嘲笑(わら)う教室 〜 母校へのレクイエム 〜

無名の人

Noboru

昂(Noboru)は、加藤周一から森鷗外全集や近現代史の専門書まで、時間の許す限り一心不乱に読み耽った。「数学の問題より難解だなあ」と日頃の不勉強を反省しながらも、明日の『舞姫』に関するチーム・プレゼンテーションでの自分のパートを完成させるべく考え抜いた。尊敬する別の国語の先生にも教えを乞うた。完璧ではないにせよ、自分なりの視点を持ち得た感触だけを支えに、夜更けまで作業を続けた・・・


翌日のプレゼンテーションは、想像もしなかった展開になった。若手の国語教師のある意味「想定の範囲内」の薄っぺらな突っ込みに答えるべく昨夜の「にわか勉強」を必死で再現しようと思案している最中に、クラスが爆笑の渦に包まれたのだ。何が起こったのか全くわからなかった・・・


休憩時間中、口の悪いクラスメートに「推薦入試で医学部受験を目指している奴もいるのに、あんなプレゼンで足を引っ張って連帯責任を負わせるなんて、馬鹿な男だ。主体性も協働性も最低だな」と嘲笑された。聞けば、例の爆笑の原因は国語教師の「訳わかんなくて夜も眠れんわ!」との一言だったそうだ。目の前が真っ暗になった・・・


意気消沈して乗り込んだ帰りの通学電車の中でスマホをいじっているうちに、一年ほど前の新聞記事の見出しにふと目が止まった。それは神戸市にあるN校の国語科教諭へのインタビュー記事だった。安部公房の作品を素材にした生徒との対話。読み終わった後で昂はつぶやいた。「入る高校を間違えたかな・・・」

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