第6話 彼の正体
ダンが王宮に来て早くも3ヶ月が経とうとしていた。その間も、アンナは毎日のように城を抜けては各村、街へ出向いて行った。ゲール族の元へも、あのあと2回ほど行き、畑を耕した。
ある夜、ダンは自身の部屋にいた。
どれほどの時間机にむかっていたであろうか。アンナもとっくに眠りについたであろう時間に彼は悩んでいた。
机の上に広げられた用紙には、リディアナ国の内政について、ありとあらゆることが記載されている。
国の実情、ジークの企み、城内部の構造…
そして王女、アンナについて。
そう、これは隣国、ラウル国宛の密告書であった。
(アンナのことをどこまで詳細に記すべきか……)
ラウル国には、ジーク国王を暗殺し、王家を排除した上でリディアナ国を属国にする計画があった。
そう、ダンは元奴隷などではなく、リディアナ国の敵国ラウル国から送り込まれた諜報員だ。
彼の本当の主はラウル国の国王、アデル。
実の兄であった前国王をジークに殺され、若くして即位をした男である。
ダンはアデル国王に王としての素質を感じていた。
リーダーシップと先見の明は前国王よりも優れているかもしれない。
そして、何よりも民の幸せを第一に考え、無差別に人を殺すことを嫌う、王としての揺るぎない信念を持っていた。
そんなアデルの計画が成功すれば、この独裁国家は終わりを迎え、リディアナ国の国民の生活は今よりも豊かになることは間違いない。
彼の目的はリディアナ国王家の失墜に他ならず、民にまで危害を加えるつもりはなかった。
アデルとアンナ、立場は違えども、両者の国民を思う気持ちには共通点がある。
そんなアンナのことをどのように報告するか彼はとても慎重になっていた。
ゲール族との関係をどこまで記すべきか。詳細に書くと、見方によってはアンナまでもが危険人物とみられる恐れがる。
彼女の人間性にまだ確証が持てない。実は何か裏があり、周囲を欺こうとしているのか、それとも本当にあのままの、陰日向のない国民思いの王女なのか。
・・・・・・後者であれば、何かがかわるのだろうか。彼女を破滅という運命から救い出すことができるのだろうか。
救う‥‥思わずそう考えてしまった自分自身にダンは驚く。
彼女がどんな人間かは関係のないことだ。どちらにせよ、この国の王家に未来はないのだ。
ただ、そう言い聞かせるほどに、息が詰まるような感覚に襲われる。こんな自分が嫌になり、窓の外に目をやると、夜空には月が煌びやかに輝いていた。リディアナ国から見る満月はとても大きく見える。まるでそれはアンナの瞳のようだった。
彼はここまで書いた報告書を、鍵付きのケースにしまい、ソファにもたれかかる。もう少し、もう少し彼女を見てからでも遅くない。自分にそう言い聞かせながら、ダンは眠りについた。
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