシア人か。彼らはセントラルシティに向かったみたいだ。どうやらタスクがあるみたいでね」

「ふ~ん。タスクかぁ」

 ガルーダさんから受け取った話も聞いていないから、財団からの任務だろう。久しぶりに、彼らが特殊部隊であることを思い知らされた。任務が終われば、また任務。普通の歩兵部隊じゃねぇな。

「あいつらもすごいもんさ。先週の制圧任務終わってから、財団の任務しに行ったり、国連軍に混ざって制圧任務をしたり……まるで化け物だ」

 彼はストレッチをしながら言い続ける。僕はその間、無言で銃をラックに掛けて、部屋の整理をした。

「それとあの猫の傭兵君。お前が任務の時はオペレーターだが、普通に戦闘もできるもんだからビビったよ。今もタスクしに行っているし」

 言われてみればパソコンの前に光君はいなかった。彼もすごいもんだ。財団に来てからというと、みるみるうちに業績を伸ばしていき、財団の中でもトップ層に近しい戦闘能力を持つようになった。

「それに比べて僕は……」

 ヘッドセットと帽子を外し、机の上に置く。どこからともなく劣等感が込みあがってきた。確かに僕は財団の中でトップを誇る戦闘能力を持っている。任務の成功率も高い。ただ、負傷率やあまりにも危険すぎる行動回数なども含めて考えると、やっぱりバンパーらの方が優秀だ。

「あまり落ち込まない方がいいぞ。変に落ち込むとストレスにつながって、思うように動けなくなるからな」

「分かってますよー」

 棒読みの言葉を返しながら、簡易的ベットに倒れこむ。プレキャリを脱ぎ忘れたせいで、背中にポーチや無線の圧力がかかる。

『いい加減にしろ。変に悪い方に思考を巡らせるな』

そのもののお前が言うな。クソ悪魔」

 ポーチから鎮痛剤を取り出して飲み込む。全身から苦痛が消えていった気がした。

「まぁ、いくら思考を巡らせたところで何の意味もないけどね。すでに決まり切った事実だ。僕にそれを変えることはできない」

『じゃあ、未来を変えろ。少なくとも世界が教団によってめちゃくちゃにされる前にな』

「うん」

 そう来たらここにいる暇はない。ベットから飛び起きた僕は背伸びをした。

「うん?どっかに出かけるつもりか?」

「ロングビーチに行ってくる。ライトキーパーのところだ」

 僕の言葉に彼が困惑する。

「ライトハウスに行くのか?今から?」

「Yes」

「WTF……夜になるっていうのに?」

「そんなの関係ない」

「そうか……まぁ、俺にお前を止める理由なんてない。他のメンバーにも言っておくよ」

 彼は横に合った無線機に手を取る。僕はさっさと準備をしてハイドアウトから出た。スマホを取り出し、BTRのドライバーさんに連絡を入れる。

「さて……ここでの任務もそろそろ終わらせるか」

『できるのか?お前だったもう少々時間がかかりそうな気がするが?』

「お前は本当に味方か?」

『それはどうかな?俺は悪魔だからな』

 ダストの言葉を適当に受け流す。構っている時間はないんだ。

「では、行くとするか」

 チャージングハンドルを引いた時の金属音が空に響いた。

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