【第六話】タスクは終わらぬどこまでも
「うぐっ!」
落下時に受け身をとるが、それでもある程度の衝撃が伝わる。敵PMCは……
「ぐぅ……追ってきてないね」
もし彼らが正常の脳を持っていれば、二階から飛び降りようとは思わないだろう。ひとまず逃げる時間は稼げた。
『ひとまずは射線を切ってから、止血しろ。地味に何発か被弾しているのは分かってるからな』
「はいはい、分かってますよ~」
「こちら仁。光君、聞こえるか?」
《10-4。仁さんどうぞ》
「
《10-4。地下は安全だと思いますので、早めに行った方がいいですよ》
「あぁ、了解。それでは10-7」
《10-7》
マンホール脱出を開始することを伝え、Vectorを構える。マガジンは4本中2本が空、一本は紛失、ラスト一本は30発フル。サイドアームはまだ一回も使ってない。
「運がいいことに、両方とも45口径なんだ。あとでマガジンに弾込めしよ」
意識を搬入口に向ける。敵が来るとしたらそこからだ。ブービートラップや地雷があれば便利なんだけど、今はない。何だったらあっても設置する余裕もない。
「早く脱出するか」
『なるはやでな』
急ぎ足でマンホール脱出の場所に向かう。マンホール、と言っても実態は工事中の下水道。まだ工事が完了しておらず、マンホールのふたが開いたままで放置されているため、脱出口として使わせてもらってるんだ。
「敵は来てないね」
二階から飛び降りられ、意気消沈したのかどうか知らないけど、先ほどのPMCは追いかけてきてなかった。周りにはスコンドラーもいない。安全に帰還できそうだ。体は無事じゃないけど……
「うぅ……体が痛い」
『いろいろ無茶したからだろ。馬鹿野郎』
「確かにそうだけど」
周りの安全を確認し、工事現場に侵入していく。足元を注意しながら進み、開かれたままのマンホールに到着した。
「装備品の確認済み。さて、地下に行くぞ」
梯子に手をかけ、慣れた手つきで下って行った。
△△△
下水道は思った以上きれいだった。その代わり暗いけど。
「下水道イコール汚い、という先入観が書き替えられたね」
『同意』
天井から滴る水音を聞きながら、下水道の道を歩き続ける。若干地面が濡れているせいで、歩くたびにぴちゃぴちゃと鳴っていた。脱出は意外と気楽、意外と気楽なんだが……
「気楽だけど、道が分からんくなるから後々気楽じゃなくなるんだよな」
『マップは?』
「下水道のマップがあるとでも?」
絶賛迷子になりかけていた。もし君が下水道で歩くのは楽と考えているのであれば、それはNOだ。下水道は分岐点が大量に存在しているせいで、行き当たりばったりで曲がっていくと迷子になってしまうんだ。
「ひ~かりく~ん。道教えてくれ」
PTTスイッチを押して、光君に救助要請を頼む。このまま歩いて行っても迷子になるだけだ。
『諦めが早いな』
「現実をよく見るって言ってくれ」
無線を使用してから数十秒後、光君ではない別の人が無線に応答した。
《テステース。狼傭兵君、久しぶりだな》
「カイン!久しぶりだぁ!」
まさかのカインだった。そう言えばアメリカで任務を遂行していたメンバーの一部が援軍としてきたとかないとか……
《俺だけじゃねぇ。バンパー、ハス、ガスター……その他もろもろ全員だ》
「全員?一部じゃなかったっけ?」
《俺らが上に抗議して全員来た。いつもの
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
いつもの
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「――歩いたところは跡形もなく消えそうな野郎が来たもんだ……」
頭を振って苦笑いする。それに合わせてカインも無線越しに苦笑いした。
《ところで下水道の道に関する話なんだが……》
ずれていた話題を戻し、下水道のルートの話になった。
《確かこの地下道にはマップはないんだよな……BTRの待機場所は分かるか?》
「エリア3から出て、北部に進んだ先の廃駅に止まっているって」
《廃駅か。ちょっと確認するから待ってろ》
無線が途切れ、周りは再び静寂に包まれた。歩きながらガバメントのマガジンから弾を取り出し、Vectorのマガジンに込めなおす。こうなると分かれば予備弾薬を持ってくるべきだった……
《仁。そのまま直進し続けろ。しばらくしたら左手側に緑色の扉が見えるはずだ》
「分かったけど……それどこにつながっているの?」
《浄水場。そこから上に上がる道があるんだ》
