【第九話】Take and Escape(前編)

 そろそろ周りが暗くなってきた日没頃、草木をかき分けながら僕とドラファさんは、着々とLABO正面ゲートから見て左側にある崩落現場に向かっていった。天気は薄く霧がかっている、僕にはよさげだと思う天気。

「敵に当たるのですか?この天気で」

「えぇ、当たりますよ。なんだったらカウンタースナイプの心配もないほど霧がかっているんで、心置きなく撃てますよ」

「わたくしは狙撃には詳しくないのですが……とりあえず仁さんの腕前は確かっていうのはだけは分かります」

 ところどころ雑談しながらこれからLABOへ総攻撃を行うという緊張感を緩和させていった。ただ一つだけ消えないものがあった。よかったのだろうか?ドラファさんを連れてきて……もともと僕らともなんも関係なかったのに?そんな疑問が頭の中で巡る。

「よかったのですか?命の危険があるのについていて」

「いいんですよ。助けるべきものがある人がすぐそばにいるっていうのに、その横にいるわたくしが見て見ぬふりしてられるはずがありません。これが人間の道徳というものですかね?」

 そうやって微笑みながら首をかしげる。本当に優しい人だ。

《こちらHQ、持ち場についた。そちらはどうだ?狼くん。》

 カインから無線が入った。そろそろだとは思っていたが、予定よりも若干早い気がした。どうやら僕を除いたほかの部隊メンバーは持ち場についたらしい。総攻撃まであと20分、さっきまで消えていた緊張が再び舞い戻ってきた。

「あと少しで持ち場につく。お前のせいで消えた緊張が戻ってきたよ。」

 カインへの嫌味をこめて返す。こうやって軽口をたたき合うのもストレスだらけの職場で働く時の必須スキルさ。

《ちょうどいいだろ。緊張感がないお前は精鋭でも何でもないドジ狼だからな》

「ぐぬ、ぐぬぬぬぬ…」

 事実だったせいで反論もできず、僕はうなっているしかなかった。

《とにかく準備をしろ。お前の銃声に合わせて総攻撃をする。へまするな》

「分かっている。また後でね」

 そう言って僕は通話を終了し、ドラファさんと持ち場に向かっていく道を再びたどり始めた。

                △△△

「作戦開始まであと3分です……仁さん」

「どうしたのですか?」

 スコープに近づけて偏差を調整してた顔を横に向ける。

 ドラファ:「いや…怖くないのかと思いまして…ついてきた私が言うのもあれなんですけど」

 そう言って彼は何事もなかったかのように双眼鏡を持ち直して前を向いた。

「そりゃもちろん怖いですよ。今から命を懸けて戦うのですから」

 顔の表情筋が緩んでいくのが体感できるぐらい僕は穏やかにしゃべった。意識的に緩むのではなく、条件反射的に。この話をするたびにゆるんでいく。

「でもそれが誰かの明日の命に代わるなら……僕は喜んで懸けますよ。それが雪だったらなおさら」

「でも…あなたは傭兵ですよね?確か傭兵は金さえもらえれば何でもするような人たちだった気がするのですが…そこまで情が深いものなんですか?」

「確かにそのような人もいますよ。もともと傭兵は金稼ぎ目当てでやっているようなものです。でも」

 腕時計を確認して前に顔を戻す。スコープのレティクルの先にLABOの警備をしていると思われるスナイパーカルトの頭を捕らえていた。

「どんな大きな母集団の中にも、例外っていうものがあるでしょ?」

 タァァァァァン!!!

 サプレッサーでも隠し切れない銃声が夜の空にとどろく。これが総攻撃開始の合図だ。左からは数発の曳光弾が見えたと思ったら、機銃の重くて体の芯に響くような銃声が鳴り響いた。多分ハスだろう。

「ワンダウン!」

 レティクルの先から真っ赤な血しぶきをカルトが出したのが見える。すぐ横にいた他のスナイパーカルトも異変に気付き頭を隠した。ただ頭を隠した場所はトタン板だったため

「トタン板ごときでラプアマグナム弾を防げるとは甘い甘い!」

 空薬莢をチャンバーから排出し、次弾を装填する。敵の頭のおおよその場所を予測し発射する。

 タァァァァァン!!!

