~最浅部~
【第一話】あれ?これもう事故じゃなくね?
「ぶえっくしょん!ズズッ…さ、寒い」
今僕は地下にある駐車場に向っている。なんで駐車場に向かっているかというと、この施設には1番ゲートと2番ゲートがある。そして先に派遣された機動部隊の音声記録によると、地上の入り口の1番ゲートが爆発の衝撃により破損して開かないとのこと。ただ地下にある駐車場の2番ゲートはまだ開くことができるだそうだ。
「あ、あった!Aウイングへの入り口。早く入らないと」
地下駐車場を数分間歩いた後、僕はAウイングを見つけた。Aウイングとは2番ゲートがある【システム管理区域】の名前。
開きっぱなしの2番ゲートをくぐった僕は、しばらくしてとある問題にぶつかった。なんとAウイングのデータバンクに向かうためのドアが開かないのだ。ここを通らなければ先に進めないんだよな……
「こんなこともあるんだ……サイアク」
開かないドアをもう一度押してみる。鍵がかかっていて開かないようだ。
「ったく……どうしようかな」
さて、普通の人ならばあきらめて撤退し、別の入り口から入ることを検討すると思うが……
「まさかこんなにも早く出番が来るとはな」
僕は持ってきていた折り畳み式のスレッジハンマーを構えた。一般的にスレッジハンマーは何キロもあると思われているが、こいつは1キロぐらいの比較的軽いもの。そのため携帯してもそこまで邪魔にならないのだ。ちなみに折り畳み機能は後付け。個人的にこっちの方が携帯性がいいんだ。
「おりゃ!」
ガッシャン!
勢いよくハンマーを振り、両開きのドアが大きな音を立てて開く。無事に鍵の部分を破壊できたようだ。襲撃に備えるためにハンマーを地面に放り投げ、
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
F46T。僕の愛銃。簡単に言えば‘‘アサルトライフル‘‘詳しく言えば‘‘.300BLK弾を撃てるようにしたM4A1‘‘
.300BLK弾は、普通のM4A1が使う弾よりも弾速が遅いもの。その代わりに弾のサイズは大きく、発砲音はとても静か。ちなみに弾のサイズが大きいため、人体内にとどまりやすくなり、より多くのダメージを与えられる。ちなみに弾速は遅いものほどサプレッサーと相性がいいんだ。
今回は屋内での戦闘が予想されるため、フラッシュライトとドットサイト、反動制御のためのフォアグリップと消音のためのサプレッサーをつけてきた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「敵は……いないのか?」
目に見える範囲の全ての通路をクリアリングした僕はダストに尋ねる。
『分からん。とりあえず本部に連絡を入れておけ。それがベストだろう』
着ているプレートキャリアについていた
「さて、任務の続きをしようか」
~【Aウイング】研究所倉庫室兼システム管理区域~
ドアを潜り抜けた僕はフラッシュライトを点灯させながら廊下を歩いていく。しばらく周囲を警戒しながら歩いた僕は、データバンクルームに出た。たくさんの機械があったが、それと一緒に約70から80人ぐらいの職員の死体もあった。
「うぉっぷ!いくら戦場慣れしていても一度にこんなに死体を見かけることはないな。せいぜい十数人だけだし……」
死体の中には銃で武装した警備員が数名おり、それらにはたくさんの銃傷があった。
これだけの人数、更には銃で武装した人間まで混ざっていることを考慮すると、一人で相手取るのは無理がある。
敵は最低限でも十数人、下手したら施設全体で百人いるかもしれない。
「こうなると機動部隊が音信不通になったのはその‘‘大勢の人‘‘に殺されたからか?」
『可能性はあるな』
「そしたら爆発事故じゃなくて、爆破テロになるね。でもなんで爆破されたんだ?全く見当もつかないな」
ダストと今ある情報で推測できることを共有しながら、死体を避けてデータバンクルームを通り過ぎる。
『ところでどうするんだ?敵の多数と思われるが、対するこちらは頼りないお前ひとりだ。
「さてと……まずはこのAウイングから他のウイングに行くために安全装置を切らないとね」――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
