第7話

「最初は二人で頑張ってみようか」

「え?」


「いろいろ調べて、二人で頑張ってみようよ。体温つけたりして」

「う~ん」


「いやなの?」

「いやじゃない。むしろそうしたい。いきなり病院へゴーはさすがにハードルが高い」


「だろ」

「でも、そんなこと言ってられないんだと思う、時間的には」


 そこまで思い詰めてるのか。

 春子にプレッシャーをかけてはいけないと心臓がぶるんと震えた。


 また春子が閉じこもったらどうしようと背筋が寒くなる。


「ちょ、ちょっと待って、そんなに必死にならなくても」

「えっ」


「たしかにスタートは遅いかもしれないけど、そのことばかりにとらわれていたら、うまくいくものもいかないと思うんだ、たぶん」

「う・・・ん」


 半信半疑だ。そりゃそうだ。納得させるほどの理論を持ち合わせていない。

 僕は慌てて言葉をつないだ。


 こうなれば力業だ。なんとしても春子を不安にさせてはならない。


「がんばるから。今よりぜんぜんいっぱいするから。そしたら自然にできるかもしれない。食べるものにも気を配って、夜更かしもスマホもやめて、ジムの回数を増やして、ストレスが溜まってきたら会社も休んで」

「いや、会社には行って。首になったら困るから」


「あ、うん」

「でも、ありがとう」


「うん」

「そっか、そうだよね。あれ、つけなくなったらすぐにできるかもしれないしね」


「うん、そうだよ。ずっとつけてたから、はずしたらいきなりできるかもしれない」

「そうだよね」


「体温とかつけて、タイミングなんかはかったら、さらに倍かもしれない」

「可能性が?」


「うん、さらに倍。はらたいらに千点、さらに倍!」

「大橋巨泉って、古っ!」


「僕はここぞってときは竹下景子にかけてたけどね」

「私は篠沢教授」


「おっ、あんた、意外に勝負師だねえ」

「でしょ~。だから、大丈夫よ。ちゃんと一発あてて、妊娠してみせるから」


「たのもしいな~」


 笑って目を合わせると、春子が抱きついてきた。

 されるままに受け入れる。

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