 トタン板に防がれててもわかるぐらいの血しぶきが上がる。スコープから目を離すとLABOの建物の向こうから見方が発射したと思われる榴弾が数発飛来してきている。LABOの西側には財団の陸上部隊である‘‘WOLF陸戦隊‘‘が戦闘をしており、LABOの東側には先ほど合流した4名のメンバーと僕を含めた17人(それとドラファさん)が全員待機している。

 対するカルトの人数は斥候部隊によると三千前後のようだ。決して侮れない人数だが練度と装備品の質ではこちらが勝っている。

「ドラファさん。崩落現場に行きますよ」

「了解です」

 崩落現場付近の敵を砲撃に合わせて片付けたら、残りがハスの弾幕に注意が向いているすきにLABOの崩落現場に滑り込んだ。

                △△△

「しっかし暗いですね。電気通っていないのかな?」

「ジョージアさんによるとここの電気は別で独立しており、そこのブレーカーが下ろされているとのことです」

「ブレーカーねぇ……配電室はどこやら」

 崩落現場を乗り越え、電気の供給の止まった旧資料保存倉庫‘‘A-1‘‘に入った僕ら。まずはブレーカーを下ろして電気を供給しないと。幸い、ブレーカーがついていないないだけで電気そのものは配電室に通っているとのことだ。確か崩落現場を乗り越えて右手側にあった気が……

 「仁さん。配電室から何かの気配を感じます。」

 おっとぉ?

「十中八九カルトですね」 

「まだ気づかれてなさそうですから、いったん放置で。念のためこれを……」

 ジョージアさん曰く、閉ざされている旧資料保存倉庫はLABO内部の他の空間と一つのゲートでつながっているという。開けるのは簡単だが開けるときに配電室のブレーカーを下げる必要があって、その際にサイレンが鳴るとのこと。そこが一番の難所だ。サイレンが鳴った時に必ずカルトがこちらに様子見に来るだろう。

「これは……C4ですか?」

「遠隔式の。敵が出てきた瞬間に爆散だよ」

 配電室前の通路にC4を仕掛けた僕は、ゆっくりとゲートに向かって歩いて行った。

                △△△

「しっかし、おっきなゲートだな~」

「ここは物資搬入口や駐車場への入り口も兼用しているらしいので車が通れるようにしたのではないでしょうか」

「どこ情報?」

「横の看板情報です」

 ちらっと横を見るとLABOの内部構図が貼ってある。それはジョージアさんが僕たちにくれた内部地図よりももっと詳細に記載されているものだった。

「……」

「どうかしましたか?」

「いえ。なんでもないです」

 そうと願いたかった。ただの小さな心配事。‘‘小さな‘‘で済んでほしかった。外からはいまだに味方がカルトと銃撃戦を繰り広げているのがわかる。

「ゲートは動きそうだから…ブレーカーを下ろしに行きますか」

「そうですね。時間もないですし、そろそろ行かないと」

 ブレーカーがある配電室はゲートからそこまで遠くはなかったから戻るのは苦痛ではない。苦痛ではないけど……別の問題があった。

「これ……いかにもやばそうなものが出る予感しかしないと感じているのは僕だけかな?」

「これは……あいにく賛同しかしようがないですね」

「せめて夢であってほしかった……」

 ここの配電室は過去にデータバンクの役割のしていたらしく、中はテニスコート一面分ぐらいの広さはあった。そしてその中にはデーターはないものの、重装備兵と思われるカルトの足音がいくつかしていた。

「なんでここに重戦車がいるんだよ……」

「どのみち、配電室に入る必要がありますね」

「ブレーカー下げるにはそうするしかないですね…僕が先導しますのでついてきてください」

 僕は配電室のドアのドアノブをつかんだ。

「気をつけてください!もしかしたら私たちの気配を察してドア前にいるかもしれません!」

「ふぇ?」

 ドラファさん、忠告ありがとう。でもね、あと一秒早かったらこんなことはなかったと思うんだ。それと僕の危機感がもう少し働いていればね。

It's the Foundation!財団の野郎だ

 目の前には、一生思い出したくなかった重戦車がフルカスタムされたM4A1をもってこっちを見ていた。

「仁さん!」

ダァンダァンダァンダァンダァン!!!