安全装置。緊急時にウイング間のゲート封鎖を行うための装置。コンピューターの誤作動防止のため、操作は全て手動となっている。
音声記録によるとAウイングから移動した後に何者かによって起動されたらしい。誰かはわからないけど、その人物はあの‘‘大勢の人‘‘のだれかで間違いないだろう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『安全装置の切り方はわかるのか?』
「もちろん聞いてきたよ。プレキャリに付けているスマホにも情報はダウンロードしてきたからね。僕はやるときはしっかりやる人なんだよ!」
『それを証明できれば信じるのに』
「すぐに証明してやるから」
十字路に差し掛かったそのとき、複数の足音が聞こえてきた。
「敵か?」
自分から見て左側から4人の足音が聞こえてくる。そのうち一人は重武装兵だろうか。足音がとても大きかった。
チラッ
少しだけ頭を出して、敵かどうか確認する。
「やっぱり、四人で重武装兵が一人いたな」
どこの組織かはわからなかったが、
「こりゃあ敵だな。ここに僕以外が派遣されたとも聞いてないし、そもそも知らない部隊だし」
そのとき、彼らのうちの一人が僕の方を指さして銃を構えた。
「ばれたか」
顔を壁に隠して、
『敵に置きエイムをされているというのにどうするつもりだ?作戦はもうあるのか?』
「もちろん。打開のキーはこのフラッシュバンだよ」
敵はゆっくりと展開しながら近づいてくるが僕は冷静を保つ。
「なぁ、ダスト」
『なんだ?』
「お前の言っていた証明が早速できそうだよ」
ピンッ
フラッシュバンの安全ピンを抜いて、敵に向かって投げだす。
パァァァァンン!!
「Fuck!!」
敵は回避行動をしようとしたが、どうやら間に合わなかったようだ。鼓膜を貫くほどの爆音と共に、まばゆい閃光が放たれる。敵の反応から考えるに、フラッシュがキレイに刺さったようだ。
「
壁から
タァァンタァァンタァァン!!! ビシャァァ
重装備のやつ以外を華麗なフリックショットであの世に葬った。僕のモットーは‘‘敵に反撃させずに、なるべく無駄弾をなくしていく‘‘。だからフルオートでぶっ放すよりも、一発一発狙って撃つ方が好きなんだ。見ての通り、ここでも一発づつ撃っている。
『わぉ。全員ヘッショ。やるじゃん』
「言ったでしょ。やるときはしっかりやる人だって」
残すは重武装兵のみ。重武装兵はガトリングガンの圧倒的な火力と防御力を手にした代わりに、重量のせいで足がとても遅くなっている。そして奴は今、フラッシュバンによって視界を奪われている。
「銃で撃って無理そうなら、近接キルするのみ!」
見たところ、奴は首と頭の付け根の間だけ守られていない。いくら外側が硬くても、中身は所詮人間。ナイフを突き刺せば簡単に殺せる。
タッ!
ナイフを取り出し、相手の首を狙って飛びかかる。視界を奪われた重武装兵は僕の攻撃から逃れるはずはなかった。
「
首元にナイフを当てて、横に切り裂く。首元からは大量の鮮血が噴き出し、壁に血痕を残した。
ドサッ
ここまでわずか5秒。
「もう少し早く動けたかも」
敵を倒し終わった僕は、ナイフについた血を振り払ってケースにしまう。しまい終わった後、僕は彼らが一体何者なのか知るために、彼らのつけていたマークをスマホに入れた会社のデータベースで調べた。
「世界真理教……?カルト集団なのか?」
『詳しくは書かれていないな。でも十中八九カルトだろう』
「まぁね。普通の宗教団体だったらこんな装備を持ってるはずないもん」
死体からヘルメットを外して観察する。ヘルメットはFASTヘルメット(軍用品)であり、高そうな四眼ナイトビジョンがついていた。
「うへぇ~。高価な装備品だな~」
『もらえば?』
「もらっても獣耳が邪魔でヘルメットをかぶれないよ。やっぱり帽子が一番」
僕の帽子は獣耳用の穴をあけた特別なもの。こうすることで耳が邪魔で帽子が被れない、ていうことがなくなる。
前にヘルメットにも同じような穴をあけたけど、耐久力が落ちた。そのため、‘‘どうせもろくなったから帽子でいいや‘‘と考えるようになり、帽子をかぶっているのだ。
カチャ
マガジンを外して残弾数を確認する。三発撃ったのは覚えているけど、覚え違いもあるから念のため。
「ほぼフル。
チャージングハンドルを引いてチャンバー内に弾が込められているかどうか確認する。
