Rei
零(Rei)は普通の女の子。特に何かになりたい訳でもないのだが、「夢みたいなこと」に憧れる癖があって、数か月周期でマイブームにどっぷり浸かってしまう:
今は「量子論的世界観」に夢中なの。難しいことはよくわからないけど、「量子もつれ」とか「非局所性」とか、何となくお洒落な感じ!時間は流れてないとか、私はここにいるけど、ここにいないかもとか・・・何じゃそれ?クラスきっての奇人変人の薫(Kaoru)が熱く語ってたよ。そのうち「量子エネルギー伝送」とかいう画期的な新技術を開発して、エネルギー問題も食糧問題も地域紛争も全部一気に解決するんだって。発明する前から特許庁に商標登録したそうだから、相当本気みたい。彼ならやってくれるかもね。昨日も、数学の授業中にこっそり数学オリンピックの過去問を解いてたようだし。成功したら私も雇ってもらおうかな。
そういえば、今夜は兄の昂(Noboru)が妙にハイテンションだったな。月曜日からずっと、大恐慌とリーマンショックを同時に体験したような落ちこみようで、半径5メートル以内はまるで皆既日食の最中に生霊が現れたような感じだったんだ。それが真夏のシチリア島の太陽みたいにギラギラしてるもんだから、「とうとう壊れちゃったのか」と心配したママがさりげなく聞き出したの。月曜日の国語の授業で本人曰く「あり得ない屈辱」を味わったんだけど、幼馴染の宙(Sora)が有名大学教授の論文を見つけてくれて、今日の自分のプレゼンで昂と同じ趣旨の発表をしたの。で、先生が「素晴らしい!」って絶賛して、その瞬間にクラスみんなで爆笑したんだって。先生ったら目が泳いでたらしいよ。
予め、例の「屈辱」は先生の勉強不足と思考力不足のせいだってことをクラスで情報共有してから宙は授業に臨んだの。やっぱり根回しは大事ね。オトナってブランドに弱いから、参考文献の「有名大学教授」の肩書だけで内容は昂の発表と同じだってことにも気が付かないで絶賛しちゃったんだろうな。国語の先生なのに「同義文判定」もできないのかな。そもそも、生徒の発表内容より、部活の都合や自分の好き嫌いで評定つけるらしいって黒い噂もネットで見たことあるし。まるで「超国家主義の論理と心理」ね。昨日まで毎晩、昂は自分がアリジゴクのすり鉢に引きずり込まれる悪夢を見てたんだって。やっと夕食をフツーに食べれるようになって妹としては一安心かな。
正(Tadashi)先生、いつになったらスマホ返してくれるのかなぁ。パソコンいちいち立ち上げるのタイパ悪すぎ!「正君、ルールを守れって言う前に、守るに値する校則か否かをよく考えてみるように!以上」なんちゃってね。有名大学とか偏差値とか校則とか大手メディアとか、オトナって権威大好き人間多すぎ!そういえば、芸能界のスキャンダルだって、裁判所の判決を新聞やテレビ局が無視したらみんな右へ倣えで「無かったこと」にされちゃって、国連が出てきた途端に手のひら返しでしょ。まるで集団ヒステリーね。「ガイアツ」に弱い日本人とか誰かが言ってたな。
そろそろ良い子は寝る時間ね。また今夜もあの夢を見るのかな。身体がだんだん小さくなって、原子よりも電子よりもずっとずっと小さくなって、とうとう空間の底が抜けて「あっち側」に吸い込まれちゃうの。で、肝心なところで目が覚めちゃうの。毎回同じシーンでね。「想像を超えるものは想像できない」のかなぁ。「あっち側」も覗いてみたいな。きっとアリジゴクよりはマシね。
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As a Sincere Homage to:
エーリッヒ・ケストナー (『飛ぶ教室』)
安部公房 (『笑う月』『砂の女』他の卓越した作品群)
藤子不二雄(A) (『笑ゥせぇるすまん』)
日本のマンガ・アニメ界の伝統
(『機動戦士ガンダム』『新世紀エヴァンゲリオン』に至る稀有な世界観を提示した作品群)
丸山眞男 (『超国家主義の論理と心理』他の日本社会に対する深い洞察)
ニコラ・ジザン (『量子の不可解な偶然 非局所性の本質と量子情報科学への応用』)
カルロ・ロヴェッリ (『時間は存在しない』)
きくちゆうき (『100日後に死ぬワニ』)
嘲笑(わら)う教室 〜 母校へのレクイエム 〜 無名の人 @Mumeinohito
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