 運よく、ドラファさんが素早く反応し、カルトに重傷を負わせてくれたおかげで九死に一生を得た。すぐさま崩落現場を超えるときに持ち替えておいたMP7の照準を奥の空間の銃戦車カルトに合わせる。

 ダダダダダダァァァ!!!

 MP7の銃声が配電室内に響き渡り、もう一人がこと切れる。

「まだいます!」

「フラッシュ行きます!」

パァァァァン!!

「Fuck!」

 ドラファさんが投げたフラッシュバンがうまく刺さったのか、敵が奥の空間に引いていく。それに乗じて僕も配電室内に侵入。着実に敵の逃げ場を消していった。

「いた!足足足足足!!」

ダンダンダンダンダン!!

 壁をちらっと覗いた先には敵の足が見えた。すぐさま足を破壊すべく連射し、見るにも無残な姿にしてしまった。

「Aaahh!! My leg!! Aaahh!!」

「なんか……ごめん。すぐに楽にするから」

『一周回ってサイコパス』

 あまりにも痛すぎたのか、敵は悶絶しダウン。罪悪感が襲ってきたので、すぐさま脳天を撃ち抜いて楽にしてやった。

「ようやくクリアした……さてブレーカーを下げるか」

 クリア済みの配電室の最深部に向かって歩く。内部地図によるとそこにあるようだ。

「ブレーカーがある配電盤ってどこにあるのですかね」

「確かこの先にあった気がします。あ、あれですね」

 ドラファさんが指さした先にはブレーカーと思わしきレバーが見えた。近づいてみると確かに僕らが捜していたブレーカーだった。本当だったらブービートラップとかあってもおかしくないのだが、その時の僕はそんなことを気にもせずブレーカーを下ろそうとした。

「ッ――――――――――!!!!!!」

 手首から背中、頭に電気が流れてきて声にもならないような叫び声を発しながら僕は倒れこんだ。ブレーカーのレバーに電流が流れていたのだろう。今振り返ったらとても愚かな行動をしていたものだと実感した。あの時は何を考えていたことやら。

「だ、大丈夫ですか!」

「ば、ばうにゃか(ど、どうにか)」

 感電したせいで声が震える。何とか立て直して、近くにつながれてあったコードを外し、電流を止める。電流が途切れたのを確認した僕は、すぐにドラファさんに声をかけた。

「ブレーカーを下ろしてください!そして敵の襲撃に備えて!」

 ドラファさんがブレーカーを下ろして瞬間、施設内に耳の鼓膜が破裂しそうなほどのサイレン音が鳴り響いた。

「足音!」

 ゆっくりと開いたゲートの向こうから複数の足音が聞こえた。いくらうるさくても僕には足音を聞き分けるだけの張力は残っている。すぐさま速爆グレを構えて安全ピンの抜く。そしてゲートの向こうに投げ、身を隠す。

 バァァァン!! うあぁぁぁ!!

 断末魔の声が聞こえたと同時にドラファさんと同時にリーンをして残りの敵を掃討する。

《サイレンが鳴ったから成功したようだな!早く雪を助けろ!どうやらカルトがここを爆破するみたいだ!》

「爆破ぁ!?なんでだよ!」

《近くに大量の爆薬が仕掛けられているんだ。おそらくここにあるすべての書類や計画、それと彼らの秘密兵器を俺たちに知らせないようにするため。タイムリミットはおおよそタイマーによると1時間、無駄話はいいから早くしろ!》

「解除はできねぇのか?」

《ダミーのが多すぎる。おそらく本家を解除しないと止まるどころか、そのまま爆破しちまうだろうな。まったく無駄にいいもん準備してんな》

 苦笑いしているカルイの声が聞こえる。どうやら解除は無理のようだ。そうなると僕は余計急ぐ必要がある。タイムリミットはあと1時間、それまで雪を助けて脱出しないといけない。雪がいると思われる祭壇室に僕はドラファさんを引き連れて走っていった。

                △△△

 ガッシャン!!バァァァン!!

 ダァァァンダァァァン!!ズダダダダダァァ!!

「誰だよ!ここに爆弾を設置した馬鹿野郎は!」

 屋根は爆発によって崩落し、僕らはそのような危ない場所で命を懸けて戦っている。周りは火の海になっており、火の粉が素肌をさらけ出した腕に降りかかる。いくら火に耐性があるといっても熱いものは熱い。それでも僕は熱さを我慢してトリガーを引き続けた。

「ラストワン!」

「ヘッドもらったぁ!!」

 ズダァァァン!!

