第4話 王女の夢


 アンナには夢があった。

 リディアナ国に暮らす国民を幸せにすること、他国との国交を復活させて、より国を発展させていくこと。特に、冷戦状態の隣国、ラウル国とは少しでも早く対話をしたいが、両国の溝はかなり深い。

 ただ、今の彼女にこの国の現状を大きく変えるほどの力はなく、それは父である国王ジークがいる限り、難しいだろう。


 アンナの母、アメリアが7年前に亡くなり、ジークの暴走により拍車がかかった。アンナはそれを止めたいと思っているし、できることなら国王の力になりたかった。しかし、それは難しく、最後に二人が会話をしたのはいつであったか。それも思い出すことができないほどの時間が、両者の間に壁を作った。その壁はもはやどこから壊してよいのかわからに程、厚く、巨大なものになった。


 だから、彼女は今自分のできることを地道にやると決めた。国民とできる限り多くの時間を一緒に過ごし、彼らを知り、彼らの生活を少しずつ変えていきたい。みんなが自立できるように、できることはなんでもしたい。



 そんなときに目の前に現れたこの男は、何者なのだろうか。アンナは考えていた。

 隣で馬車の手綱を引き、アンナの話をもっともそうな顔で聞いている。

 

 1週間、アンナは彼を見てきたが、すべてが潔白な人間でないというのは気づいていた。

 ちらほら嘘が見え隠れするのだ。奴隷出身というのもおそらく嘘だろう。彼が時折見せる気遣いや、発言は奴隷の身のふるまい方ではない。礼儀も心得ているし、教養もある。そしてなにより、アンナが今まで出会った男の中でもずば抜けて強かった。

 アンナは漠然と感じていた。

 何者かはわからない、でも、彼はきっと助けになると。


 だから、ルバートに頼み込んで護衛にしてもらった。


 ただ、彼の素性がわからない中、それが正解だったのかはわからずにいる。信頼できる男と信じたいが、素性を奴隷と偽っている点に不信感は否めない。答えの出ない問に頭を巡らせながら、アンナは目を閉じた。


 今は考えるのをやめよう。自分の納得する答えは、これから作っていけば良いのだ。

 

 

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