「しっかり入っているね」
チャージングハンドルを戻して、マガジンも戻す。残弾数は30連マガジン×6でおおよそ180発残っている。しばらくの間、弾不足になることはなさそうだ。
「最悪ハンドガンもあるし」
こちらは後32発。銃は45口径のガバメントだ。こいつにはマイクロドットサイトとフラッシュライトをつけた、プチカスタムを施している。
『そろそろ移動しろ。ここの戦闘音を聞きつけて別の敵部隊が来たら厄介だぞ』
「はいはい。分かったよ」
銃を構えなおして、安全装置のある場所のAウイングとBウイングを結ぶゲートに向かって歩き出す。
△△△
「ここだな、二つのウイングを結ぶゲートっていうのは。さてと、肝心の安全装置を探しますか」
安全装置を見つけるために使った時間はそこまで長くなかった。ゲートの近くには小さな警備室が併設されており、その中に安全装置は設置されていた。
カチャ
「どれどれ……安全装置を解除するためのパスワードはっと……」
スマホケースからスマホを出して、マニュアルを確認する。パスワードは覚えていたものの、この装置は入力ミスをすると1時間入力できなくなってしまう。だから間違えないようにするために確認したのだ。
《ピピッ パスワード入力完了 2分後にゲートは開きます》
『2分後に開くのか。しばらくの間は待機だな』
ダストが少し気の抜けた声でしゃべりかける。ただ僕はまったく休めるような状況ではなかった。
「よく休憩しようと思うな。敵が来ているというのに?」
タッタッタッタ……
耳を澄ましたらようやく聞こえるほどの小さな足音が5組、こちらに忍び寄ってきている。おそらく先ほどの戦闘音を聞きつけたのだろう。厄介なもんだ。
「5人かな?重武装兵がいなさそうなのはありがたいけど」
『どうするつもりだ?逃げ場はないと思うが?』
僕はもう一つのフラッシュバンを握りしめて答える。すでに安全ピンに指がかかっていた。
「何ばかげたことを言っているんだ?もちろん殺す。それだけさ」
敵が警備室のドアまであと2mほど。ここで僕は安全ピンを外してフラッシュバンを投げる。
パァァァァン!!
フラッシュが炸裂した瞬間。敵が一人入ってきた。これは想定外、思った以上に敵がドアに近づいていたのだろう。ドア前に待機していたせいで銃を構えられないから、素早くナイフを抜き出して切りかかる。
「お一人様ご来店!」
ビシャァァ!!
「グハッ!!」
赤黒い返り血が顔に降りかかるが気にせず続行。残りは四人。フラッシュは入ったはずだ。視界は奪いきれなくても耳鳴りはあるはあるはずだろう。
「ドア前ファイトは狭いからハンドガンで対応!」
F46Tを下ろし、ホルスターからガバメントを抜いてドアの外に体を乗り出す。
ダァァァンダァァァン!!
華麗な二連ヘッショで二人を葬る。あと二人だ。この調子でやりきるぞ。
『グレを握っている奴がいるぞ!』
「了解!」
頭を出すとフラッシュバンの爆音にビビったのかグレを構えたままの敵がいた。僕の方に投げようとしていたらしいがそれは愚策。投げるなら遮蔽から投げないと狙われるからね。
ダァァァン!! バタン
投げさせまいと、すかさず頭にエイムを合わせてトリガーを引き、45口径弾が相手の首を粉砕させ、真っ二つにする勢いで飛んでいった。
「あと一人!」
「Damn you!」
グレ持ちを倒したとき、ラスト一人が僕の視界外から格闘を挑んできた。おそらくフラッシュをもろに食らって銃を落としたからだろう。‘‘拾っている暇あるなら殴った方が早い‘‘そうやって考えたのだろうか。動き的に素人らしいから、しこうっも素人のそのもだった。
「うぐ!」
といったものの、銃声で敵に気付けなかった僕は、顔面に右ストレートを食らってよろけてしまう。後ろに数歩下がって、首を振って気を保つ。急いで反撃しようと思ったら、殴られた衝撃でハンドガンを落としてしまったことに気付いた。
「One more time!」
「させるか!」
敵のこぶしを避け、相手の腹に殴り込む。続けざまケリも入れ、警備室の外へ蹴り飛ばす。敵が地面に倒れたときに、僕は落としたハンドガンを拾い上げた。相手も頑張って気を保ち、死んだ味方から武器を取ろうとする。
「終了」
照準を合わせた瞬間、敵も同じタイミングで味方の死体からから
ダァァァンダァァァン!!
