Mirai

未来(Mirai)の友達は、シュレディンガーだ。といっても人間ではなく愛用のiPadにつけたデバイス名なのだが。シュレディンガーがあれば、勉強でも遊びでも何でもできる。学校の先生と違って、文句も言わないで何時でも何でも教えてくれる。英作文でも調べ学習でも一瞬で片付くし、最近はChatGPTなんて便利なものができたおかげで、プログラミングや歴史のトリビアまで楽しく自分のペースで「沼にハマれる」ような気がする。


明日の音楽のテストに備えて退屈なクラシックも5回くらい聴き込んだので、そろそろBGMをYOASOBIに切り替えて、推しのYouTuberのチェックの時間だ。現実逃避じゃなくて「人間らしさ」をキープするためのリフレッシュ!


「バイちょ!」突然塾仲間の零(Rei)の声がする。(お調子者の薫(Kaoru)が、10日ほど前に"Bye for now!"の迷訳(「ちょっとだけさよなら」の意味らしい)を思いついて英語の小テストで先生に披露したら悲惨な結果に終わったそうだ。それ以来、校内では「バイちょ!」を国語辞典に載せるべく「新しい日本語を創る運動」が始まった。今のところ賛同者21名。これって、誰も取り残さないって意味でSDGsかも?)


「もう帰るの?」「うん。だってスマホ没収されちゃって不便だから。家のパソコンだけが命綱ね。メールチェックしないと」「正(Tadashi)先生に見つかっちゃったんだって?ドジね」「スポーツタオルと体操着に包んで完璧だったはずなんだけど・・・なぜかバレちゃったんだ。おじいちゃんがクリスマスプレゼントに買ってくれた最新モデルのiPhoneだったのに・・・」「先生って金属探知機でも持ってるのかしら。まさか・・・ね」


「でもこれっていわゆる『ザイサンケンの侵害』っていうんじゃない?法律って難しいね」「DXとか情報人材の育成とかいってるくせに、学校にスマホ持ち込み禁止なんて、今どき何考えてるのかしら」「先生だって辛いのよ。ブラックすぎて採用試験の倍率もダダ下がりらしいし。「できません」て言えない雰囲気なんだって」「そうね。我々若者が労わってあげないとね。「子どもらしく」わきまえて、目をキラキラさせて「ハイッ!」とか前向きなフリして「主体的で対話的で深い学びごっこ」に付き合ってあげないとみんな不幸になるのよね。オトナって大変ね」


「そうそう。ニュースでやってたけど、張り切りすぎた社長さんに誰も「できません」って言えなくて。何十年も「品質検査ごっこ」してたのが今頃バレて結構気まずそうだったよ。働くフリにくらべればこんなのマシな方かもね」「何だか気が楽になってきた感じ!」


零の足音が遠ざかるのを聞きながら、YouTubeのチェックを手早く済ませる。最近、鬱陶しいニュース多すぎ!「失われた30年」とか「ロスジェネ」とか・・・何だかおかしくね?「ごまかしてごまかして自分たちで捨てた30年」とか「人間扱いせずにおいて、コミュニケーション取ってもらえなくなった人たち」じゃないの?昭和なおっさんたち、自己認識甘すぎ!「寄り添って」もらったり「守って」もらったりしたい訳じゃないのにね。絶滅危惧種の鳥じゃあるまいし・・・


シュレディンガーのキーボードを畳みながら未来はつぶやいた。「バイちょ、Boomer !」

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