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
浄水場。その名の通りの場所。国連軍によると、少し前まではKD社が根城にしていたというが、今は分からない。主に3つの建物と浄水施設で構成されており、近くには貨物駅、周囲は高い壁と有刺鉄線に覆われている。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「これまたクリアリングの箇所がたくさんだ」
これから起こる出来事に、思わず苦笑いする。
《まずは合流してからだ。通信終了》
「10-7」
《—―なるほどな、10-7》
無線を切り、まっすぐな道をひたすら進み続ける。
「さて……地上に向かうとしますか」
△△△
僕は今、浄水場から抜け出し、集合場所である廃駅にきている。途中の出来事は省略しようか、特筆すべき点はないしね。簡単に言うのであれば、浄水場内のスコンドラーが襲撃→返り討ちにする。こんな感じのことがあったんだ。
「おぉ、来た来た。遅いじゃねぇか」
バンパーの威勢のいい声が届く。彼はBTRの上部ハッチから体を乗り出し、手をブンブン振っていた。
「ごめんごめん。途中で道に迷ってね~」
適当にごまかしながら鎮痛剤を飲む。これで臨戦態勢に入れた。敵が奇襲いてきても問題ないはずだ。
「さて仁。お前は今帰りたいと思っているはず。そうだろ?」
「そうだけど?逆に帰らないの?」
BTRから下車してきたバンパーの言葉に、僕は首を傾げた。タスク品も回収した、弾薬も底をつきかけている。これ以上帰宅しない理由なんてないはずだ。
「タスクがある以上帰れない」
「……また?」
バンパーの予想外の言葉に訝しんで聞き返す。僕はタスクを終わらせた、なのにタスクがまだあるという。もしや新タスクか?
「お前にとってはまただ」
「……楽?」
「いや……」
バンパーは間をおいてから口を開く。嫌な予感がする。なんとなくキルタスクの気がするんだ。スコンドラーを○○人倒せとか……
「この浄水場の制圧タスクだ」
「……」
予想よりも斜め上な回答が帰ってきて、口をぽかんと開けたまま立ち尽くす。僕の聞き間違いか?この浄水場を制圧だって?そしてなんでだ?
「聞き間違いではない。しかもこれはとても重要なタスクだ。いや、
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
非合法作戦。英語ではBlack Opsと呼ばれている。ブラック・オペレーションの略で、非公式作戦を意味している。政府機関や軍、準軍事組織による隠密活動・秘DM作戦であり、民間団体や私企業による活動も含まれる場合もある。
基本的に戦闘に関する記録は残ることはなく、作戦の全貌が明かされることもほぼない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ブラックオプス……ごめん、吐き気がしてきた」
「ハァァ!?ちょ、なんで!?」
殺気に満ちた目をバンパーに向けながら言い捨てる。こちらが重傷であることをわかってて言っているのか、この脳筋ロシア人野郎は?
「弾薬の心配をしているのか?大丈夫だ、お前が弾薬の入手性が悪いといったF46TやMPPRの予備弾薬は大量に持ってきているから」
「そういうことじゃないんだ」
BTRのハッチを開け、中に乗り込む。中にはハス、ガスター、カルイの三人が座っていた。空席を見つけて倒れこむ。
「よぉ、狼傭兵君。お疲れのようだな」
「今すぐふかふかのベッドで爆睡したい気分です」
ストレスで痛む頭をさすりながら答える。他のメンバーも各々質問をしてきたが、何を言っていたのは覚えていなかった。おそらくその時の僕も、適当に受け流していたのだろう。
「それはいったん後だ。仁、すまないが作戦は行ってもらう。‘‘お願い‘‘ではなく‘‘強制‘‘だ」
「……Fuck」
小さく暴言を吐き、横に置かれた僕の愛銃であるF46Tをそばに近寄せ、MPPRのストックを折りたたんでバックに入れる。弾薬切れのVectorの役目はここで終了だ。こっからは.300BLKと.338ラプアマグナム弾でいかせてもらう。
「それで、任務の詳細は?」
「まずはこれを見てくれ」
ガスターがノートパソコンを取り出し、一つの動画ファイルを再生する。どうやらUAVを用いて、浄水場上空から撮影した動画のようだ。ビデオには浄水場の建物と思われる建造物に、ロシア軍らしき部隊が入っていくのが映っている。それもたくさん。
