第2話 護衛の仕事
闘技会は中止を合図する鐘が鳴り響き、血相を変えた男たちが、ふてくされた表情の彼女の顔に何やら袋のようなものをかぶせ、その場から去っていった。
観客はざわついている。会場は広い。1番前の席からでも何が起こったのかはっきりとはわからないだろう。
その後、試合はダンの勝利となり、闘技会は終了した。そして、この後のことを係の役人から説明を受けている時に、初老の男性が現れ会話を遮った。
ダンはそのまま執事のような風貌のその男に連れられて、きらびやかな部屋に通されると、そこには、先ほどの女アンナ王女が待っていた。先ほどとは違い、シンプルなブルーのドレスを身に纏っていた。
執事が意味ありげに咳払いをした。ダンは視線を初老の男に戻す。
「お疲れのところ、お呼び立てし申し訳ありません。先ほどの試合にすり替わってでておりましたのは、大変お恥ずかしい話ですが、我が国の王女、アンナ様です。私は彼女に仕える執事、ルバートと申します」
はっとし、俺はひざまづいた。
「先ほどは無礼を働き申し訳ございません。お怪我はないでしょうか」
「頭を上げてください。謝罪すべきはこちらです。本来の出場者になり替わって他人が試合に出るなんて、本来は処刑対象です。」
初老の男性は俺をソファまで導いた。
「どうぞ、おかけになってください」
俺は静かに腰を掛ける。
「本来であれば王族に剣をあげることは死罪に当たりますが、今回は全面的にアンナ様に非があり、ダン様にそのつもりがなかったことは重々承知です。幸いにも、あの場でアンナ様の正体に気が付いた観客はいないと思われます」
ルバートと呼ばれた男は続ける。
「ですので、今回のことは他言無用にしていただきたい。世間に知られるようなことがあれば、王族の恥、そしてあなたの命にも関わることです」
「そんな言い方しなくてもいでしょ」
『王族の恥』という言葉に反応して、アンナが不貞腐れたように口をはさむ。
「今回の件は、墓場までもっていくことを誓います。それに話したところで信じる人もいないでしょう」
俺がそう言うと、ルバートは安堵した表情を見せた。
「ダン様、唐突で申し訳ありませんが折り入ってお願いがございます。あなたの闘いを間近で拝見しましたが、並大抵の技術ではありません。奴隷になられた経緯を教えていただけますか?」
「……元々孤児院で育ちました。その孤児院で基本的な護身術を学び、その後、ある商人の家に買われたのですが、そこでは雑用だけでは無く、主人を護衛できる術を学びました」
ダンはルバートの表情を見る。ルバートは疑う様子もなく聞いていた。
「ところで……なぜ私が女だと気がついたの?」
アンナが口を開く。
「……最初はいつもの組み手にはない違和感を感じました。女性を相手にしたことはありませんでしたのでその違和感がなんなのかはすぐにはわかりませんでした。ですが、あなたの蹴りを腕で受けた時、その感覚で、あなたが男性ではないことに気がつきました」
なるほど、とルバートとアンナは納得した様子だった。
そして、ルバートが唐突に言った。
「その勘の良さと素晴らしい技術をアンナ王女のために使っていただくことはできないでしょうか。本来、あの闘技会の優勝者は宮廷騎士団への入団が許可されるものです。ですので、もしあなたがそれを望んでいるのであれば騎士団を優先していただいて構いません。ですが、もしよろしければ、あなたの力を貸していただきたいのです。」
ルバートは真剣な顔で話す。
そしてアンナも口を開いた。
「ダン、私はあなたが欲しい。私と一緒に来て手を貸して欲しいの。」
ダンにとって、思ってもみない申し出であった。
断る理由なんてない。
彼は二つ返事で快諾をした。
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