第6話

「そろそろリミットかなと思って・・・」

「うん」


「腹を決めなきゃなって」

「腹を決めるって」


 大仰な表現にまた春子の緊張を感じた。


「もう自然にできないかもしれないでしょ。ってゆーか、普通に考えたら、もうできないんだよ、たぶん」

「うん」


 僕たちは避妊具を使っていたが、あれはもう必要なくなっていたのだ。

 長く一緒に居すぎて気づかなかった。


「だから・・・作るとしたら・・・計画的にってゆーか、そのお・・・医療の力を借りるってゆーか」

「うん。うん、わかるよ、春子の言ってること」


「やだ、私。あほな子みたいなしゃべり方になってない?」

「なってない、なってない」


「やっぱさ、そのデリケートな話だからさ。なんとなく照れもあるし」

「そうだね。僕も一緒だ」


「そうだよね」

「うん」


「よかった」

「うん、よかった」


 二人でにんまりと目を合わせて笑った。


「すぐに病院に行く?」


 そう聞くと、春子は天井に視線を泳がせた。

 そして、一分ほど黙り込んだ後、


「う~ん」

 と小さくうなった。


 やはりいきなり病院は抵抗があるようだ。僕も同じだから気持ちはわかる。


 知らない人に(医者とはいえ)性生活をほじくりかえされたり、自分の体の中から出た精子や卵子を調べられたりして、あれこれと評価されたり意見されたりするのだ。

 女の人は性器をさらしたりもする。相手が同性の女医でも普段とは明らかに違う行為に躊躇がないはずはない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る