「これは……ロシア軍?」
「あぁ、間違いねぇ。こいつらは
セントラルシティでも出会ったBTRのドライバーが、僕の後ろから言う。彼も同じロシア軍だから、言っていることを本当だろう。
「少し見にくいがこのBTRの塗装は間違いなく俺らのだ。実際俺のBTRも同じ塗装だしな。そして最近、一部の機甲部隊の行方が分からなくなったという情報がある」
「つまり……僕らは正規軍相手に戦いを挑むってこと⁉」
「That`s right!」
ハスが大きな声で答える。
「That`s right!じゃねぇよ!ほぼほぼ負け戦じゃん!」
いくら僕らが最強の傭兵部隊と言っても相手は正規軍。人数もわずか五人なんだ。どう転がったって負けイベントにしかならないはずだ。カルトやPMCならまだしも……いやそうでもないか
「などと言っております同士バンパー」
「なるほどシベリア送りだ」
「二回目はもういいって!」
BTR内でギャーギャー騒ぐ僕らを横目に、ガスターとカルイはノートパソコンで何やら作業をしていた。
「お前ら、お遊びは終了だ」
ガスターの一言で車両内が静かになる。彼は咳ばらいを一つし、ノートパソコンの画面をこちらに向けた。
「仁。とにかくタスクは受注した以上、やらなければ無作法というもの。こうなった以上、俺らには‘‘殲滅‘‘しかやることはない」
「ぐぬぬ……」
僕は諦めて今の境遇を受け入れる。そのまま僕らは、ガスターの説明を聞いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
タスク名:
タスク概要:最近、行方不明になったロシア軍の機甲部隊が浄水場で目撃された。どうやらカルトとKD社の連中に寝返ったらしく、浄水場の建物にガス兵器が入っていると思われる木箱が搬入されていたみたいだ。
お前らには反逆者の殲滅と、搬入物の回収を頼みたい。そこで得た情報は好きに使ってもらって問題ない。
タスク目標:浄水場一号館、二号館、三号館の制圧。タスク品の回収
分かっていること:敵にはロシア軍機甲部隊、カルト、KD社のPMCがいるとの
こと。信頼性はあまり高くない。
ガス兵器を所有している可能性が高い。
屋上に機銃席が設置されている。残弾は不明。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ということだ。これは国連とロシア連邦の願いでもあり、俺らが必要とする情報が艇はいるかもしれないタスクだ。やらないわけにはいかない」
「なるほどね……」
僕は何度もうなずいて、ガスターの意見に賛同する。
「ただ……僕のタスク品をハイドアウトに届けてもいいかな?」
「「「「あ……」」」」
僕の一言にみんなが凍り付く。今、僕のかばんに入っているのは、ライトキーパーからアドラスらに関する情報の交換材料だ。なくしてしまったら死んでも償えない代物。
「それなら俺が届けてやる」
BTRドライバーさんが口をはさむ。確かにそうだ。この中で唯一の輸送能力を有している。しかもめっちゃ安全な。
「まずお前らを浄水場周辺に送る。その後はタスク品をハイドアウトまで送る。そしたらまた来る。それでいいだろ?」
「えぇ、それなら大丈夫ですね」
バックからタスク品を取り出しながら言う。ひとまずタスクの心配はなくなった。次は作戦だ。タスクをするのはいい。でも相手が相手だ。まじめにやらなければ簡単に死ねる。いくら残基があったも無理だ。しかし聞いたところで意味はない。
「作戦はいたって簡単だ。その場についたら言う」
バンパーはいつもそうだ。彼は作戦が簡単だと思ったらその場でしか言わない。そして僕らも理解したうえで何も言わない。
『作戦を言わないとかばかばかしい』
「戦友のきずなとでも呼んでくれ」
こうして準備するものは準備して、僕らは浄水場の制圧に向かいに行った。
「
「あぁ、We`re unstoppable。だ」
△△△
「まずは一号館の制圧だ。屋上に上がるためには中の階段を使う必要がある。制圧後、仁は屋上に上がって他の屋上にいる兵士を倒してくれ」
「了解」
「一号館制圧後は間髪入れずに二号館へ進撃。仁はその間、三号館の方を警戒してくれ」
ボルトアクションライフルのMPPR‘‘アーリー・グレック‘‘を構えてうなずく。僕らは今、浄水場敷地外に広がる森の中にいる。数十メートル先には浄水場の門番としてスコンドラーレイダーが二名。敷地内には、ここから見るだけでも5人以上の巡回兵がいる。
