第7話 城下町
「この町はずいぶんと栄えてますね」
ある晴れた日、アンナとダンは王宮からほど近い城下町にいた。リディアナ国は、地域によってかなり貧富の差があるが、ここは城から近いからだろうか。活気にあふれた様子にダンは驚いていた。
「そうね、ここは商人の町で、私たちの城に届けられる物資もだいたいはこの町から持ってきているの。ここで手に入らないものは無いわ」
道の脇には野菜や果物などの食べ物や、生活用品など、出店が多く並び、さまざまな品と人であふれていた。
「よう!アンナ様、今日はあのじいさん、一緒じゃないのかい」
唐突に声をかけてきたのは八百屋の店主だった。ひげ面のいかつめの男である。
「あらトクラさん!」
アンナは親し気に話す。
「ルバートはお留守番よ。今日は新しい護衛を連れてきたのよ」
ダンは頭を下げる。
「ほう、ずいぶんきれいな顔をした護衛だなあ。うちの娘もらってくんねーか」
ガハハと豪快に笑いながら言う。
「ちょっと父さん余計なこと言わないで。お二人に失礼でしょ?!」
店の奥から店主の娘らしき若い女性が顔を出す。
「あら、ニーナさん!お元気そうね」
アンナはニーナの顔を見て手を振った。
「あとトクラさんだめよ、この人にはまだ私のためにはたらいてもらないといけないんだから」
「はははっ冗談だって。」
「そういえばアンナ様のお好きなドライフルーツたくさん仕入れたんだけど、良ければ持って行かない?」
こんなやりとりが店ごとに繰り返されるものだから、なかなか前に進めず、そして俺の両手は前に進めば進むほど彼女への貢物でいっぱいとなっていく。
「アンナ様はよくここに来るんですか?」
ダンは尋ねた。
「そうね、たまに来ているわ。ここが活気に溢れているうちはまだなんとか安泰なんだって。昔ルバートが話してたの。それに色々な物があってみているだけで楽しいじゃない?」
「はい。初めて見るものも多くて興味深いです。」
ダンのその気持ちは本音であった。ラウル国にいたときは、街に出て人々と触れ合ったり、買い物をしたりということはなかった。何より、アンナの笑顔を見ていられるのがダンは楽しかった。
しかし、彼はふと我にかえる。
ーーー自分は彼女を騙している。
この事実は消えることはないのだ。
「・・・・・・この人たちはどこから商品を仕入れてくるんですか?」
ダンは気持ちの揺らぎを取り払うように話を続けた。
「そうねぇ、農家から仕入れる人もいれば、自分たちで狩りをして売る人もいるわ。ただ、全国民が満足に食べられるほどの生産環境がないの」
アンナは少し深刻な表情をした。
「あの川を越えるとスラム街があるわ。治安が悪いからここの人たちは関わりたがらない」
無邪気な笑顔の彼女は、やはり王女だった。いつ何時でも、その行動の目的は国を良くすることにぶれはない。
「この後、そのスラム街にいってもいいかしら?」
「・・・・・・はい?」
ダンは耳を疑う。治安が悪いと今自分で言ったばかりではないか。
「ここで買ったりもらったものをスラムの人たちに届けられたらって思って」
「アンナ様、今は護衛が自分のみです。なにかあったら責任取れませんし、危険な場所に行くのであれば、もう少し準備をしなければ」
「うーん、そうねぇ、普通の護衛だったら危ないかもしれないけど、でもあなただったら大丈夫でしょ?」
アンナのこの無鉄砲さに、ダンは怒りを超えて呆れていた。
「それに何度かルバートたちと偵察には行ってるから土地勘はあるわ」
ダンはため息をつき、自分が羽織っていたマントを彼女に着せた。そして、顔がよく見えないように、フードを深く被せる。
「このマントを絶対に脱がないでください。フードもです」
「何よこのマントは」
そのマントはアンナには大きく、彼女は袖をまくった。
「あなたは目立ちますからね。できるだけ地味になってください。ほら、せめて日が暮れないうちに行きますよ」
アンナは嬉しそうに微笑む。
「あなたってなんだかんだ許してくれるわね」
ふふっと笑う彼女にダンはイライラしながらも、なぜか悪い気分はしなかった。
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