第26話 仲睦まじい白狐と黒狐の姉妹

 琵琶湖に浮かぶ鳥居を眺めながら、姉妹は過去の出来事について語り合う。それは、烏兎うとにとって有益な情報であり、非常に有意義な時間でもある。こうして黒狐の誤解も解けたことにより、白狐びゃっこは安堵の表情を浮かべていた……。


「それにしても、初めは悪い奴かと思ったけど、本当は仲間想いのいい奴だったなんてね。それを聞いて、なんか安心したよ」

「こん。そうね、瑞獣も人間と同じで、外見だけじゃ分からない。向き合ってこそ、初めて心の想いが伝わるのかも知れないわね」


 烏兎うとの言葉に、白狐びゃっこは微笑みながら答えた。それはまるで、人との繋がりには何が大切であるのか、教え説いているようでもあった。


「じゃあ、せっかく誤解が解けたんだからさ、白面はくめんに気持ちを伝えてみるなんてどう?」

「こん。それは無理な話ね」


「無理? どうして」

「こん。先ほども言ったけど、霊気が感じ取れないからよ」


 烏兎うとの返答により、白狐びゃっこは残念そうに溜息をつく。どうやら、気持ちを伝えたくても、居場所が分からないという。


「えっ、もしかして……消滅しちゃったってこと?」

「こん。そうじゃなくてね、気配が小さすぎて、見つけられないのよ」


「じゃあ、生きてるのは確かなんだね」

「こん。それは間違いないわ」


 白狐びゃっこは自信をもって断言するも、感じ取れない理由について謎であると話す。


「ってことは……他の瑞獣たちも同じ状況?」

「こん。そうなのよ、空狐くうこさまの気配は近くで感じるけど、不思議なことに消えたり現れたりなの」


「消えたり? 現れたり?」

「こん。もっと分からないのは、天狐てんこさま。気配はあっても、黒く澱みを帯びた嫌な感じ……」


 空狐くうこ天狐てんこについて、詳しく事情を語り始める白狐びゃっこ。仲間たちの気配を察知するのは、根気が必要であり不安定な状態らしい。


「ごん。姉さま、それは一体どういうことなのだ?」

「こん。じつはね、天狐てんこさまの霊気が澱み始めた頃かしら。突然、空狐くうこさまの気配にも影響が出始めたのよ」


「ごん。もしかして……?」

「こん。安心して、今のところは大丈夫よ。けど……何かがおかしわ」


 黒狐こっこの疑問に対して、白狐びゃっこは首を横に振りながら答えた。どうやら、天狐てんこ空狐くうこには何か異変が起きているようだ。


「おかしい?」

「こん。そうなの、場所を特定しようとしたらね、何故だか結界で弾かれてしまうの」


「たしかに、それは変だね」

「こん。それにね、ときどき空狐くうこさまの気配だけ、この琵琶湖から感じるのよ」


 白狐びゃっこは周辺で起きている違和感を烏兎うと黒狐こっこに伝えた。しかし、何故そのようなことが起きているのか、原因は不明のままである。


「ごん。じゃあ、なにか分かるまでは、慎重に行動しないとだな」

「こん。そうね」


 黒狐こっこは、空狐くうこ天狐てんこが心配でならない様子。その気持ちを察した白狐びゃっこも、妹の言葉に同意して頷いてみせた。


「こん。そういえば……烏兎うとと出会ったのも、丁度その頃だったわね」

「言われてみれば、そうだったような? っていうか、よく覚えていたよね」


「こん。だって、あの時は本当に驚いたもの。突然抱きしめられて、『君たちのことは、絶対に消滅させない! 僕がいるから大丈夫!』って、大きな声で言うから少し恥ずかしかったわ」

「ごん。烏兎うと、正直に言ってみろ。本当は、私の体を触りたかったんだろ」


 烏兎うととの出会いについて語る白狐びゃっこは、頬を赤らめ照れながら答えた。その隣では、黒狐こっこが疑惑の表情を向け、にやにやしながら何か言いたそうにしている。


「こっ、こ、黒狐こっこ。あれは、わざとじゃなくてね、そのぉ……」

「ごん。どうした、烏兎うと。お前は、にわとりか?」


「だから、ちがっ――。僕はね、君達を天に帰そうとしただけ。決して、やましい気持ちなんてないから」

「ごん。烏兎うと、見苦しいから弁明はするな。慌てるという事は、やっぱり怪しいぞ」


 あたふたしながら、誤解を解こうと必死に説明を続ける烏兎うと。そんな姿を見た黒狐こっこは、呆れながら深い溜息をつく。


「こん。私は、分かっているわ。穢れる前に浄化しようとしてくれたんでしょ」

白狐びゃっこ、ありがとう。君は色々と理解してくれるから助かるよ。かと思えば、黒狐こっこはいつも通りの珍解答。本気で言ってんのか、からかわれているのか、どっちなんだろうね」


「こん。それは勿論、からかわれているのよ。本当はね、妹は烏兎うとのことが誰よりも大好きなのよ。でも恥ずかしがり屋さんだからね、わざと可笑しな事を言って誤魔化しているの」

「ごっ、ご、ご、ご、ごん。――ね、姉さま! それは言わないと約束したはずだぞ」


 白狐びゃっこの暴露により、黒狐こっこは動揺しながら必死に抗議する。どうやら図星らしく、思わず取り乱してしまう。


「こん。どうしたの、黒狐こっこ? 先ほどあなたは、弁解するなと言っていたわよね?」

「ごん。そうですが……今日の姉さまは、とても意地悪です」


 黒狐こっこの抗議をものともせず、白狐びゃっこは逆に微笑みながら問い詰めた。すると妹は、がっくりと肩を落として項垂れる。こうして姉妹たちの会話に花が咲き、楽しいひと時を過ごす烏兎うとであった…………。

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