第10話

 子供を作ろうと決めてから一年、春子はまだ妊娠はしていない。


 三か月前から、春子は週に二日の仕事に移り、病院に通うようになった。


 僕たちに悲壮感はない。


 できなかったらできなくてもいい。


 ただ、やれることはやっておこう。


「なんか記念受験みたいだね」

「記念受験?」


「無理ってわかってて受験する、あれ」

「そんなのしなかったな~」


「私はしたわよ」

「大学?」


「違うわよ。就職」

「どこ受けたの?」


「テレビ局」

「嘘」


「ほんと。アナウンサー職」


 思わず爆笑してしまう。


「マジ?」

「マジ」


「なんで?」

「なりたかったの、女子アナに」


「嘘だろ」

「うっそ~。奈美恵に付き合ったの」


「ああ、あのミスコン荒らし」

「そう、ちょっと美人の奈美恵ちゃん」


 二人の共通の友人である奈美恵は、今は大手の広告代理店の営業ウーマンになり、バリバリと働いている。


「懐かしいな~」

「思い出にしちゃだめよ。私、まだときどきライン来るもん」


「そうなの?」


 派手な奈美恵と引っ込み思案ではないが、決して前に出たがることもしない春子はなぜか馬が合った。


「ときどき火がついたように婚活してるわよ。で、すぐに飽きて、また仕事に走る」

「目に浮かぶわ~」


「変わってないからね、奈美恵」

「すごいよ、変わってないって」


「そうだよね。だから尊敬してんの、私。だから、ずっと続いてんのかな。ほそ~い、付き合いが」

「だな。尊敬は大切だ」


「そうね」


 会話が途切れて、思わず気になっていたことを口にしてしまう。

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