 9×19mmが一直線の弾道を描いてカルトのバイザーを貫く。さすがはAP弾。高い貫通力でバイザーもものともしなかった。

《雪は見つかったか!》

「まだ!でももうすぐだ!」

《それじゃ早くしろ!こっちは建物が崩落してきたから援軍と撤収する!すまねぇ!》

「いいんだ。早くLABO出ろ。残りは僕がやる」

 無線を切った後、僕はドラファさんを見た。ここからは元凶となった僕がすべてを終わらす必要がある。そのためにも無関係なドラファさんを一刻も早くこの危険な場所から移動させる必要がある。

「ドラファさん。ここまでありがとうございました。残りは僕自身が処理しますので、あなたはここから外に避難してください」

「仁さん…なぜそういうのですか?」

「本当のことを言うとカルトのヘイトを買ってしまったのはシベリアにいた僕のせいなんです。そして雪がさらわれたのも、みんなが危険な目に合っているのも僕のせい。だから……」

 僕は戦場にいても忘れない笑顔をドラファさんに向けた。

「だからその責任は僕が処理する必要があるんです」

 僕は銃を持ち直す。そして近くにある非常ドアを開けた。こっから道なりに沿っていけば外に避難できる。

「ドラファさんはここから外に向かってください。それとこれ」

 僕はラジオポーチにしまっていたトランシーバーをPTTスイッチから外し、ドラファさんに渡した。

「外に出たらバンパーたちに連絡してください。そしたらカインが電波の逆探知で見つけてくれると思います」

「本当にいいのですか?あなた一人で」

「いいんです。自分の物語は自分でエピローグを書き切りたい主義ですのでね」

 そういって僕は祭壇室に向かっていった。火災によるLABOの崩落の音でほとんどの音がかき消される中、うっすらと聞こえた気がした。


Soldier兵士よ。, see you on anotherまたどこかの battlefield.戦場で


 それはまるでKRP社に所属していた頃、やめる直前に上司から聞いた言葉のようだった。今となっては名前や顔すら思い出せない上司の言葉。その人はまるで……

「まさかとは思うけどね」

 まるでドラファさんだった。目つきからしゃべり方、立ち方まで似ていた。ただ唯一顔が思い出せなかった。上司に話しかけられたら答える。それが僕がいた時の常識だったため


Good luck幸運を。. Until we meet またいつかagain someday会えるまで.」


 僕も小声で返した。

                △△△

「ブラックカードキー……カインがいればハッキングで一発なのにな~」

 僕は愚痴りながら壁につけられているカードキー用のスキャナーをにらむ。今僕がいるのは祭壇室(旧研究室)がある研究棟だ。運が良かったのかこちらではまだ本館みたいに爆発や火災による崩落は起こっていない。ただところどころ迫撃砲の砲弾跡があったため僕は顔をしかめた。

「ったく……会社のマスコットの嫁さんがいる棟に砲弾当てやがって…帰ったら怒ってやる」

 そんなことよりもスキャナーだスキャナー。今僕はLABOカードキーを持っていないため研究棟に入れない。ドアを爆破させる案もあるがあいにくここは今にも壊れそうなLABOだ。下手に衝撃を与えない方がいいだろう。ではどうすればいいんだ?扉からは入れない。かといって破壊するのはダメ。本当にどうすれば

『ダスト内を通ればよくね?』

 悪魔の声がささやいてくる。比喩表現でもなんでもなくガチの悪魔が

「嫌な予感を感じるのは僕だけ?」

『それしか方法はないと思うが?』

「いや!カルトの誰かからカードを奪って……って言っても誰が持ってるかもわからないし」

『言ったろ?ダストを通って行け』

「ぐぬぬ……初めてお前に負けた」

『嘘つけ。初めてじゃねぇだろ?お前の記憶を引っ張ってきてやろうか?』

「やめろ」

 ダスト(悪魔のね)との会話を切り上げて、近くの入れそうな換気扇を見つける。ナイフを使ってクイッと、てこの原理でカバーを外して中に入った。

「あ、光だ」

 ダストはそこまで長くはなかった。しばらくハイハイしていると出口が見えてくる。研究棟につながっている換気扇のところまできて、ORIから拝借してきた鉄パイプをファンの羽根と羽根の間に差し込んで回転を止める。そこからは力業でファンをカバーごと破壊して研究棟内に転がり込んだ。