一方、敷地外から一号館に伸びる外周沿いには巡回へはおらず、塀もコンクリートなので反対側から見られない。
「巡回兵が移動したら、門番にバレないように移動するっぞ」
今は夕方。雪もまた降り始めてきたころで、視界は良いとは言えない状態だった。そして僕はそれに合わせて帽子を白色のものに、白柄迷彩ハーフギリースーツを用意してきた。一号館から他の建物までの距離はおおよそ300以上はある。視界不良からハーフぎりーとダブルコンボがあるから、敵がこちらを視認できる可能性は低いだろう。
「それでは、タスク開始だ」
「「「「ラジャー」」」」
巡回兵がいなくなったときに足早に移動する。そのまま塀沿いに移動し、一号館の裏口についた。
「カルイ。ミラーガンで中を見てくれ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ミラーガン。ドアの隙間や曲がり角の先を覗くことができるガジェット。別名としてオプティワンドとも呼ばれる。シンプルながらも非常に便利な道具で、アメリカの法執行機関も愛用とのことだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「了解」
カルイがミラーガンを取り出し、ドアの下部にある隙間に差し込む。そのまま数秒が経ち
「奥に開いたドアが一つ。敵影なし」
「了解。突入だ」
ドアをゆっくりと開け、小部屋に入る。どうやらここは管理人室らしく、机には乱雑した書類と、パソコンが置かれていた。ふと部屋の外から人の声が聞こえる。
「ロシア語だ。多分軍人の野郎どもだな。グレネード用意」
「C4でいいか?」
「は?」
カルイの発言にバンパーが首をかしげる。
「C4?どこにある」
「ここ」
「……」
そういえば忘れていた。このカルイってやつ、どんな作戦でもクレイモアとC4を持っていく爆弾魔だったんだ。そうすると……
「今からここを地獄に変えてやるぜ!!」
ピッ
「弾幕オンライン!」
この浄水場は地獄になるはずだ。カルイのC4投擲とともに、ハスのM249が火を噴く。
Brooooooooooooooooo!!!!
「遮蔽を確保して!」
バァァァァン!!
C4によって大破したジープを火を噴く。建物の中心を挟んでの合戦が始まったみたいだ。
「右から来てる!」
タァァンタァァンタァァンタァァン!!!!
弾幕が貼られていない右側から来る敵を押しとめて、着実に数を減らしていく。ここでタイムロスをすると、他の建物から敵の援軍が来るはずだ。早くしないとまずい。
「リロード。カバーしてくれ」
残弾の減ったマガジンを交換し、引き続き殲滅を行う。敵もかなり減ってきたが、未だに軍人らしき人物はいなかった。いるのはPMCとカルトだけ。
「仁!ある程度殲滅できてきたから、屋上に上がってくれ!」
C4の爆発からの弾幕によって、多くの敵の反応が遅れて死亡。僕ら全員が遮蔽に隠れたときには、すでに十数名しか残っていなかった。
「残りは?」
「そいつらなら任しておけ……って、すでに全滅したけどな」
カルイが振り返った先には、瀕死の敵を確殺している部隊のメンバーのみ。どうやらこの短時間で全滅したようだ。それにしても弱すぎる。
「見たところKD社の野郎とカルトだ。PMCはロシア支部所属みたいだから、ロシア語をしゃべっていたんだな。俺が早とちりだったよ」
「そう」
となると、正規軍は二号館、もしくは三号館にいるとなる。でも確証はない。
『それならさっさと確認しろ』
「了解」
爆速で階段を駆け上がり、屋上に狙撃銃をスタンバイさせる。外では最初よりも雪がすごい勢いで降っており、人間ではまともにターゲットを捉えられないぐらいだった。
「バンパー。敵の増援は見えてない。それと豪雪だ。移動は注意して」
《情報サンクス。次は二号館を制圧するから二号館屋上と三号館を見張っていて》
「了解。10-7」
《10-7》
無線を切り、引き続き監視を続ける。しかし、全く見えないもんだ。いくら僕らが亜人だとしても、豪雪の中で敵を視認するのは難しい。今目の前に広がっているのは雪、雪、雪。シベリアのことを思い出すよ……
《Outside.誤射注意》
「10-4。見えているから大丈夫」
《引き続きよろしく》
バンパーからの無線が途切れてから、わずか二秒後。スコープに目を戻した瞬間だった。どんな戦争もたった一つの小さな出来事が始まる。一発の弾丸ですらもね。
ヒュン!
『狙撃だ!』
「はぁぁ⁉どっから!」
ヒュン!