無機質なコンクリートの空間に二発の銃声が鳴り響く。僕の弾丸は敵の頭を見事に貫き、地面に突き刺さる。そして、敵の弾丸は僕の左側を通り抜けた。
「オールクリア」
『ナイスだ。いろいろ問題もあったがな』
「否定はできないね」
敵を全員倒した僕はようやく休憩ができると思っていた。が、世の中は全くもって僕を休ませる気はなかった。
バァァァァンン!!! ガシャン!
警備室の外から地面を揺らすほど大きい爆発音が鳴り響く。
「な、なんだ?」
おそるおそるドアから顔を出すと、そこには天井から落下してきたと思われるコンクリートの塊があった。いったい何が原因で落ちてきたのかはわからなかったが、大まかな予想はついていた。
「これって、さっきのグレ持ちの敵のグレだよね」
『多分な』
「にしては爆発するまで遅延が長いな」
『第二次世界大戦時には遅延が十秒ほどのがあったけどな』
「へ~……何で知ってるの?」
『聞くな』
おそらく僕のところに投げようと構えていた敵のグレが爆発。それによって天井が崩落したと思われる。ただあくまで予想だから、実際はどうなのかはわからないけどね。
「もう大丈夫かな?」
ガバメントをホルスターにしまってF46Tを構える。そして天井の様子を見ながら、僕は警備室から出てきた。
『まだ気を抜くな。もしかしたら崩落の衝撃が別の部分に伝わって、この空間そのものが崩れるかもしれないからな。』
「怖いこと言うなよ」
ダストに文句を言いながら、ついさっき開き始めたゲートに向かって歩き出す。ゲートはとてもゆっくりと上の方に開いていった。
パラパラ……
上から小石が降ってきた。嫌な予感がする。本能がそう伝えていた。そのとき
ガシャン!ブワァァァ!
僕のすぐ後ろで屋根が落下し、あたり一面に砂埃が舞った。視界は砂埃によって不良、後ろでは鉄骨の折れる音やコンクリートが落下してきて割れる音が鳴り響いていた。
「あぶねぇ!」
命の危険を感じた僕はゲートに向かって走り出す。そして僕の後ろではどんどん崩落が続いていた。
『な?言ったろ?』
「な?じゃねぇんだよ!」
崩落に飲み込まれないようにひたすら走り続ける。一方、ゲートの方はさらに追い打ちをかけるように、動作が止まってしまった。
「なんでそこで止まるんだよ!」
地面とゲートの間はものの30㎝ぐらい。くぐって入るにしても時間がかかる。そして、もうすぐでこの空間全てが崩落してしまう。迷っている暇はない。
「間に合えぇぇ!!!」
ゲートにたどり着いた僕は、スピードを緩めずに地面とゲートの隙間をヘッドスライディングで潜り抜けた。
ガシャン!!!
後ろでゲートが閉まる音がする。多分崩落で、ゲートを巻き上げる装置が壊れただろう。あと数秒遅れていたら、今頃がれきに良くて生き埋め、最悪跡形もなくつぶされていただろう。
「なぁ……なぁ、ダスト……」
『なんだ』
「これ事故じゃなくて、やっぱり誰かが仕掛けたテロ攻撃か何かだろ」
『多分な』
安全を確保し、地面に寝そべって深呼吸をする。爆発、音信不通の機動部隊、謎の敵部隊。今ある情報で僕は最大限の推理をしたはずだ。
「多分じゃなくて、絶対テロだ」
そう、あの爆発は事故ではなく誰かが意図的に起こした事件なのだ。
……今のところはね
現在時刻 19:38
「ところでこっちも照明付いてないんだ」
『どっかで断線しているかもな。でもお前には関係ないだろ?』
「闇の中でも見えるからね」
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