第5話

 それでも明るい兆しもある。もちろん。


 希望や明るさがなければ、人は歩いていけないのだから。


「子供、どうする?」

「え?」


 驚いて思わず高い声が出てしまう。


「なに、そのリアクション」


 春子がけたけたと笑って、僕の肩を小さくタッチするようにたたいた。


 その春子のリアクションも、いつもより大きいと思った。


 緊張して話を切り出したのだろう。


 そう思って、なるべく平静を装って話そうと腹に力をいれた。


「春子は? 欲しいの?」

「う~ん、夏雄は?」


「できれば・・・」

「できれば?」


「ほしいかな」

「そっか。じゃあ、作ろう」


「えっ、そんなに簡単に」

「特別難しいことだっけ?」


「いや、難しいってことは」

「あ、そっか。私たち四十手前か。行為はまだまだ難しくないけど、着床は難しいか」


「着床って」


 思わず苦笑いしてしまう。


 彼女はやっぱり緊張していると思った。


 緊張しているから、普段よりあけすけな話し方になっているのだ。


 春子は繊細で、微妙で、ゆえに優しくて、やはり少女のように傷つきやすいのだ。


 そう思うと、次の言葉が出てこなかった。


 結局、春子を気遣うあまり、その緊張ももらってしまったのだった。

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