二発の至近弾が頭をかすめる。銃声は聞こえない。つまり最低でも200、いや300mは離れているはずだ。でも今の環境だと人を視認するのは不可能に近い。ましてや冬季迷彩を着た人を探すのは不可能を通り越している。
「何で撃ってこれるんだよぉ!」
急いで屋上に設置されていたテントに滑り込み、相手からの射線を切る。相手は現代に転生したシモ・ヘイヘか?そうだとしたら、今生きているのは奇跡に近いはずだ。
『頭を狙うにしては弾が落下しすぎている気がする。相手は亜音速弾を使っているかもな』
「そんな狙撃銃あるの?亜音速弾は.300BLKしか知らないんだけど……」
『DVL-10』
「……え?」
『だからDVL-10』
ダストから言われた言葉に思考が停止する。DVL-10、聞いたことはあるがあまり知らない銃。
「えっと……説明お願いします」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
DVL-10。ロシアのLobaev Arms(ロバエフ・アームズ)が開発したライフルであり、特徴的なサプレッサー内蔵型バレルによって、極限まで発砲音を小さくすることができる。本体重量は5キロを切っており、コンパクトで使いやすい一品となっている。
使用弾薬は12.7×55mm STs-130亜音速弾という大口径亜音速弾。まぁまぁ謎な弾薬であり、財団の中でも使っていた人は見たことがない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『理解できたか?』
「うん。とりあえず面倒な敵というのは分かった。バンパー、狙撃手がいる。12時方向だ。多分DVL-10を使っている」
《分かった。射線に気を付けながら進む》
バンパーたちの敵がいると思われる距離にゼロインを合わせる。詳しい距離は分からないが、とりあえず100mで合わせる。
『で、どうするつもりだ?二号館の方ではもうドンパチしているが?』
「あいつらせっかちだな」
一度建物内に戻り、二階の窓から狙撃を試みる。まずはバンパーたちの援護だ。
「ここら辺から見えるかな……?って、マズルフラッシュしか見えねぇな」
真っ白の雪の中に見えるのはマズルフラッシュのみ。これじゃあ、敵の頭を狙うのは難しいな。まず味方のがどれかも分からないし……こうなったらあれをするか。
「そうするか……」
『そうする……って何をするつもりだ?‘‘動くものは全部敵として打つつもりか?』
「いや、そうではない。ねぇ、バンパー。ハスの機銃にまだ弾は残っているの?」
《急にどうした。ちょっと待ってろ。ハス!!残弾は!》
《まだ大量!!》
ハスの声がけたたましい機銃掃射の音とともに聞こえてくる。まだ残弾は大量。これなら好都合だ。
「それならハス以外撃つのやめて、ハスの後ろに下がって。今から敵を一掃するから」
《はぁ⁉敵の人数はパっと見ただけでも30人近く。正規軍ではなさそうだが、それでも十分脅威だぞ!いくらハスの機銃でも無理がある》
「とにかく下がって!頭ぶち抜かれても知らないよ!」
《Fuck!日頃のストレスで、この狼の頭いかれたのか?》
文句を言いながらもバンパーたちは後ろに下がり、吹雪に映るのはハスの機銃掃射と敵の攻撃のマズルフラッシュだけ。
「さて、It`s a showtime!」
MPPRを敵狙撃手からの射線に入らないように構え、見える敵を片っ端から肉塊に変える。僕らがいる一号館側にはロシア軍の墜落したヘリの残骸や、放置されたBTR。他にもトタン板や有刺鉄線があり、かなり入り組んだ環境になっている。一方で敵がいる二号館は遮蔽が少なく、僕のいる二階からの射線がよく通っている。つまり、
「上から打ち下ろし放題だぜ!ヒャッハー!お前の血は何色だぁ!」
トカルスト市に来てからおおよそ二週間。その間に相当なストレスが溜まっていた。僕はそんなストレスを発散するために、見える敵を片っ端から撃ち続けた。地上にいる敵や二階からカウンタースナイプを狙おうとする敵、巡回から駆けつけてきた敵などなど……あ、もちろん.338ラプアマグナム弾でね。
《なるほどね。お前を馬鹿にした俺が悪かったよ。ハスのマズルフラッシュ以外はすべて敵のものという状況を作ろうとしたんだな》
バンパーが今更だと思う考察を投げてくる。
「はいはい、そうですよ~。おりゃ!」
バンパーの言葉を適当に受け流しつつ、僕は引き続き狙撃を始めた。一つの違和感を引き連れてね。
(結局あの狙撃手は何だったんだ?)
そう思いながら引き金を引く。
『仁。右側から何か感じないか?』
ダストが唐突に話す。彼はいつもこうだ。僕の知らない何かを知っているみたいで、敵も基本はこいつの方が先に見つけている。
「殺気か?」
『あぁ、冷酷なやつが』
『冷酷で、かつ獲物をどんな手でも捕まえようとする意識のある殺気がね』
現在時刻 19:12
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