「うわぁ……遺体が散乱している」

『俺にとってはご褒美だけどな』

「黙っとけサイコパス」

 研究棟内は職員が虐殺されたのか、床に横たわって死んでいた。そこら中に血だまりができており何か所かは固まってないのかぴちゃぴちゃと踏んだ時に音が鳴った。

「最近に殺されたのもいるのか?」

『おそらく。多分研究とかでこき使われて、用済みになったから消されたんだな』

「ご冥福をお祈りいたします……」

 死体をよけながら研究等の中へと歩いていき、祭壇室を探し求める。

「たしか祭壇室は二階東階段の横にあるってマップであった気が…」

 戦闘であいまいになった記憶を探りながら僕はLABOの研究棟内を渡り歩いた時々、カルトよりも良質な装備を着ている敵(ここではとあるゲームから名前をぶん捕ってレイダーと呼ぶ)と交戦エンゲージすることもあったが、僕の方が強かったため何楽処理することができた(高価で強力な弾薬もあったから回収して自分で使うか売り払う予定)

 階段に差し掛かった時、さっきまで沈黙を保っていたダストが急に語り掛けてきた。

『あのさぁ……さすがにおかしくないか?』

「どういうこと?」

 僕は研究棟の東階段を上がりながら答える。

『研究棟はカルトらにとってとても大事な儀式を行う場所やそのために使ういけにえを置く場所なのにさ……』



 言われてみれば確かにそうだ。いくらレイダーという強い敵がいても合計でせいぜい10人弱。ほかの区域と比べればとてつもなく少ない護衛の数だ。

「確かに……もしや罠か?」

『分からない。でも警戒はした方がよいと思う』

「でもそう一筋縄に行かないんだよなぁ~僕って」

 二階に上がって階段の横を見る。すぐ左手側にスキャナーとドア、そしておそらく防弾ガラスと思われる祭壇室内を見れる窓があった。すぐに駆け寄って中を覗く。

「雪!」

 ガラスの先には確かに手足を縛られた雪ともう一人、同じく手足を縛られ床に倒れていた獣人の男性がいた。

「彼は……誰?」

『分からん。それよりどうにかしてドアを開ける方法を考えろ。どうやらここはブラックカードキーと言われるカードキーが必要みたいだ』

 普通のカードキーすらもない僕がブラックカードキーというよく分からんものを持っているわけがない。悩んでガラスに頭を近寄せたとき、雪がこちらに気づいた。僕が助けに来たとわかったのか目が一瞬輝いたがすぐに顔を青ざめて慌てだす。向こうの声はわからないがそれでも何かがあるのはわかった。

「もしや本当に罠?」

 そう思った瞬間、ガラスに後ろから誰かがナイフを突き出してくるのが見えた。すぐさま回避行動を行い相手の腹に足をけりこむ。ナイフが手から外れたときに奪い、そのまま頭に差し込んで処理。

「足音なかったなぁ……もしややり手か?」

 一連の動作を終えた後、突如として床や壁から色のついた気体が出てきた。

「な、なんだこれ!」

「これはこれは……すばらしい身のこなし。さすがは元最強PMCとして恐れられていたWBF財団の精鋭。油断してても隙がないですね」

「……誰」

 よく分からん高身長野郎が出てきたと思えば、よく分からんことを言ってくる。すぐさま距離をとって銃を構えた。が、突如と体の動きが遅くなる。

「わたくしはガイルタ・ジャンク。ここであなたと初めて戦い」

「……これは何なんだ?いったい何がしたい?」

 僕からの質問に反応せず、彼はガスマスクを顔につけた。彼の声が聞こえにくくなる。

「あなたとの最後の戦いにもなります。私の勝ちでね。それでは我々の新兵器の世界へようこそ」

 気体は毒ガスか!と思ったころにはすでに僕の首元までガスは充満している。体が鈍くなっていく。頭で判断できても体が動かない。

「くそったれ……」

 気づけば周りの空間はガスによって充満していた。

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